閑話「フィルムの中の人間たち 1598年」
第一部末、1598年冬。
各大名からフィルムが届いたのは、カメラを渡してから十年後だった。
佑が各大名に売ったカメラは、当初は「記録用の道具」として売った。戦況を記録する、城の設計を記録する、そういう用途を想定していた。
返ってきたフィルムを、佑は工作船で現像した。
一本目は信長からだった。
最初の一枚は安土城下の市場だった。人が多かった。皆が何かを買っていた。活気があった。
次の一枚で、佑は少し止まった。
結が写っていた。
不機嫌な顔だった。何かを言いかけた瞬間を撮られた顔だった。明らかに撮られたくなかった顔だった。
信長が撮ったのだと分かった。
佑(内心):信長殿らしい。
二本目は毛利からだった。造船所が多かった。船の骨組みが並んでいた。それだけだった。実用的な記録だった。
三本目は伊達からだった。
騎馬の行列が一枚。城の外観が一枚。そして最後の数枚が、北米開拓地の写真だった。
泥の中に立っている人間たちが写っていた。
笑っていた。
服が汚れていた。顔が汚れていた。背景は開拓途中の荒れ地だった。それでも笑っていた。何かを成し遂げた顔だった。疲れているのに、笑っている顔だった。
佑はその写真を長く見ていた。
この人たちは、佑が送り込んだわけではない。自分で決めて来た人たちだった。佑は船と地図と食料を売っただけだった。来るかどうかは彼らが決めた。
泥の中で笑っていた。
佑は写真を現像し終えた後、信長の写真だけ手元に残した。
結の不機嫌な顔の写真と、北米の笑顔の写真を、同じ引き出しに入れた。
その夜の帳簿に、佑は書いた。
【1598年・冬・記録】
フィルム現像完了。各大名分。
備考:泥まみれで笑う人間を、
初めて美しいと思った。




