第21話 ドワリンとライルの都市計画大戦争
一六二〇年代。
各大名家の拠点がようやく安定し始めた頃、工作船の会議室で戦争が起きた。
戦場は地図の上だった。
ドワリンが世界地図の白地図に、赤いインクで何かを書き込んでいる。ライルが青いインクで別の何かを書き込んでいる。二人の線が何度も交差していた。
佑が会議室に入ると、二人は同時に振り返って言った。「佑、聞いてください」
「どうしました」
「都市計画の話です」とドワリンが言った。
「都市計画の話です」とライルが言った。
「……聞きます」
ドワリンが地図を指した。「ニューヨーク・フィラデルフィア・ヒューストン・ジャクソンビル・ロサンゼルス・サンフランシスコ・サンディエゴ・フェニックス・バンクーバー・シアトル・カルガリー・エドモントン・シカゴ・トロント・モントリオール・オタワ・ウラジオストク・ハバロフスク・アンカレッジ・ヌーク・ペトロパブロフスクカムチャツキー・クラスノヤルスク・イルクーツク・ノヴォシビルスク・オムスク、計二十五都市の建設計画があります。私が設計します」
「私が設計します」とライルが即座に言った。
「あなたは鉄道の人間です」
「都市に鉄道がなければ都市は機能しません。つまり鉄道が都市の骨格です。骨格を設計する人間が都市を設計するのは当然です」
「骨格より基礎が先です。上下水道と地盤がなければ鉄道も走れません」
「上下水道は鉄道の後でいいです」
「人が死にます」
「鉄道がなければ人が来ません」
「来た人間が死にます」
佑は二人を交互に見た。
「……どちらの案も聞かせてもらえますか。順番に」
ドワリンが咳払いをした。「私の案は、まず地盤調査と水源の確保から始めます。地下インフラを先に整備して、上に建物を乗せる。地下水道・地下鉄・地下ライフライン用パイプ群を一括で設計して——正確に設計すれば七十年はかからない」
「何年かかりますか」とライルが言った。
「……五十年から七十年」
「では私の案です」とライルが続けた。「鉄道網を先に敷きます。東西南北の幹線を引いて、各都市を繋ぐ。人が動けるようになれば、物資が動く。物資が動けば建設ができる。建設が進めば都市になる。鉄道が先です」
「地盤調査は」
「建設しながらやります」
「上下水道は」
「建設しながらやります」
「それは建設ではなく混乱と言います」
「効率です」
「死者が出ます」
「少数の犠牲は——」
「言いかけた言葉を取り消してください」とドワリンは静かに言った。「インフラの話で『少数の犠牲』という言葉を使う人間を、私は信用しません」
ライルが少し黙った。「……取り消します」
沈黙の後、佑はしばらく二つの地図を見ていた。
「……同時にやってください」
「資金が」と二人が言った。
「分かっています。段階的に進めます。第一期は地盤調査と主要幹線の測量を同時に。第二期は上下水道と鉄道の地下区間を同時施工。地上の鉄道は第三期以降」
「それは合理的です」とドワリンが言った。
「それは効率的です」とライルが言った。
「「では設計はどちらが?」」と二人が同時に言って、また睨み合った。
「両方でやってください。地下はドワリン、地上と交通はライル。接続部分は二人で協議する」
「協議が難航した場合は」
「私に言ってください。仲裁します。ただし」
「ただし?」
「仲裁に来るたびに仲裁料を取ります。二人の予算から」
二人が黙った。それからほぼ同時に地図に向き直った。
数日後、モリスが会議室に入ってきた。地図を見て、少し考えてから言った。
「この都市、農業用地はどこに確保するんですか」
ドワリンとライルが同時に地図を見た。
沈黙。
「「……」」
「佑」とドワリンが言った。
「佑」とライルが言った。
「仲裁料です」と佑は扉の向こうから言った。「二人の予算から」
【記録・一六二五年・北米建設現場の記録より】
長耳の者が二人、地面の前で激しく議論していた。
一人は地面を指さし、もう一人は空を指さしていた。
傍らの農民が「またやってる」と言って畑仕事を続けていた。
翌日、謎の穴が開いていた。
翌々日、謎の線路が引かれていた。
その隣に、農地の区画が整然と配置されていた。
誰が決めたのか、誰も知らない。




