閑話「ここが僕の故郷ですから」
神様が現れたのは、夕暮れだった。
工作船の屋上で、佑が空を見ていた時だった。特に何かを考えていたわけではなく、ただ空の色が珍しかった。雲が薄く広がって、夕日を拡散させていた。地球の空は、角度によって毎回違う色をする。
「久しぶりだね」
振り返ると、神様がいた。
いつも通り、特に大きくも小さくもない姿で、特に印象的でも目立つわけでもない顔で、そこにいた。
「お久しぶりです」
「元気そうじゃないか」
「元気です」
神様は屋上を歩き回った。手すりから下を覗いて、空を見上げた。
「変わった星だね、地球は。来るたびに、うるさくなっている」
「人間が増えていますから」
「大変だったね」
「大変でした」
神様は、佑の横に立った。二人で並んで、夕焼けを見た。
「もう戻る?」
佑は、すぐには答えなかった。
戻る先は、向こうだ。元いた場所。地球に来る前にいた場所。静かで、広くて、何百年もそこにいた場所。
佑は夕焼けを見ていた。
空の端に、町の明かりが灯り始めていた。いくつか数えると、その中に仙吉の店があった区画があった。今は清次郎の孫がやっている。源一郎の名前は、橋の名前になっている。信長の血は、遠い子孫たちの中に流れている。
「……ここが、僕の故郷ですから」
神様は何も言わなかった。
「向こうには、もう帰る家がありません。ここに、家があります」
「家というのは、工作船のことかい?」
「工作船もそうです。でも——」
佑は、町の明かりを見た。
「もっと大きい意味です」
神様は少しの間、佑を見ていた。
「そうか」
「はい」
「……大変だったね」
「言いましたよ、それはもう」
「また言いたくなった」
神様はそのまま消えた。特に劇的な去り方ではなく、夕暮れの空に溶けるように、いなくなった。
佑は一人になった。
夕焼けが、少しずつ暗くなっていった。
町の明かりが、一つずつ増えていった。
ここが、故郷だ。
五百年かけて、ようやく、そう言えるようになった。
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佑「……ここが、僕のアナ◯ースカイ」




