第12話 教育改革の正式始動と、信長との最初の対話
安土城に報告に行くと、信長は先に知っていた。
「尾張の寺子屋が騒がしい、長耳の女が先生を捕まえて話し込んでいると」
「シャリアが勝手に動きました。正式に認めていただければ体系的に進められます」
「どんな仕組みにするつもりですか」と結が横から口を挟んだ。
佑は三段階の構造を説明した。零歳から六歳、六歳から十五歳、十五歳から二十二歳。身分ではなく試験の成績だけで進む。年齢は目安で、できれば先に進んでいい。
「農民の子が武士の子と同じ学校に」と信長が確認した。
「入学試験だけが基準です」
「……それで武士は怒るな」
「怒ります。最初は」
「その後は」
「武士の子が農民の子に試験で負ける場面を繰り返し見れば、大体の人間は身分より能力を信じます」
信長が少し目を細めた。「……なぜそう確信する」
「あなたが本能寺で生き延びた翌朝、私を物置の部屋で待っていたことを思い出してください。身分でなく状況で判断する人間は、もうすでにいます」
信長が少し黙ってから言った。「……それはわしの話か」
「そうです」
「……気に食わん言い方だ」
「しかし正しいでしょう」
「正しい」と信長は認めた。「だから気に食わん」
その日の帰り際に、信長が佑に試みた。
「長耳、お主は四百年後の歴史書でわしをどう見ていた」
佑は少し止まった。
「……どういう意味ですか」
「お主、わしを知っている顔をして会いに来た。知っていたのはわしか、わしの評判か?」
佑(内心):やられた。
「……評判です。あなた個人のことは、会ってみるまで分かりませんでした」
「そうだろう」と信長は言った。少し満足した顔で。「評判と人間は別物だ。わしに関しては特にな」
宇宙規模の情報量があっても、人間・信長には読めない。
佑はその夜の帳簿に書いた。
【1582年・信長殿との対話・記録】
指摘:評判を知っているのと、人間を知っているのは別のことだ。
評価:正確。
備考:この人間には読めない部分がある。
それが怖いという意味ではない。
ただ、面白い。




