閑話「等価交換の終焉」
1998年、工作船。
瀬川研究所の十一代目所長・瀬川美咲が来たのは、十月の朝だった。
三十代の女性だった。初代・結に一番顔が似ていると言われる所長だった。手に帳面を持っていた。結の時代から続く帳面だった。
「佑殿」
「どうぞ」
美咲が座った。帳面を開いた。
「本日、正式にお伝えしたいことがあります」
「なんですか?」
美咲が一呼吸置いた。
「日本連邦政府および研究所として、佑殿への技術購入依頼を、本日をもって終了します」
佑は黙っていた。
「理由は三つです」と美咲は言った。「一つ、日本の技術力より佑殿の技術力の方が圧倒的に上なのは理解していますが、貴方は過ぎた技術力を売るつもりが無い事。二つ、一つ目の理由との関係で日本側の独自開発の速度が、購入より速くなっています。三つ、研究所として、佑殿に頼ることが日本の自立を妨げると判断しました」
佑はまだ黙っていた。
「以上です」と美咲は言った。「長い間、ありがとうございました」
佑は少し間を置いた。
「……礼はいりません」と佑は言った。「等価交換でやってきましたから」
「はい」と美咲は言った。「どうあれ日本を見守り導いて頂いたと理解しています。なので、お礼を申し上げます」
美咲は立ち上がってお辞儀をした。
「有難うございます」
「魚をあげるより、釣り方を教えてあげた方が良いと思ったんです。それだけですよ」
「後は貴方達日本人が自分達で考えて行動した結果です」
美咲が笑った。
佑は美咲を見た。
初代の結に似ていると思った。
「美咲所長」
「はい」
「最後に一つだけ聞いていいですか」
「どうぞ」
「蕨餅は今でも作れますか?」
美咲が少し笑った。
「ええ、作れます」
「また今度持ってきて貰っても良いですか?」
「勿論です」
美咲が帰った。
その日の帳簿に、佑は書いた。
【1998年・記録】
瀬川研究所より、正式に取引終了の通告。
理由:日本が佑を超えた。
備考:これが目標だった。
達成した。
値段はつけない。
つけられない。




