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神の如き宇宙人は何もしない~ただ売るだけ~  作者: 苺一会
第三章「商売が軌道に乗り始める・各地でエルフが暴走する」

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閑話「また来い」

 仙吉が最後に豆腐を作ったのは、初冬の朝だった。

 手が震えるようになって久しかったが、その日は不思議と落ち着いていた。豆を煮る匂いが土間に広がり、いつもと変わらない朝だった。


 仙吉は、一丁だけ余分に作った。

 夕方、佑が来た。何かを察したのか、それとも偶然なのか、仙吉にはわからなかった。佑はいつも、ふらりと来る。


「来い」

 仙吉は縁側に招いた。豆腐を二人分、出した。醤油と生姜だけで食べる、仙吉の豆腐だ。


 二人で黙って食べた。

 佑が「旨い」と言った。いつも通りの言葉だったが、今日は少し違う声だった。


「お主、今日はちゃんと旨いと思っておるな」

「いつも思っています」


「嘘をつくな。頭で旨いと判断しておることと、腹で旨いと思うことは違う」

 仙吉はそう言って、茶を一口飲んだ。


「今日のお主は、腹で旨いと思っておる」


 佑は答えなかった。


「それでいい」

 仙吉は縁側から庭を見た。枯れた菊が、風に揺れていた。


「佑よ」

「はい」


「お主は長生きするんだろう」

「はい」


「わしが死んでも、この店に来い」

「……」


「倅が孫が継ぐ。ひ孫も継ぐだろう。同じ豆腐を作るかどうかは知らんが、来い。覗いていけ」


 佑は何も言わなかった。


「それと」

 仙吉は少し笑った。


「来世でも豆腐を作って待っておるから」

「来世は——」


「うるさい。等価交換とか言うな」

 仙吉は立ち上がった。少し腰が曲がっていたが、足取りは確かだった。


「ありがとうございました」

 佑が言った。等価交換の決まり文句ではなく、ただそれだけを言った。


「また来い」

 仙吉は振り返らずに、土間に入っていった。


 春、仙吉は逝った。


 翌年の秋、佑は仙吉の倅の店に寄った。同じ場所に、同じ土間があった。彼は祖父とは違う切り方で豆腐を切っていたが、にがりを入れる手の動きが、どこかよく似ていた。


 佑はそれを、窓の外から少しの間見ていた。

 「人間はこうして継承するのか」と思った。


 その後、仙吉の子孫の店に、佑は毎年秋に来るようになった。


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