閑話「徳川家康と謎の鋳鉄蓋」
時期:第一部(1590年代)
江戸の家康の屋敷の庭に、それが現れたのは朝だった。
丸い、鉄の蓋だった。地面に埋まっている。直径二尺二寸。格子模様が刻まれていた。昨夜は確かになかった場所に。
家康は庭の前にしゃがんで、しばらく観察した。叩いてみた。鉄の音がした。動かそうとしたが、重かった。
「……佑殿の仕業か」
家臣が声をかけてきた。「殿、明智の残党では」
「呪詛でも毒でもない。ただの鉄だ。問題は、これが黄金でいくら相当かだ」
家康は手帳にスケッチを始めた。
そこへドワリンが現れた。
「あ、それマンホールです」
家臣が刀を抜きかけた。家康が手で止めた。
「ドワリン殿か。何のためのものだ」
「地下十メートルに排水の幹線を通しました。この屋敷の周辺、大雨で水が溜まりやすいので。この蓋はその点検口です。昨夜のうちに」
「……タダでやったのか」
「技術の美学でやったのでタダです。ただし——」
「ただし?」
「清掃マニュアルと構造図は別売りです。佑が黄金五十枚と言っています」
家康は一度目を閉じた。それから開いた。
「……あの長耳め」
手帳に書いた。『地下の鉄蓋。黄金五十枚以上の価値あり。構造図は必ず買え。買わないと将来必ず後悔する』
その日の夜、佑に通信を入れた。
「ドワリン殿が勝手に庭を掘りましたが」
『申し訳ありません』と佑は言った。『構造図はお買いになりますか』
「買う」と家康は即座に言った。「ただし値段を下げろ。代わりに今後五年間、北米南西部の港の設計を一割引きにする」
通信が少し間を置いた。
『……家康殿、今私の帳簿を見ながら計算しましたか』
「当たり前だ」
また間があった。
『……成立です』
帳簿の備考欄に佑は書いた。家康殿だけ、私の計算より速い。怖い。




