第10話 ドワリンの江戸初視察
五日後、ドワリンが地上調査から帰ってきた。鞄の中に、何かの図面を大量に詰め込んでいた。
「佑、江戸の下水が最悪です」
「どのくらい最悪ですか」
「臭気で人が死ぬレベルです」ドワリンは断言した。「許せない」
「数百年後の発展した江戸では無いのです致し方無いのでは?」
「それに、今は予算が──」
「タダでやります」
佑はドワリンを見た。「何のためにですか」
「見ていられないからです」
「タダで渡すのは──私たちの方針として──」
「渡しません」とドワリンはきっぱり言った。「やります。私が。施工を。夜中に。素材は工作船から出します。施工費は私の持ち出しということで」
「タダで渡さない」という方針はある。しかしドワリンが言っているのは「渡す」ではなく「やる」だ。施工を自分でやることは、労働の提供であって、技術の移転ではない。
「……記録は取っておいてください」
「何の記録ですか」
「何をどこに作ったか。後で日本人が自分でメンテナンスできるように」
「設計図も置いておきますか」
ドワリンの目が少し輝いた。
「それは有料で」
「……佑は本当に商売人だ」
ドワリンは図面を抱えてさっさと出て行った。その夜から、ドワリンは夜な夜な江戸周辺の地下に潜るようになった。
一週間後。徳川家康から使者が来た。
「……お庭に、謎のものが現れまして」
「謎のもの」
「丸い、鉄の蓋のようなものが、地面に埋まっているのですが──昨夜は確かに何もなかった場所に。家臣が踏んで腰を抜かしまして」
佑は少し目を閉じた。
「……ドワリン」
通信を入れると、地下から返事が来た。『はい』
「徳川様のお庭に工事しましたか」
『あの辺りの地盤が良かったので。排水の幹線を通しました』
「許可は」
『緊急性がありましたので』
「分かりました」
佑は使者に向き直った。
「インフラ整備工事をさせていただきました。後ほど請求書をお送りします」
「……請求書」
「設計図もお付けします。以後のメンテナンスに使っていただけます。別途有料になりますが」
備考:ドワリンが勝手に動いた。
フィリアが勝手に動いた。
シャリアはおそらく今日も勝手に動いている。
ライルはまだ動いていないが、時間の問題だと思う。
アイリスは堺の港を毎日見に行っている。
私の部下のコントロール能力に問題がある可能性がある。
または、私の方針の解釈が甘い可能性がある。
ただし、稼ぎは増えている。




