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第99話 てぇてぇの権化


 本部テントに辿り着いた俺達はスタッフに迷子だと説明。数分待ってから迎えが来なかったらアナウンスをするらしい。


 俺達の役目は終わったのでそろそろ行こうかと七月さんと頷き合うとグイッっと服を引っ張られた。


「……いかないで」


 うるうるとした瞳でゆきちゃんは俺と七月さんを見上げて来る。


 そんな表情をされたら行けるわけないじゃないか。


 俺と七月さんは顔を合わせるまでもなく一緒にしゃがみ込む。


「分かった。じゃあお迎え来るまで一緒に待ってようか」


「じゃあ、あっちの椅子に座ってお姉ちゃん達とお話ししよっ!」


「うん!」


「あ、ゆきちゃんこれあげる~」


 そう言うと七月さんはベビーカステラを紙袋から取り出すとゆきちゃんに渡す。


 お腹が空いていたのかゆきちゃんは直ぐに食べ始めた。


「おいしい?」


 慈愛に満ちた表情でゆきちゃんを見つめる七月さんはまるでお母さんのよう。


 ゆきちゃんが激しく笑顔で頷く。


「じゃあこれ残り全部あげる。ゆきちゃんにプレゼント!」


「え」


 思わず声に出てしまい俺は慌てて口を閉ざす。どうやら誰にもバレていないみたいだ。


 えぇ、俺もうちょっと食べたかったんだけどな。残りの量は少ないが殆ど食べてたの七月さんだし。


 まぁしょうがない。ゆきちゃんの笑顔を見られるのなら安いものだな。


 え、何かスタッフさんが俺の方を見て苦笑いしてるんだけど聞かれてないよな?




