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神の如き宇宙人は何もしない~ただ売るだけ~  作者: 苺一会
第三章「商売が軌道に乗り始める・各地でエルフが暴走する」

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閑話「老婆の緑茶」

 静岡の茶畑の道を、佑は特に目的もなく歩いていた。

 仕事ではなかった。フィリアの用事に付き合って近くまで来て、ついでに歩いていた。ただそれだけだった。


 道の脇に、小さな家があった。

 縁側に老婆が座っていた。佑を見て、目を細めた。


「お疲れのようだねえ、耳の長い旦那」


 佑は立ち止まった。

 耳について言及する人間は、三種類いる。怖がる者、崇める者、そして——この老婆のように——ただ事実として言う者だ。


「お茶でも飲んでいきな」

「……結構です。等価——」

「遠慮するな」


 老婆は立ち上がって、家の中に入った。出てきた時、茶が二つあった。

 佑は断る言葉を持ったまま、縁側に座った。なぜ座ったのか、後で考えてもわからなかった。


 お茶は、青く透き通った緑色だった。湯気が真っ直ぐ上がっていた。

 一口飲んだ。


 渋みと甘みが、順番に来た。土の匂いがした。茶畑のすぐそばで育った葉の、真っ直ぐな味だった。技術も工夫も余計なものも何もなく、ただ旨かった。


「旨いだろう?」

「……はい」

「うちの茶畑の、今年の一番茶だよ」


 老婆は自分の茶を飲みながら、遠くを見た。


「お客さんは、どこから来たんだい」

「遠くから」


「そうかい。遠くから来たわりに、疲れた顔をしておる」

「……疲れていますか」


「疲れているよ。体じゃなくて、ここが」

 老婆は胸のあたりを指で叩いた。


 佑は何も言わなかった。


 二人で黙って茶を飲んだ。茶畑の風が来て、葉の匂いがした。遠くで鳥が鳴いた。

 老婆が話した。今年の茶の出来の話、孫が来月結婚する話、去年の台風で傷んだ樹の話。佑は相槌を打ちながら聞いた。特別な話は何もなかった。ただの、老婆の日常だった。


 十一分後、佑は立ち上がった。

「ありがとうございました」


「また来い」

「代金を——」

「いらん」


 老婆は手を振った。

「ただのお茶だよ。旨かったなら、それでいい」


 佑は、等価交換の言葉を持ったまま、言えなかった。

 道を歩きながら、十一分間のことを考えた。あの時間に、値段をつける方法がわからなかった。お茶の原価ではない。老婆の時間の分でもない。


 ただ、茶畑の風と、旨いお茶と、誰かの日常を聞いた時間。

 その値段が、わからなかった。


 帳簿に書かなかった。書けなかった。

 しかし、その十一分間を、佑はずっと覚えていた。


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