閑話「寂しがり屋」
信長と徹夜で酒を飲んだのは、何度目かわからない。
工作船の一室に、酒と肴だけを並べた。信長はいつも持ち込みの酒にケチをつけた。「雑味がない」「水みたいだ」「人の手が入っていない」。佑は聞き流しながら、結局自分も同じ酒を飲んだ。
その夜は、信長がよく喋った。
戦の話、領地の話、家臣の話。佑は相槌を打ちながら聞いていた。信長の話は、いつも面白い。計算と直感と虚勢が入り混じって、聞いているうちにどこまでが本音かわからなくなる。それが面白かった。
夜が深くなった頃、信長がふと黙った。
そして、横目で佑を見た。
「お主は、何年生きる」
「わかりません。少なくともあと四百年以上は」
「その間、わしはおらんな」
「はい」
「他の者も」
「はい」
信長はしばらく酒を飲んでいた。
「お主は寂しがり屋だな」
佑は、答えに詰まった。
信長は続けた。
「工作船に来るたびに、お主は必ず食事を出す。必要もないのに話しかけてくる。帳簿の話を始めると、いつまでも切り上げない。全部、お主が話したいからだろう」
「……それは」
「商売の手管とは違う。わしには分かる」
信長は酒を一口飲んで、ため息をついた。
「難儀な生き物だな。寂しいくせに、等価交換とか言って距離を置く。等価交換で買えないものが欲しいくせに、値段をつけようとする」
佑は、何も言えなかった。
信長が、酒を佑の杯に注いだ。注ぎながら言った。
「お主が寂しがり屋なのは、悪いことではない。その方が人間らしい」
「私は人間ではありません」
「うるさい」
信長は笑った。
「人間かどうかは関係ない。寂しいと思える生き物は、それだけで十分だ」
その夜、佑は普段より少し多く飲んだ。
等価交換の外で、何かが少しだけ満たされた気がした。何かとは何か、値段はいくらか、佑にはわからなかった。わからないまま、朝が来た。




