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神の如き宇宙人は何もしない~ただ売るだけ~  作者: 苺一会
第四章「信長との関係の確立 世界地図の説明」

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閑話「瀬川結の研究録 1614年」

慶長十九年九月

 ノートが三冊目になった。

 最初の一冊は、佑殿との最初の商談から始めた。あの時は何も分からなかった。耳が長い。目の色が薄い。値段をつけることにしか興味がない。そういう人だとだけ分かった。

 今は三冊目の半分まで埋まっている。

 我ながら、よく続いたと思う。


【佑殿攻略録・現時点での結論】

基本原則:等価交換を崩さない

 佑殿は、タダで渡すことを嫌う。これは今も変わらない。だから「貰う」のではなく「買う」という形を徹底する。研究所の予算は常にそのために確保している。

 ただし、値段がつかないものがある。

 これが最大の弱点であり、唯一の突破口だ。

第一の武器:蕨餅

 最初に発見した。今も有効。ただし頻繁に使うと効果が薄れる。月に一度が限界。二度使うと「また蕨餅ですか」という顔をする。その顔を見るのが少し好きだが、それは別の話だ。

 重要なのは、手作りであることだ。市場で買ったものでは効果が半減する。佑殿は味で分かる。一度試して確認した。

第二の武器:昼飯時を避ける

 佑殿は昼飯時に機嫌が悪い。正確には、空腹の時に機嫌が悪い。これに気づくのに二年かかった。重要な商談は午前中か、食後に設定する。これだけで成功率が三割上がる。

 この知識は所内では私しか知らない。門外不出にする。

第三の武器:帳簿を褒めない

 これは逆説的だが重要だ。佑殿の帳簿は精緻だ。しかし褒めると警戒される。「何か裏がある」と思うらしい。帳簿については何も言わない。ただ、こちらも帳簿をきちんとつけて持参する。それだけで信頼度が上がる。

第四の武器:質問を一つに絞る

 最初の頃、私は一度に五つも六つも質問をしていた。佑殿は全部答えたが、最後の方は明らかに疲れていた。今は一回の訪問につき、質問は一つと決めている。その代わり、その一つを三日かけて準備する。

 佑殿は準備された質問に弱い。真剣に答える。

第五の武器:食べ物の話をする

 これは三年前に発見した。佑殿は和食の話になると、わずかに表情が変わる。緩む、と言った方が正確かもしれない。政治の話より、今年の大豆の出来の話の方が、佑殿は長く話す。

 だから私は農業の知識を勉強し始めた。


慶長十九年・十月

 澪が五歳になった。

 今日、澪がこのノートを開こうとしていた。まだ字は読めない。ただ、帳面を開く動作が私に似ていた。

 少し考えた。

 このノートは、いつか澪に渡すべきかもしれない。私がいなくなった後も、研究所は続く。佑殿との窓口も続く。その時に、このノートがあれば。

 ただ、渡す前に一つだけ書き足しておく。


【最重要事項・澪へ】

 佑殿は値段がつかないものに弱い。

 蕨餅もそうだが、本当に効くのはそこではない。

 佑殿が本当に弱いのは、「また来た人間」だ。

 毎回来る。毎回準備してくる。毎回真剣に向き合う。それを続けることが、一番の武器だ。

 蕨餅は手段に過ぎない。

 続けることが、全てだ。

 私はそれを十五年かけて学んだ。

 あなたはもう少し早く分かると思う。


慶長十九年・十月・末

 今日も蕨餅を持って行った。

 佑殿は「また蕨餅ですか」という顔をした。

 私は「そうです」と答えた。

 佑殿は食べた。全部食べた。

 やはり、これが一番効く。


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