第42話 一九一四年 欧州の砲声
夏の終わりに、欧州が動いた。
佑は観測室で、遠い大陸の情報を受け取り続けた。瀬川研究所の諜報網と、佑自身の観測センサーが、欧州の戦場を映し出した。
ドイツ・オーストリア・オスマン帝国。
対するフランス・イギリス・ロシア。
塹壕が掘られた。機関銃が並んだ。毒ガスが使われた。
佑は見ていた。
止めなかった。
「ひどいですね」とドワリンが言った。観測室に来て、モニターを見た。
「ひどいです」と佑は言った。
「止めないんですか」
「止めません」
「なぜですか」と今度はモリスが聞いた。「あなたは止められます。あの規模の戦争なら、ドローンを出すだけで──」
「止めたら、次は?その次は?」と佑は言った。「欧州の人間が自分たちで考えなければならない問題を、私が解決したら、彼らは学ばない。また繰り返します。もっと大きな規模で」
「でも死んでいます」
「はい」
「今この瞬間も」
「はい」と佑は言った。「分かっています」
モリスが黙った。
ドワリンが黙った。
佑は一人でモニターを見た。
「……私が日本以外に関わらないのは」と佑は言った。誰かに説明するためではなく、自分に言い聞かせるように。「日本だけを守ることが目的だからではないです。どこかの誰かが自分で立てるようになることを信じているからです。私が全部解決したら、誰も立てなくなります」
私は欧州人が自分達で立ち止まってくれることに期待した。
「でも佑」とドワリンが言った。「信じ続けることは、辛くないですか」
佑は少し間を置いた。
「辛いです」と佑は言った。「ただ、辛いことと、正しいことは別の話です。」
モニターの中で、砲声が続いていた。




