第4話 本能寺の変 介入
夜の京都は静かだった。
シャトルを本能寺から少し離れた空き地に降ろして、佑は単独で地上に出た。五月の夜風は涼しくて、草の匂いがした。地球の、日本の、草の匂いだった。
「……本当に来てしまったな」
呟いてから、切り替えた。感傷は後でいい。
ドローンの制御端末を確認する。三十機、全機展開済み。光学センサーで周辺を確認すると──来ている。明智光秀の軍勢が、本能寺に向けてじわじわと包囲網を縮めている。松明の数から推定して、一万三千。
佑は端末を操作した。
「非致死性制圧、全周囲展開。開始します」
ドローンが動いた音は、ほとんどしなかった。
一万三千人が、ほぼ同時に、静止した。
本能寺の警護の侍が門を少し開けて、そこに立っているものを見た。
耳が、長い。
「……何者」
声が震えた。刀を抜こうとして、手が動かなかった。
「織田信長殿に会いたい」
信長が広間から出てきた。肌襦袢の上に薄い小袖を羽織ったまま、腰に刀を差して。廊下の警護が全員、刀に手をかけたまま固まっている。それを一度だけ見回してから──前を向いた。
庭の先に、月明かりの中で何かが倒れている。
そして庭の向こう──一万三千の軍勢が、一人残らず、静止していた。倒れている。死んでいない。ただ、止まっている。
信長は十秒、それを見ていた。
「……死んでいるのか」
「生きています。しばらく動けないだけです」
信長の目に、一瞬だけ何かが走った。恐怖ではない。あるいは恐怖を超えた何かだ。一万三千の軍勢を一夜で止めた存在を目の前にして、信長の頭が高速で計算しているのが、表情の奥に見えた。
「明智軍の一般兵はただ上の命令に従っただけです。明智軍の幹部の処分はそちらでご自由に」
「……何故助けた」
「取引があります」
長い沈黙があった。
信長は刀の柄に手をかけていた。意味があるとは思えない。しかし手をかけていた。人間として、それ以外の選択肢が体になかったのだろうと、佑は思った。
「……馬で安土城まで戻る。話はそれからだ」
「妙覚寺の信忠殿の所にも明智軍は向かっていました。同じ様に動けなくしてあります」
「相わかった」




