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神の如き宇宙人は何もしない~ただ売るだけ~  作者: 苺一会
第九章「記録し続ける者」

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第44話 一九二〇年代 平和の値段

 戦争が終わって、日本は好景気になった。

 北米の日本系各家との交易が活発になり、日本列島の工業生産が伸びた。大学統合校の流れを汲む大学が各都市に増えて、研究者が増えた。


 街は明るかった。

 佑は低空飛行で日本を見た。


「……賑やかになりましたね」とフィリアが言った。

「なりました」


「良いことですか」

「良いことです。ただ」


「ただ?」

「賑やかな時代には、別の問題が育ちます」と佑は言った。「今が良いから、今がずっと続くと思う人間が出てきます。備えをやめる人間が出てきます」


「佑はいつも先のことを心配します」

「五百年生きるので」と佑は言った。「先が長い分、先が見えやすい」


「見えることが、幸せですか」とフィリアが言った。


 佑は少し考えた。

「……どちらとも言えません」と佑は言った。いつもの答えだった。


 この時代、佑は一つのことを始めた。

 記録帳を書くことは続けていた。しかし今度は別の記録帳だ。


 戦争の記録帳ではない。

 「普通の日」の記録帳だった。


 誰かが発明をした日。誰かが良い論文を書いた日。農村の収量が上がった日。新しい鉄道路線が開通した日。市場に珍しい野菜が出た日。

 佑がふじやで鰻重を食べた日。

 仙吉の豆腐を思い出した日。

 フィリアの味噌汁が特別に旨かった日。


 そういうことを、細かく書いた。


「なぜ書くんですか」とシャリアが聞いた。

「後で読む人間のためです」と佑は言った。


「誰が読むんですか」

「分かりません。ただ」佑は少し考えた。「戦争の記録だけを後の人間に渡すのは、不公平だと思って」


「不公平?」

「戦争の日だけを記録したら、戦争しかなかった時代に見えます。でも実際には、普通の日の方が多い。美味しいものを食べた日の方が多い。笑った日の方が多い。その記録も、残さないといけない」


 シャリアが少し間を置いた。「佑、それは教育と同じ考え方です」

「そうですか」


「記録することで、後の人間に選択肢を与えている。戦争の記録だけでは、後の人間は『昔は戦争しかなかった』と思ってしまう。でも普通の日の記録があれば、『昔の人間も、普通に生きていた』と分かります」

「……そうですね」と佑は言った。


「佑は商人のつもりでいますが、教育者でもあります」

「それは言い過ぎです」

「言い過ぎではありません」


 佑は少し黙って、また普通の日の記録を書いた。


 今日、フィリアの味噌汁が旨かった。

 モリスが新しい品種の話をしていた。

 ライルが時刻表を眺めて満足そうだった。

   

 良い日だった。


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