第97話 お互い様
「かき氷のシロップって実は全部同じ味って本当なのかな? 試してみない?」
半分程食べ終えた頃、七月さんが皆一度は気になった事がありそうな事を言い出した。
「あーいいよ」
「じゃ柊くん目閉じて。私がどっちか選んで口に入れるから当ててみてよ!」
「分かった」
自分で確かめた事は無かったので七月さんの検証に付き合う事に。
お互いのかき氷をベンチに置くと俺はゆっくりと目を閉じる。
「いくよ」
「ん」
「あーん」という掛け声とともに口を開くとヒンヤリとした感触が口の中に広がる。それと同時に微かな味を感じる。
目を閉じてあーんして貰うの緊張して正直あまり味が分からなかった。
「どっちだと思う?」
「ごめん、よくわかんなかったからもう一回お願い」
「あはは、おっけー」
もう一度目を瞑ると直ぐに口に氷が入ってきた。
今度はしっかりと味覚に集中する。
あれ……? さっきと微妙に味が違う気がする。
俺は眉を顰めながら目を開け、疑問を口にした。
「一回目と二回目違う味にした?」
「え、なんでバレたのすご」
「やっぱりか」
分かんなかったからもう一回同じのを頼んだつもりなのに意地悪された。
「一回目がイチゴで二回目がブルーハワイ?」
「えぇ!! すご! 正解!」
おぉ、まさか本当に当たるとは思ってなかった。案外分かるもんなんだね。
「じゃあ次は七月さんの番ね」
「はーい」
目を閉じて無防備な表情をする七月さん。
なんかいけないことをしているみたいで緊張する。
「いくよ?」
「うん」
「あーん」
掛け声と同時に口を開け、顔を傾ける七月さんにドキりとしつつも落とさないように、俺は七月さんの口にかき氷を運ばない。
ぽかーんと目を閉じ、口を開けている間抜け面に思わず吹き出しそうになるも、堪えて肩を震わせる。
5秒程経とうかという時にようやく七月さんが目を開け「ちょっと!?」と声を上げた。
その反応に我慢できなくなり笑う。
「も~!」と恥ずかしそうに笑いながら頬を膨らませ軽く脇腹を小突いてくる七月さん。
「ごめんごめん、ちゃんとやるから」
「ほんとにー?」
疑いの目を向けられ「ほんとほんと」と答えるが俺が笑っていたからか、七月さんは訝しみながらも目を閉じる。
「はい、あーん」
「あーん」
口を少し動かし味を確かめるとふんふんと鼻を鳴らす。
「次いくよ、あーん」
次に入れたのは今と同じイチゴ。
七月さんは味を確かめると「んー?」と語尾を少し高くしながら唸って目を開けた。
「どっちも同じじゃない? 私分かんなかった!」
俺を疑いもせず清々しく笑う七月さん。
「く、ふふ。あはは!」
「え、なになに? そんなに何か面白かった!?」
「ふ、ははは。……だってどっちも同じ味食べさせたから」
「はぁぁ!? ねぇちょっとまた!? もー! 柊くんって結構意地悪だよね」
「あはは、ごめんごめん。はい、もう一個の味行くよ」
目の端に浮かぶ涙を拭いながらそう言うと、七月さんは素直に従い目を瞑る。
意地悪なのはお互い様だと思うが、まぁ悪戯はこれくらいにしとこう。
今度は本当にさっきとは違うブルーハワイを口にいれる。
七月さんの口に入ったのを確認してからストローを抜く。
「ん! 確かにちょっと違うかも!」
目を閉じ少しの間思案した後七月さんは自信なさげに答えを口にする。
「最初のがイチゴで後のがブルーハワイ?」
「そ、正解」
「やったー!!」
喜んでいた七月さんはふと真面目な顔に戻ると首を傾げる。
「目を瞑って食べても分かるなら同じ味って嘘ってこと?」
「あぁそれね。実はね原液自体は同じらしいよ。色と香りをつけて別の味に錯覚させてるらしい」
「ふーん?」
まだ少し言葉が足りなかったらしく、俺はブルーハワイのかき氷をザクザクと崩しながら説明を付け足す。
「人間の味覚って視覚と嗅覚に結構左右されるらしくて、だから俺達が今味を当てれたのは匂いのお陰だね」
「ほーなるほどね」
「ブルーハワイの匂いはよくわかんなかったから消去法で当てたけどね」
「え、私も。これイチゴだなって思ったけどブルーハワイよくわかんなかった。てか、ブルーハワイってなんだよって感じじゃない?」
「確かハワイで生まれたお酒とかじゃないっけ? よく覚えてないや」
「そうなんだ。柊くん物知りだね?」
「俺も昔気になって調べた事があったからね」
まぁ小学生の頃に調べた事だからあやふやな知識なのは否めないが。
溶け始めていたので氷を口にかき込むと、カップを傾けて溶けて水になったものを飲み干す。
七月さんが食べ終わるのを待っている間、特にやる事もなく再び通りを眺めることに。
お父さんに肩車されて楽しそうな親子。綿あめを手と顔に引っ付けてべたべたでお母さんが「あぁもー」と拭いてあげる微笑ましい光景。
カップルが身を寄せ合い、手を繋ぎ二人の世界に入り込んでいたり、わいわい騒ぐ学生の集団。
偶然会い、一緒に回る事になったっぽい男子2女子2のグループ。お互い嬉しそうなのを隠しきれていない表情。
色々な青春が、それぞれの物語がこの会場で紡がれているんだと思うと凄い。
「ね、柊くん。ベビーカステラ食べよっ!」
一人で物思いに耽っていると、七月さんも食べ終えたのか前のめりに近くにある屋台を指差した。
「さっきから目に入ってたら何か食べたくなっちゃった!」
「ベビーカステラ? いいね。じゃ買いに行くか」
「うん!」
カップを重ねてゴミを持つと「あ、ありがと」と微笑まれる。
「柊くんって細かい気遣いできるよね。配信ではデリカシー無かったりするのに」
一言余計な気がするが。
「だって配信で七月さんに気遣いしてたら面白くないでしょ」
「それもそっか」
それで納得したらしい七月さんは勢いよく立ち上がると「ほら行こ?」と優しく笑いかけてきた。
頷き立ち上がり、近くにあったゴミ箱にゴミを捨てると俺達はベビーカステラを買いに向かった。
ベビーカステラ何気に初めて食べるのでワクワクしているのは内緒だ。
「んま」
「バクバクいけちゃうね!」
ベビーカステラ意外と量多いぞ。頼むサイズミスったかもなと思いながら紙袋からまた一粒口に入れた。
うん、甘すぎずパサつき過ぎず美味しい。




