第47話 一九四十五年 嵐の予感
戦争が終わって、世界は少しずつ変わった。
西欧諸国に植民地にされていた国はその全てが独立を果たした。
突然、嵐が来た。
一九四〇年から、欧州の空気が変わっていた。
瀬川研究所からの分析書が、毎年厚くなっていた。佑はそれを読むたびに、少し重くなった。
経済が壊れると、人間は誰かのせいにしたがる。
誰かのせいにし始めると、止まらなくなる。
欧州で大きな戦争が始まり、ユダヤ人への迫害が激化した。イスラエルにいた者は守られた。しかし間に合わなかった人たちがいた。
佑は記録した。
記録しかできなかった。
戦争が終わって、世界は疲れた。
ソビエトは膨張を続けたが、東側はシベリアの日本領との境界で止まった。
ドイツとソビエトは余りに消耗していた。
だがまだ体力のあるイギリス・フランス・豪州合衆国は、別の手を打ち始めた。
イギリスが華南を支援した。豪州合衆国が華北を支援した。フランスが朝鮮半島を支援した。資金援助ではない、兵器だ。
互いに戦わせて、自分たちは潤う。
佑には分かった。ヘイスティングスが「売れないものはない」と言ったあの時から、その子孫たちがやることは変わっていない。
私は中国人と朝鮮人が自分達で気付いて立ち止まってくれることに期待した。
止まらなかった。
一九四五年。三つ巴の戦争が始まった。
昔とは戦争が違う。
人を効率よく殺す方法を、人間は研究し続けていた。完成させていた。爆撃機がクラスター爆弾を大量投下する。一度の攻撃で、街が消える。
佑は観測室から見ていた。
フィリアが横にいた。
二人とも、何も言わなかった。
日本政府に打診した。イスラエルにも打診した。ドイツにも、ロシアにも、何とか止められないかと。
返ってきた言葉はどれも同じだった。
「私たちにも止める手段がない」
分かっていた。分かっていて、聞いた。
それしか、できなかった。
帳簿に書いた。
止まらない。
私にできることは何もない。無力だ。
何もない、のに。
何もないはずなのに。
ペンが止まった。
続きが書けなかった。




