閑話「工作船の展示室」
2040年、工作船 収蔵庫。
工作船の中に、誰も入らない部屋があった。
収蔵庫だった。佑が鍵をかけていた。
2040年、佑は初めてフィリアに鍵を渡した。
「見てもいいですか」とフィリアが聞いた。
「どうぞ」
フィリアが扉を開けた。
棚が並んでいた。ガラスの箱の中に、物が並んでいた。
フィリアはゆっくり歩いた。
最初の棚:古い木の椀。信長が最初の商談の時に使った椀だった。ラベルがついていた。「信長、1582年」。
次の棚:小さな帳面。結の手書きの「佑攻略ノート」だった。初代のものだった。「瀬川結、1598年」。
次:割れた豆腐桶の木片。仙吉の桶の欠片だった。「仙吉、1605年頃」。
次:乾燥した蕨餅。一切れ。「1598年、結より。値段をつけ損ねた」。
次:子供の落書きのある紙。「瀬川澪、5歳1628年。佑の帳簿に落書きした。落書き代:銀一分を請求したがくれなかった」。
次:木札。「初代フィリア麹菌、善右衛門蔵より、1590年」。
フィリアは木札の前で止まった。
「……これを持っていたんですか」
「捨てられませんでした」と佑は言った。後ろに立っていた。
フィリアはもう少し歩いた。
最後の棚:古い写真。北米の開拓地で泥まみれで笑っている人々の写真だった。「1598年・伊達家フィルムより」。
フィリアが振り返った。
「全部、値段をつけなかったものですか?」
「全部」と佑は言った。「値段をつけ損ねたか、つけられなかったものです」
フィリアは棚を見た。
「多いですね」
「四百五十年分ですから」
フィリアが木札を見た。
「菌は今でも生きていますよ」とフィリアは言った。
「知っています」と佑は言った。
二人はしばらく収蔵庫にいた。




