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第98話 祭りのクジ引きなんてクソらしい

 

 かなりの量のベビーカステラの紙袋を持ち歩きながら途中塩ものが欲しいと七月さんが言うので、唐揚げを買うと俺の両手は塞がった。


 完全なる荷物持ちと化した俺。七月さんは唐揚げを美味しそうに食べるのをわざとらしく見せつけてきた。


「俺も食べたいんだけど」


「いいよ」


 だからどっちか持ってと言う前に七月さんは爪楊枝を唐揚げに差すと俺に向けて来る。


 げ、こんな人通りが多い所であーんしてくるのか。


 恥ずかしい気持ちを我慢して俺はさっさとかぶり着くと大きな唐揚げを口に無理矢理入れた。


「あう゛ッ!」


 思ったより熱くて吐き出しそうになるもなんとか我慢してはふはふしながら咀嚼する。


「あはは! 全く柊くんはあわてんぼうさんだなー。ゆっくり食べればいいのに。……あーそれとも~人前であーんされて照れてるとか~?」


 クスクスと目を細めて煽ってくる七月さんを軽く睨みつけると更にニヤニヤとした笑みを浮かべた。


 こいつ絶対さっきのかき氷の仕返しだろ。


 ようやく口の唐揚げを飲み込む事に成功したが、変わらず俺の両手は塞がっている。


 からかいに満足したのか七月さんはベビーカステラと唐揚げを交互に食べる。


「お、俺も食べたいんだけど……」


 またからかわれないか不安に思いながら言うと七月さんは片方の口角を上げた。


 うわ、嫌な予感。


「はい、あーん」


 今度はベビーカステラをあーんしてくる。自分で食べたいのだが、両手が塞がってる今、俺にはどうしようも出来ない。


 諦めて受け入れるしかなく、ベビーカステラを口に入れてもらう。


「んめ」


 やっぱり甘いのとしょっぱいの交互に食べると無限な気がするな。


 直ぐに食べ終わると次に俺は唐揚げを要求する。


「ねぇ、もうあーんに抵抗なくなってない?」


「え? まぁうん、慣れた」


「ちぇ、つまんないのー」


 そう言いながらも唐揚げを口に入れてくれる所に心の中で苦笑しながら程よい熱さになった唐揚げを食す。


 最後の一個を七月さんが食べ終わると「餌やりしゅーりょーか」と少し残念そうに空になったカップを俺の手から奪った。


 俺は動物か何かか?



 あ、ベビーカステラも奪われた。




「うわー射的だー」


「やる?」


「ううん、いいや。絶対当てれる自信ない」


「FPSしてるから当たるんじゃ?」


「柊くん、ゲームとリアルは違うんだよ」


 そんな真面目な顔で諭されなくても分かってるんだが。



「わー! 輪投げだ!」


「おー、やろうよ」


「柊くん、輪投げって思ってるより難しいんだよ」


「そ、そうなんだ」


 結局輪投げもせずにスルーすると次に見つけたのはクジ引きだった。また七月さんが「わークジ引きだー!」と反応するかなと思って視線を向けたが一切興味なさそうに他の屋台を見ていた。


「七月さん、クジ引きあるよ」


「ん? あぁそだね」


「クジはいいの? 一等最近流行りのパペットクンクンのぬいぐるみだってよ?」


 あまりのクジへの興味の無さに不思議に思い尋ねてみると七月さんは乾いた笑みを零す。


「ははは……あんなの絶対当たる訳ないんだよ。絶対当たりのクジ箱に入れてないよ。私知ってるもん。だってこういう祭りで当たってる人見た事ないし、ニューチューブでもお金持ちの人が全部引いても当たらなかったの見たし。クジ引きなんてクソだよクソ」


「で、でもそうとは限らなくない?」


 言っている事は分からなくはないが、頼むからクジ引きの屋台の目の前でそんな事言うのはよしてくれ。肝が冷える。


 せめて通り過ぎてから言ってくれ。


「子供に夢を見させておいて、実は当たり入ってませんとか最低だよ。純粋な子供を騙すなんて人間のすることじゃないよ」


 まぁ確かにそうだ。それに普通に犯罪らしいしな。


 と言っても今日祭りを見て回った感じ昔よりもクジ引きの屋台が無い気がする。


 見つけたのもこの一店舗だけだし。


 俺は七月さんの声がクジ引きの人に聞えてないかチラッと振り返って確かめると目が合う。


 俺がぎこちない笑顔を浮かべ会釈すると店主は苦笑しながら頬をかいていた。


 よかった、いい人そうで。


 もし怖いヤクザとかだったら終わってた。きっと逃げても地獄の果てまで追ってきて酷い目に遭わされて人身売買とかされた気がする。


 それにしても昔は一等がスニッチとかゲームのソフトとか高額のものだったのに今のクジはパペットクンクンって大分値段が下がったんだな。


 やはり最近は値上げばかりだし、法律も厳しくなっているしコスト的にも法律的にも難しいのかもしれないな。


 それに今はスニッチを手に入れるのすら困難な時代だからな。


 まぁ有名ニューチューバーがクジ全部買って当たりが無かったみたいな動画が滅茶苦茶伸びて世間で話題になった影響も多少あるのかもしれない。


 祭りの醍醐味のクジ引きが何だか地味になっているし、このまま無くなってしまうのではないかと思うと少し寂しい気もした。


 俺も昔は本当に当たれ~! って思いながら引いた時があったなぁ。


「懐かしいなぁ……」


 思わず口に出た言葉に七月さんは振り返り「何がー?」とベビーカステラをむさぼりながら聞いてきた。


「いや小学生の頃とかクジ引いてたなーって。勿論ハズレで全然回らないハンドスピナーとか絶対使わないおもちゃの銃とかよく分かんないストレス発散のやつとか貰ったなーって思い出してた」


