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第37話 一八九〇年代 欧州の動揺
戦後十年。
瀬川研究所から分析書が届いた。
六代目所長、瀬川一郎からだった。初代・結の血筋で、初めて男性が所長になった世代だった。
【欧州列強の内部矛盾について・一八九三年分析書】
佑は読んだ。
欧州は表面上、平和だった。日本との戦争に二度負けて、北米を失って、それでも各国は帝国の体裁を保っていた。ただし内側で、何かが腐り始めていた。
「フィリア」と佑は言った。
「はい」
「欧州が、また大きな戦争をします」
「いつですか」
「二十年以内だと思います」
フィリアが佑を見た。「止めますか」
「止めません」
「日本は」
「参加しないと思いますが。記録はします」
佑は帳簿に書いた。
欧州の内圧が上がっている。
日本は嵐の外にいる。
このままでいることが、最善だ。
ただし、嵐の外にいることに慣れすぎると、
嵐の中に入った時に動けなくなる。
その心配を、少しだけしている。
心配しても、私にできることは何もないが。