 ベビーカステラを黙々と食べるゆきちゃんを二人で見守っていると何処かで聞いたことのあるような幼さを残す明るい声がテント内に響いてきた。


「すみませーん!! うちの妹いたりしませんか!?」


 その人は膝に手を突き、息を切らし額に浮かべた汗を拭いながら顔を上げた。


「小野さん?」「こはる?」


 俺と七月さんの声が重なる。そして次に俺達を認識した小野さんは「えっ!?」と声を上げて一瞬固まっていた。


 ハッとすると俺達の間に座っているゆきちゃんを見つけ「あー! いた! 雪!」と安心した表情を浮かべる。


「はるねぇねっ!」


 椅子から降りると雪ちゃんは一目散に駆け出し小野さんに抱き着き顔を埋めた。


 俺と七月さんは顔を見合わせる。


 はるねぇね……はる姉……こはる姉? ってことか。


 納得して笑い合うと俺達も椅子から立ち上がり二人の方に向かう。


「二人がここまで雪を連れて来てくれたの?」


「「うん」」


「そっか、ありがとっ!」


「うん!」


「ラギっちもありがとね!」


「あぁ……うん」


 俺は殆ど何もしていないんだけどな。


「あれ? 雪、それ二人から貰ったの?」


「うん」


「そっかじゃあそれも合わせてちゃんと二人にありがとしようね?」


「うん」


 小野さんが優しく語り掛けると雪ちゃんは一歩前に出る。


「あきにゃ! にゃお! ありがと!」


「「どういたしまして」」


 雪ちゃんは恥ずかしそうにしながら小野さんの足元に抱き着きに戻った。


「よくできたね~!」と甘やかす小野さんの声。


 お姉ちゃんしてる小野さん新鮮過ぎてギャップ萌えだ。小野さんと雪ちゃんの絡み、これこそてぇてぇの権化だろ。


 いつも俺とあきななが配信でしてるてぇてぇなんて霞んで見える。これを見れないリスナーの皆が可哀そうに思えてきた。


「二人ともほんとにありがとね! てかてか、二人で来たの?」


「え、うん」


 俺が間髪入れず答えると小野さんはさっきまでのお姉さんっぷりはどこへやら。


「ずるいずるい! もー! うちも一緒に行きたかった!」


 あぁ、いつもの小野さんだ。


 謎の安心感を抱いていると小野さんは更に続ける。


「誘って欲しかったなー……今日はチビ達の面倒見なきゃだからこの後も一緒に回れないし……」


 肩を落とす小野さんに俺も七月さんも何と声を掛けようか迷っていると小野さんは「次はうちとも遊んでねラギっち!!」と暗い雰囲気を吹き飛ばした。


「うん、分かった」


 俺の返事を聞いて元気を取り戻したのか小野さんは満足そうに笑う。


「てかななっち浴衣凄い可愛いね!?」


「あーこれ、浴衣は浴衣でもワンピース浴衣なんだよー」


「え!? そうなの!? おぉほんとだよく見たら……」


 え、よく見たら分かるの? 俺なんて未だに浴衣との違いがあまり分からないんだが。


 七月さんと小野さんがキャッキャと女子トークに華を咲かせていると、雪ちゃんが退屈そうな顔で小野さんの裾を引っ張った。


「あーごめん雪! 退屈だったよね。そろそろ行こっか?」


「うん」


「それじゃうちらそろそろ行くね!!」


 頷くと小野さんはしゃがんで雪ちゃんに話しかける。


「じゃあ最後にもう一回お姉ちゃん達にバイバイしよっか」


 雪ちゃんは素早く頷くと俺達を見上げ天使の様な笑顔を向けて来た。


「あきにゃ、にゃお、バイバイ!」


 最後に手を振ってくる雪ちゃんに俺達も手を振り返す。


「あきにゃ、にゃおバイバーイ!」


 からかうように小野さんは雪ちゃんの真似をすると人混みの中に消えて行った。


 同級生にその呼ばれ方をされるのは何か恥ずかしい。けど良いな……それで猫耳メイドだったら……。

 と小野さんが猫耳メイド姿で「にゃお」と俺の名前を甘えるように呼ぶのを想像しそうになり頭を振る。


 そんな俺の様子を七月さんが不思議そうに見ているのに気が付いた。


「……俺達も行こっか」


「うん」


 スタッフの人にお辞儀をすると俺達はまた屋台が連なる道を歩く。


「七月さんって妹いたっけ?」


「ん? うん、いるよ。中学生の妹が。この前体育祭にも来てたよー」


「そうなんだ?」


 確かにいたかもしれない。だがそうか、妙に小さい子の対応に慣れていたのは妹がいるからか。納得した。


「それにしても雪ちゃん可愛かったよね~!」


「まさか小野さんの妹さんだとは思わなかったけど」


「ね! ビックリした! 妹と弟いるのは知ってたけど見た事は無かったからな~」


 弟もいるのか。そっか、チビ達って言ってたもんな。


「弟くんは確か~今小6だったかな?」


「そうなんだ」


「お腹空いた、何か食べよ?」


 唐突な話題転換に困惑しつつも確かに俺もお腹が空いたので近くの屋台に並ぶことに。


 辺りはすっかり暗くなり、並ばなくても直ぐに買えていたのに今は並ばないと買えないくらいに人が増えていた。


 もう少しで花火の時間だからだろう。


「あれ……?」


 焼きそばの屋台に並んでいると少し離れた所に海を見つけた。


 海も来てたのか、じゃあ隣にいるのは光か?――と思ったがどうやら女の人。


 あの女子が苦手な海が女の人と一緒にいる? しかも少しぎこちないが笑顔で話しているし。


 相手が誰だろうとよく見てみると――


「桃沢さん?」


 浴衣を着た桃沢さんだった。というか海も浴衣を着ている。


 この前limeで言ってた相手は桃沢さんだったのか。


 あの俺と同じく面倒くさがりの海が浴衣を着ているってことは……もしかして桃沢さんの事を好きになったのか?


「ん?」


 俺の呟きに反応した七月さんに指を差して確認する。


「ほら、あそこ。海と桃沢さんじゃない?」


「んーどこ? あっほんとだ!」


 そう言うと七月さんはノータイムでスマホを取り出しパシャリ。


 盗撮では……? というか


「桃沢さんって彼氏いなかったっけ? 大丈夫なのかな」


 桃沢さんの彼氏って確か年上とか聞いたことがあるが、海……ボコられないか?


「それなら大丈夫だよ。彩香夏休みの間に別れたらしいし。だからそういうのは大丈夫でしょ」


「そうなんだ」


 七月さんの言葉を聞いて杞憂だったなと安心すると俺達の順番がやってきた。


 焼きそばを2つ注文しようとしたら七月さんが俺の言葉を遮り、1つ頼んだ。


 困惑している俺を見ると七月さんは口元をニヤリとさせる。


「半分こしたら、他の美味しいやつもいっぱい食べれるでしょっ」


「なるほど」


 にへらと子供の様に笑う七月さん。


 でもそれって間接キス祭りなのでは……?



 その後もフライドポテトやたこ焼き、フランクフルトなどを全部一つずつ買った。


 値段もそこそこ高いのだが、ボリューミーで一人で全部はとても食べきれそうになかった。


 色んなものを食べたいなら、確かに二人でシェアした方が食べれるなと納得した。


 幸い、焼きとうもろこしは買わなくて済んだ。


 あれだったら歯形が残ってシェアするのは生々しくてちょっと抵抗感があるからな。それにコーンが歯に詰まるし。





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