第43話 一九一七年 ロシア革命の夜
冬に、ロシアが動いた。
革命が起きた。
佑は上杉家の末裔にあたるシベリア総督府に通信を入れた。
「ロシアの内部が激変します。国境付近の警戒を強化してください」
「どのくらい激変しますか」と総督が聞いた。
「今の皇帝が消えます。その後、今より強権的な政権が生まれます」
「今より強権的」
「はい。ただし最初は内側を固めることで手一杯のはずです。外に向く余裕が出るまで、おそらく十年以上かかります」
「十年の間に何をすべきですか」
「国境を固めること」と佑は言った。「それだけです。刺激しないこと。待つこと」
「……佑殿は、その先をどう見ていますか」
佑は少し間を置いた。
「その先は」と佑は言った。「あなたたちが考えることです」
総督が少し黙った。「……いつもそう言いますね、佑殿は」
「いつもそうです」
「それが佑殿の商売なんですね」
「はい」と佑は言った。「それが私の商売です」
欧州の戦争は、史実と違う形で終わった。
アメリカが存在しない。北米は日本の領土だ。欧州に介入する気がない。戦争は四年かけて、双方が疲弊した形で講和になった。
史実のドイツほど屈辱的な敗北ではなかった。賠償金は重かったが、史実のヴェルサイユ条約ほどの激烈さはなかった。
佑はその講和のニュースを聞いて、帳簿に書いた。
欧州の戦争が終わった。
日本は参加しなかった。
死者は推定二千五百万人を超えた。
私には名前が分からない。
分からない名前が、それだけある。




