第45話 一九三九年 もう一つの嵐
夏の終わり、欧州が再び動いた。
二十年前より、今度は東の方で始まった。ドイツとソビエトが激突した。
佑は記録を続けた。
しかし今回は、少し違う動きをした。
イスラエルから打診が来た時、佑は一日だけ考えて、日本政府に話した。
「判断はあなたたちがしてください」と佑は言った。「私は情報を出します。中央アジアのイスラエルが、どういう状況にあるか。どういう支援が必要か。それを日本政府が考えて、日本政府が動くかどうかを決めてください」
日本政府は長い議論をした。
結論は「限定的な技術支援」だった。
佑はその決定を聞いて、帳簿に書いた。
日本政府がイスラエルへの支援を決めた。
私が決めたのではない。
日本人が決めた。
百年前に私が動いたことの責任を、
今日、日本人が自分で引き受けた。
これが、二百年の教育の答えの一つだ。
欧州の戦争は長引いた。
ドイツとソビエトが消耗した。史実のWWIIとは違い、西欧への侵攻より東方への戦争に集中したドイツは、ソビエトの広大な大地で力を失った。
ユダヤ人への迫害は起きた。しかし、多くの者がすでにイスラエルにいた。完全に防げたわけではない。それでも、史実の六百万人より少ない犠牲で済んだ。
少ない、という言葉が正しいのかどうか、佑には分からなかった。
犠牲に「少ない」という言葉を使うことへの違和感を、佑はずっと持っていた。
でも記録しなければならなかった。




