閑話「佑が会議を嫌う理由 回想」
第一部、1582年佑の内面。
信長から最初に「評定に出ろ」と言われた時、佑は断った。
「理由を聞かせろ」と信長は言った。
「苦手です」と佑は言った。
「評定が?」
「会議というものが全般的に」
信長が少し間を置いた。
「経験があるのか?」
「あります」
異世界での話だった。
魔王を倒した後、佑は勇者として国王に謁見した。国王は佑を「英雄」と呼んだ。議会は佑を「顧問」に任命した。大臣たちは佑を「資産」と見た。
最初の会議は三時間だった。
佑は一言も発言しなかった。大臣たちが互いの利益のために話し続けた。誰も魔王討伐後の復興について具体的な話をしなかった。会議の最後に「継続審議」と決まった。
二回目の会議も三時間だった。
三回目も三時間だった。
佑は七回目の会議で「もう出ません」と言った。
議会が紛糾した。「英雄の義務」と言われた。「国民への責任」と言われた。「歴史に名を残す機会」と言われた。
佑は全部断った。
その後、佑は市場で果物を売り始めた。その方が話が早かった。果物を売った、欲しい人間が来た。売れた。来なかった人間には売らなかった。会議より三百倍速かった。
七回の会議で決まらなかったことが、市場では一日で終わった。
「……そういう事情がありまして」と佑は信長に言った。
「なるほど」と信長は言った。しばらく考えた。「では評定には出なくていい」
「ありがとうございます」
「代わりに、評定で決まったことの結果だけ教えてやる。上手くいったか、失敗したか」
「それは有難いです」
「それで十分だ」と信長は言った。「結果を見る者がいれば、会議の中身が締まる」
佑は少し考えた。
「……信長殿は、会議が好きですか?」
「嫌いだ」と信長は即答した。「ただし必要だから出る」
「違いはなんですか?」
「嫌いなことと、やらないことは別だ」と信長は言った。「お前は嫌いだからやらない。儂は嫌いでもやる。どちらが正しいかは知らんが、儂はそういう人間だ」
「それに儂の開く評定では何も決まらない無駄な時間なんぞ無い。すぐに決まる、そして責任の所在が明確だ。」
佑は返事をしなかった。
信長の言葉が、刺さった。耳に痛かった。
その日の帳簿に、佑は書いた。
【1583年・記録】
信長殿より評定出席の要請。断った。
理由を説明した。
信長殿:「嫌いなことと、やらないことは別だ」
備考:正しいと思う。
ただし、私は市場の方が好きだ。
それだけのことだと思っている。




