第46話 戦争が終わった朝
欧州の戦争が終わった日、佑は工作船のブリッジで一人だった。
フィリアが来た。
「終わりましたね」
「終わりました」
「……佑は今、何を考えていますか」
佑は少し間を置いた。
「一つだけ」と佑は言った。
「何ですか」
「この百年で、私が名前を知らない人間が、何千万人も死にました」
フィリアが黙った。
「日本人ではないから、記録の仕方が分からなかった。名前を買いに行くことも、できなかった」
「……」
「でも、その人たちが生きていた普通の日は、あったはずです」と佑は言った。「誰かと飯を食った日が。誰かに笑いかけた日が。良いものを作った日が」
「あったと思います」
「その記録が、どこかにあると良いと思います」
佑は窓の外を見た。夜明け前の空が少し明るくなっていた。
「私にできることは何もなかった」と佑は言った。「でも、そういうことを思うことはできます」
フィリアが佑の隣に立った。
「佑」
「はい」
「あなたは四百年間、ずっとそれをしていました」
「何をですか」
「思うことを、やめなかった」とフィリアは言った。「何もできない時でも、思うことをやめなかった」
佑は少し黙った。
「……それだけで充分ですかね?」
「充分です」とフィリアは言った。「少なくとも私はそう思います」




