第3話 一五八二年の日本 観測
観測室の窓から、眼下に緑と茶色の列島が見えた。
山があって、川があって、平地がある。海に囲まれた島は、それ自体で完結した世界に見える。農業は可能だ。漁業もある。
「現在時刻の正確な日付は」
「西暦一五八二年六月一日」とライルが言った。「旧暦で言えば天正十年、五月二十八日に相当します」
佑は止まった。
「本能寺の変は」
「天正十年六月二日。旧暦で」
「……つまり今から数日後」
「はい」
今頃、織田信長は本能寺に滞在しているはずだ。明智光秀の軍が移動を始めている。数日後に日本の歴史が大きく変わる、その直前に、自分たちは来てしまった。
「信長を助けますか」とライルが聞いた。
佑は商売として考えた。命の恩人には黄金を払いたくなる。人間は。その原理は洋の東西を問わない。戦国時代の最高権力者の一人に貸しを作れるなら、最初のビジネスとして悪くない。
正直に言えば。食い扶持がない。選択肢が他にない。
「命の恩人には黄金を払いたくなる筈だ。人間は」
「商売として考えているんですか」とライルが言った。
「必死なだけです」
佑は格納庫に向かいながら、フィリアに通信を入れた。
「アイリスとドワリンに伝えてください。地球降下用シャトルと攻撃ドローン三十機の準備を」
「何をするんですか」フィリアの声が返ってきた。
「売り込みに行きます」