「あはは! ハンドスピナーなっつ!! あ、あれもあったよね。えーと名前分かんないけど虹色のバネみたいなやつ!」


「あーあったあった!!」


 さっきチラッとクジ引きの屋台みたけど、まだあった気がする。


「思い出そうと思えば何か滅茶苦茶思い出せるよね。昔流行ったもの」


「そう?」


「うん、妖怪ドッチとか」


「あはは! ほんと懐かしいねー!」


 他にもたまもっちとか、ベイドレード。ミニ四駆とかも流行ったよな。


 一つ思い出せば芋づる式に昔の思い出が蘇ってくる。


「女子の間ではプロフィール帳とか心理テストとか流行ってたよー」


「あー確かにそんな記憶あるな」


 休み時間に女子から質問だけされて答えは教えて貰えないという歯痒い思いをさせられたっけ。


 そういえば何か最近またシール交換が再燃しているというのをニュースでみたな。



 昔の思い出話に花を咲かせていると、辺りを不安そうに見渡す5歳くらいの女の子に目が留まった。


 今にも泣きだしそうなその子を見て、俺は七月さんを一瞥すると彼女は俺に目もくれず駆け出していた。


 俺もそれに続き、女の子の元まで行くとしゃがんでいる七月さんの横に腰を落とす。


「どうしたの~? 大丈夫~?」


 猫にでも話しかけるような優しい声音で七月さんは女の子に話しかける。


 すると女の子は涙を浮かべた瞳を七月さんに向けた。


 そして次に隣の俺にも向けて来る。


 怖がらないように努めて優しく微笑むとそれが功を奏したのか、女の子は七月さんに近付き袖を掴むと声を絞り出した。


「あのねあのね……はるねぇねがいなくなっちゃったの……」


 やっぱり迷子のようだ。


「えーそうなの? それは困ったねぇ……お姉ちゃん達が一緒に探してあげよう!」


 不安な気持ちにさせないように明るい声で言うと七月さんは「ね?」と俺に同意を求めてきたのでコクリと頷く。


「お姉ちゃんの名前は、あきなって言うの。で、こっちの捻くれてそうな顔をしているお兄ちゃんがなおって言うんだー」


 おいなんか明らかに必要ない紹介が挟まれたが。というか、こんな小さい子に捻くれてるって意味伝わらないだろ。


 俺達の名前を聞いた小さな女の子は七月さんに指を差して名前の確認をする。


「あきにゃ?」


「そうそう!」


 そして次に指は俺の方に向けられる。


「にゃお?」


「うん、そうだよ~」


 な行は言いにくいよな。うんうん、滅茶苦茶可愛い。


 七月さんも同じ気持ちなのか顔を見合わせてフフッと笑顔が零れる。


「ゆきはね、ゆきっていうの」


「ゆきちゃん! そっかーゆきちゃんて言うんだ。凄く可愛い名前だね!」


 それにしても七月さん、小さい子と普通に会話出来てるの凄いな。


 俺は下手に喋らない方が良さそうだと考え、会話は七月さんに任せる事にしてゆきちゃんが一緒に来ていたであろう「はるねぇね」なる存在を探す事に。


 と言っても何も手がかりが無いのでキョロキョロしている人がいないか探す事しか出来ない。


「ゆきちゃん、取り敢えず歩こっか。歩ける?」


「ん!」


 七月さんはゆきちゃんの手を握ってゆっくりと立ち上がる。


 それに合わせ俺も立ち上がるとゆきちゃんが俺の方にも手を伸ばしてくる。


 その小さな手に優しく応えるとギュっと思ったよりも力がある事に驚きながら隣に並ぶ。


「柊くん取り敢えず本部テントに向かうのでいいかな?」


「うん、それでいいと思うよ。途中で見つけれたならそれはそれでいいしね」


「そだよね」


 三人で手を繋ぎながら本部テントを目指す事に。そこに行けば迷子の放送とかもきっとしてくれるだろうし、あとは大人に任せればいい。


「ゆきちゃんって今いくつなの~?」


「えーっと……6さいっ!」


「えー! 6歳って事は今は~なんだ?」


 考えたが分からなかったのかこっちに振って来た。


 えーっと……小6が12歳だから……。


「小学1年生かな?」


 俺が七月さんにそう伝えると、七月さんはゆきちゃんに尋ねる。


「今1年生?」


「うん!」


「そーなんだ! 学校楽しい?」


「うーん、たのしい!……けどごはんがやだ!」


「あはは、そっかぁご飯が嫌か~」


 ゆきちゃんと話す七月さんにコミュ力の差を感じさせられながら俺は周りを見渡す係に徹した。


 何もしてないわけじゃないぞ。ちゃんと周りを見て人とぶつかりそうだったら声を掛けたりしたからな。



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