第39話 日本連邦 始動
一九〇三年の秋、信政が宣言した。
全国の主要都市に、代表者会議を設置する。各地の大学統合校の卒業者と、地域の有識者から選ばれた代表者が、政策を議論する。幕府は段階的に権限を移譲する。十年以内に、選挙による議会を設立する。
発表の三日後、佑に手紙が来た。信政から、ではなかった。
瀬川研究所の七代目所長、瀬川麻衣からだった。
【緊急分析書】
信政様の宣言を受け、各地の反応を分析した。
大都市部:おおむね好意的。大学統合校の卒業者を中心に、歓迎の声が多い。
農村部:困惑が多い。変化への不安より、「自分たちが何を決めれば良いのか分からない」という声が目立つ。
旧来の武家層:反発が予想より少ない。理由を調べると、三百年の教育システムの中で「身分より頭」という価値観が武家の子弟にも浸透していたため、と推測される。
モンゴル・新疆ウイグル・チベット:「今迄困ってなかったのに」や「独立し自分達で物事を決められる」や「これからどうすれば?」等、歓迎や不安の声がある。
以上の分析から、移行は可能と判断する。ただし、移行の速度には注意が必要。
佑はその分析書を読んで、フィリアに言った。
「麻衣殿の分析は正確です」
「農村の困惑について、どうしますか」と聞かれた。
「信政殿に渡します。私が解決することではありません」
「情報だけ渡すんですね」
「はい」
「……それが佑の商売だから」
「はい」
フィリアが少し間を置いた。「信政殿は上手くやれますか?」
「上手くやれると思います」と佑は言った。「ただ」
「ただ?」
「失敗もすると思います。民主主義は、失敗しながら学ぶものです。私が失敗しないように守ることはしません」
「辛くないですか」
「いつも辛いです」と佑は言った。「いつも辛いまま、しない方を選んでいます」
フィリアが頷いた。「分かりました」
「……フィリア」
「はい」
「今夜の味噌汁を、少し多めに作ってもらえますか」
「なぜですか」
「なんとなく、みんなで飲みたいです」
フィリアが少し笑った。「分かりました」
その夜、工作船の食堂に集まって、味噌汁を飲んだ。百人全員ではなかったが、六人はいた。
誰も政治の話をしなかった。
ただ、飲んだ。




