第20話 北米・織田家の最初の街
北米の東岸に、最初の街ができた。
一六〇〇年代の初め、それはまだ街と呼べるほどのものではなかった。木造の建物が十数軒、簡素な柵に囲まれて、小さな港に船が二隻停まっている。それだけだった。
信忠が現地を視察したのは、その年の夏だった。
信長の嫡男は、父親より丸みのある顔をしていた。天才的な直感を持つ父と違って、信忠は確認してから動く人間だった。全部を自分の目で見て、数字で把握して、それから判断する。遅いように見えて、間違いが少ない。
「佑殿からいただいた世界地図と、実際の地形が一致しています」と信忠は書き記した。「土地は広く、水源も近い。農業に適した平地が南に広がっています」
先住民との最初の接触は、その翌日だった。
森の縁から、男が三人、こちらを見ていた。武装していない。好奇心のある目をしていた。信忠が通訳を介さずに手を挙げると、向こうも手を挙げた。
「佑殿が言った通りだった」と信忠は後に記録している。「土地は余っている。争う必要がない場所だった」
その夜、信忠は工作船に通信を入れた。
「佑殿、到着の報告をします」
『どうでしたか』
「……良い土地です」
『そうですか』
「ただ」と信忠は少し間を置いて言った。「父上には到底及びません。私では、この土地を最大限に使い切れるかどうか」
『及ぼうとしなくてもいいんじゃないですか』と佑は言った。
信忠が少し驚いた様子があった。「どういう意味ですか」
『信長殿は信長殿にしかできないことをしました。あなたはあなたにしかできないことをすればいい。丁寧に積み上げることは、天才的な直感とは別の価値があります』
しばらく沈黙があった。
「……ありがとうございます」と信忠は言った。
『値段は取りません。今のは商売ではないので』
通信が切れた後、佑はしばらく窓の外を見ていた。
フィリアが隣に来て言った。「佑、今のは珍しかったです」
「何がですか」
「値段を取らないと、自分から言いました」
「……たまにはいいんじゃないですか」
「たまにならいいと思います」とフィリアは言った。穏やかに。




