第52話 最後の帳簿
深夜、佑は帳簿を取った。
最後のページを開いた。
【2060年・最終記録】
収入:なし
支出:なし
本日の取引:なし
備考:一五八二年六月、地球に来た。
神様が時代を間違えた。
なんでやねんと思った。
470年考え続けたが、神様が1500年過去に送ったのは実は態とじゃないかと思っている。
信長に会った。
瀬川結に値段をつけ損ねた。
フィリアが無断で動いた。
ドワリンが地下を掘った。
ライルが東海道を測量した。
モリスが尾張の土を握った。
シャリアが寺子屋に侵入した。
アイリスが堺の港を十二日連続で見に行った。
仙吉の豆腐が旨かった。
信長が死んだ。
一八四七人が死んだ。
日本が、自分で考えた。
俺は、売るだけだった。
それで、良かった。
ペンを置いた。
窓の外に、夜の地球がある。
日本が光っている。四百年前には一つもなかった光が、今は無数にある。
「……やるしかないですね、と言ったな」
独り言だった。
「やりましたよ」
誰にともなく、言った。
菌は、待つことを知っている、とフィリアが言っていた。
朝になって、フィリアが部屋に来た。
佑は眠るように、窓の外を向いていた。
手の上に、帳簿があった。
最後のページが、開いていた。
【後記・フィリアによる記録】
城佑、死去。
2060年4月17日、早朝。
工作船内にて。
享年・推定478歳。
本人が正確な年齢を嫌がっていたため、推定とする。
最後に食べたものは、仙吉の豆腐。
最後に言った言葉は、記録者(私)には聞き取れなかった。
ただし、笑っていた。
帳簿は、全部で418冊。
信正殿に渡した。
「日本の国書として保管します」と言っていた。
エルフ100名は引き続き地球に残る。
エルフ同士で結婚して500年弱で8人子供が生まれた。
佑がいなくても、やることは変わらない。
私はまだ、善右衛門の蔵の菌を持っている。
菌は、今日も生きている。




