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神の如き宇宙人は何もしない~ただ売るだけ~  作者: 苺一会
第九章「記録し続ける者」

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第41話 日本議会 参戦論議 一九一四年秋

 欧州で戦争が始まって三ヶ月が経った、一九一四年の秋。

 工作船に定期報告が来た。


 日本連邦議会・外交委員会からの、異例の直接通信だった。


「佑殿、お時間をいただけますか。議会の状況をご説明したい」

 佑は少し止まった。議会から直接、というのは初めてだった。


「……分かりました」

 翌日、工作船に外交委員会の委員長が来た。五十代の、落ち着いた顔をした男だった。


「状況を説明します」と委員長は言った。「現在、議会が二分されています」

「参戦論と不参戦論ですか」


「はい。参戦論側の主な主張は三つです」

 委員長が書類を出した。


「一つ、欧州の混乱は日本の外洋貿易に影響する。戦後の秩序形成に参加しなければ、日本は蚊帳の外になる。二つ、連合国側に立てば、戦後の欧州との外交関係が有利になる。三つ、軍の練度維持のために実戦経験が必要だという意見もある」


「不参戦論側は」

「一つ、日本の利益に直結しない戦争で血を流す理由がない。二つ、北米の開拓と内政整備を優先すべき時期である。三つ」


 委員長が少し間を置いた。


「三つ目が、一番多くの議員が言っている主張です」

「何ですか」


「『佑殿はどうお考えか』と」

 佑は黙った。

 委員長が続けた。「議会の過半数が、この問題について佑殿の意見を求めています。正式な諮問ではありません。ただ……参考意見として、と」


 佑はしばらく窓の外を見た。

「……委員長殿」

「はい」


「一つ確認させてください。日本が民主主義に移行してから何年になりますか」

「信政様が宣言されてから十一年、選挙による議会が成立してから七年です」

「七年」と佑は言った。「七年で、議会の過半数が『佑はどう思うか』と聞きに来た」


 委員長が少し下を向いた。「……恥ずかしい話です」

「恥ずかしいとは思いません」と佑は言った。「慣れていないだけです。ただ」

「ただ?」

「私は答えを売りません」


 委員長が佑を見た。


「情報は売ります」と佑は言った。「欧州の現在の戦況、各国の軍事力の比較、戦争が長引いた場合の貿易路への影響。これらは数字として売れます。ただし、参戦すべきか否か、という判断は売りません。それは日本人が自分で決めることです」


「……なぜですか」


「七年前、信政殿が幕府を解体しました」と佑は言った。「その理由を覚えていますか。外から押し付けられた制度は腐る、と言いました。判断も同じです。外から借りた判断は腐ります」


 委員長はしばらく黙っていた。


「……情報を買わせてください」と最後に言った。「値段は」

「後でいいです。今日はここまでにしてください」


 委員長が帰った後、フィリアが来た。「何も言わなかったんですね」

「言いませんでした」


「辛くなかったですか」

 佑は少し間を置いた。「……言いたいことはありました」


「何ですか」

「参戦する理由がないと思っています。ただ」


「ただ?」

「それは私の判断です。日本人の判断ではない」


 フィリアが窓の外を見た。「……結果はどうなると思いますか」

「不参戦になると思います」と佑は言った。「今の議会には、信政殿の教育を受けた世代が入っています。考える習慣のある人間は、利益が見えない戦争に乗らない」


「佑は信じているんですね、日本人を」

「……信じているというより」佑は少し考えた。「確認したいんです。私が三百年かけて売ったものの値打ちを」


 議会の論戦は一ヶ月続いた。

 参戦論側の議員が演説した。「日本は世界の動向に遅れを取ってはならない。この戦争の勝者と共に立つことが、百年後の国益に繋がる」


 不参戦論側の議員が応じた。「百年後の国益を語るなら、今この戦争で死ぬ者の名前を先に言え。その名前が言えない者に、百年後の話をする資格はない」


 採決の結果、不参戦が過半数を占めた。

 賛成百九十三票、反対二百十七票。

 二十四票差だった。


 佑はその数字を聞いて、帳簿に書いた。


 日本議会、不参戦を選んだ。二十四票差だった。

 圧勝ではない。僅差だった。

   

 それで良いと思う。

 迷わない民主主義は民主主義ではない。

 迷って、議論して、決めた。

 それが答えだ。

   

 信政殿に報告したかったが、

 信政殿は三年前に逝った。

   

 見せたかった。


 議会の議事録を買う。

 値段は後で決める。

   

 あの「百年後の話をする資格」の演説、

 誰が書いたのか知りたい。


 翌日、佑は議事録を取り寄せた。

 演説した議員の名前を確認した。


 田中光太郎の弟子だった。


 佑は少し止まって、それから帳簿の備考欄に一行追加した。


 田中源一郎→田中光太郎→この議員。

 三代続いた。

   

 農民出身の天才工学者の孫が地政学者になり、

 その弟子が議会で演説した。

   

 私は何もしていない。

 ただ最初に農業指導料を米で受け取っただけだ。

   

 それで充分だった。


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