閑話「信長、八十代の対話」
安土城が改修されたのは、一六二〇年代のことだった。
佑が資材を提供して、ドワリンが地下の基礎を補強して、日本人の大工が外観を作った。天守は高くなって、内部の構造が整理された。信長が「住みやすくしろ」と言ったそうで、ドワリンが喜んで水道と排水を引いた。
その改修後の城に、佑が久しぶりに呼ばれた。
信長は八十代になっていた。
顔の皺が増え、髪はもう白い。しかし目は変わっていない。あの、全部を計算しているような、しかし計算だけではない、人間としての深さを持つ目だった。
「長耳、お主は変わらんな」と信長は言った。
佑は答える前に、少し止まった。
変わらない。確かにそうだ。五百年生きる宇宙エルフとして作られた体は、四十年が過ぎても何も変わっていない。白髪も、皺も、体の衰えも、何もない。
「変わりません」と佑は言った。
「羨ましいか、と聞かれたことはあるか」
「……ないですね」
「そうか。わしが最初に聞くのか」と信長は言った。少し面白そうに。
佑は少し考えた、羨ましいか。五百年生きることが。
「……どちらとも言えません」
「正直だな」と信長は笑った。短く、しかし本当に可笑しそうに。
二人は茶を飲んだ。改修後の城には、以前よりいい茶道具が入っていた。茶の香りが部屋に広がった。
「長耳」と信長は言った。「わしが死んだ後のことを、少し考え始めた」
「……そうですか」
「信忠は真面目に働いておる。孫の信房も悪くない」信長は茶碗を置いた。「ただ、お主のような相手に慣れていない。最初はやり難いかもしれん」
「慣れます」と佑は言った。「時間がかかるだけです」
「時間がかかる間に、損をさせるなよ」
「私が損をさせるのですか、日本側が損をするのですか」
信長が少し目を細めた。「……どちらでも困る、という意味だ」
「分かりました」
信長はしばらく窓の外を見た。琵琶湖が夕陽を受けて赤くなっていた。
「日の本を頼む」と信長は言った。
佑は少し間を置いた。
「それは──難しいです」
信長が振り返った。
「日本を守るのは日本人であるべきだと思っています」と佑は言った。「外の者が守り続けたら、腐ります。何があっても自分たちで立てる人間にならないと、百年後、二百年後三百年後に困ります」
「……では何もしないと」
「情報と物は、これからも売ります」
「それだけか」
「見守りはしますが、それだけです。でも」
信長が待った。
「……それだけで、充分だと思っています」と佑は言った。「あとは日本人が自分でやります。できます」
信長はしばらく佑を見ていた。
「……正しいな」と信長は最後に言った。「気に入らないが、正しい」
それから信長は少し笑って、「今日も飯を食っていけ」と言った。




