第100話 現実で言われるのにはまた違った恥ずかしさがある
屋台の端の方まで来たのか、この先は神社で行き止まりだからか人がそんなに多くなかった。
近くの石の上に腰掛けると、俺達はまずラムネを開ける事に。
「これを飲まなきゃ始まんないよね!」
七月さんの発言にもう終わりの方が近いけど、というツッコミはせずに玉押しを押す。
カコンというビー玉が落ちる音がすると同時にシュワシュワと炭酸が上がってくるが幸い零れる事は無かった。
「ふんっふんっ!」
というか、相変わらず硬いな。七月さんも苦戦してるし、これ絶対子供開けれなくない?
そう思いながらずっと何も飲んでいなかったカラカラに乾燥した喉にラムネを流し込む。
途端に炭酸の刺激が口に広がり、爽やかな気分になる。
乾いた喉が潤うのを感じていると隣で「ふぬ゛ぅ゛ぅぅぅ!!」と可愛げのない声が聞えた。
「ぬはははっ!」
自分で出した声が面白かったのか笑い出す七月さんに釣られて俺も笑う。
笑って余計に力が入らなくなったのか七月さんは俺に「開けてー」と頼んできた。
「はいはい」
「もーらいっ!」
俺が開けようとラムネ瓶を受け取った瞬間、七月さんは俺のラムネをかっさらった。
「え、ちょっと」
俺の言葉が届く前に、七月さんはラムネ瓶に口を付けゴクゴクッと喉を鳴らす。
「くはぁ、うまっ! ごちさまです!」
呆れながら俺は七月さんのラムネを開ける。
今回も上手くいった。ラムネを上手に開ける大会があったらかなりいい順位に行けそうな気がする。
「開けてくれてありがと!」
「…………」
俺の分を飲んだ事を何とも思っていない様にラムネを受け取ろうと手を伸ばしてくるのが少し癪で、仕返しとばかりに数口飲むことに。
「あーっ!!」と喚く七月さん。
「はい、おあいこね」
「くっそぉ!」
自分だけ沢山飲むなんてズルい事はさせない。俺よりも唐揚げ一個多く食べてたし、それにベビーカステラも俺はもうちょっと食べたかったんだぞ。
七月さんとお互いのラムネを渡し合い、元に戻る。
瓶を傾け残りを見てみるとあと半分くらいになっていた。
あれ……こんなに減ってたっけ? いや、俺も最初飲んでたから七月さんが滅茶苦茶飲んだと疑うのは流石に違うか。
「じゃ、何食べる?」
「俺焼きそば食べていい?」
「いいよー」
焼きそばのパックを開けると食欲を増進させるソースの匂いが漂う。
お腹が空腹を訴えてくるので俺は早速箸を割ると具材たっぷりの焼きそばに手を付けた。
「じゃ私はたこ焼き~」
ルンルンでたこ焼きを口に入れようとした瞬間、唇に当たったのか七月さんは「あちっ!」と声を上げる。
「やっぱ熱いからフランクフルトから食べよ……」
口に付けたたこ焼きを元に戻し、袋をガサゴソと漁りそんな事を一人で呟いていた。
何かしらずっと喋っているのは配信の影響なのか……?
職業病じゃんと思いながら焼きそばを食べ進めていると七月さんが「はい」と半分程食べ終えたフランクフルトを焼きそばの上に乗っけて来た。
「え、食べるのはや!?」
「そう?」
七月さんは次にフライドポテトとたこ焼きを交互に食べ始める。
串を掴み七月さんが食べた後のフランクフルトを口に入れてみると肉汁がぶわっと溢れ、塩味が効いていて思わず声が漏れる。
「ん、おいしい」
「でしょでしょ! 買ってよかったでしょ!?」
「うん」
正直、焼きそばとたこ焼き。それにフライドポテトを買ったからもういらないんじゃないと提案したんだが七月さんが駄々をこねたので買ったのだが、その選択は正解だったみたいだ。
「ねぇ私も焼きそば食べたい」
「ん、いいよ」
丁度半分程食べ終わった頃だったのでタイミングがいい。
俺は最後にもう一口焼きそばを食べ、たこ焼きと交換していると
「くぅーお熱いこった!」
通りすがりの酔っぱらいらしきおじさんが大きな独り言を漏らしながら通り過ぎて行った。
「「…………」」
ネットのコメントとかで言われるのには大分慣れていたはずの俺達だったが、こう面と向かって現実で言われるのはまた違った恥ずかしさがあり唇をつぐむ。
「た、たこ焼き残ってるのそっち置いていい?」
8個入りのたこ焼きでまだ七月さんは2個しか食べていなかった。なので焼きそばの上にのせていいか気恥ずかしい空気を取り払うように躊躇いながら聞く。
「あ、あぁうん。いいよ!」
お互い先程よりも口数が少なくなりたこ焼きを移すと黙々と食べ始める。
このフライドポテト、塩味しっかり効いてて旨い。
汗をかいて失った塩分を補給できる感じがする。
残り少なくなったたこ焼きとフライドポテトを食べているとそろそろ花火が始まる旨のアナウンスが聞えて来た。
「花火見るの久しぶりかも」
「私も」
「え、そうなんだ?」
俺は去年友達がいなかったから家で花火の破裂音だけ聞いてたんだが、七月さんもなんて意外だ。
そう思っていると七月さんは「あっ」と思い出したように俺に顔を向けて来る。
「ごめん嘘ついた。私去年優衣と行ったんだった」
「なんやねん」
渡辺さんとは中学からの知り合いらしいから、他にも友達いるだろうし行ってない方がおかしいよな。
えへへと頭を掻いて笑う七月さんに呆れ笑いしているとヒューという口笛のような音が耳に入る。
自然と俺達は空を見上げ、周りの人達も一緒になって空を見上げる。
次に破裂する音。ほぼそれと同時に空に花が咲き、直ぐにパラパラと散らばるような音が続けて鳴って消えて行った。
「――綺麗だね」
「………そうだね」
それだけ言葉を交わすと俺達は明滅する空に再び意識を向けた。
破裂の重音が地面から身体に響くのを感じながら残り少なくなったラムネを一口含む。
夜空に鮮やかな光の花を咲かせて散る。一瞬だけ咲き、直ぐに散るその様は儚く、とても美しかった。
日頃の悩みや、夏休みがもう終わりなんて事は吹き飛び、何を考えるまでもなく。ただただぼーっと花火を眺めていた。
フィナーレで次々と同時に何発も打ち上がり、辺りから歓声が上がる。
そして最後に今までで一番長い笛の様な音が鳴り止むと、少しの間を空けて轟音と共に特大サイズの花火が夜空を飾り、散った。
花火の音で聞こえていなかった屋台の人の声や、祭囃子が再び聞こえ始める。
「最後凄かったねー」
「ねー。びっくりした」
「ママ~わたあめ食べたーい!」
人々の興奮冷めやらぬ会話に耳を傾けながら再びラムネを飲む。
「また来たいね」
そう七月さんがしみじみと呟いた。
「来年浴衣でリベンジってさっき言ってたじゃん」
「あははそうだった。あれ? それ言ってたの柊くんじゃなかったっけ?」
「そうだっけ?」
覚えてないな。
俺は花火の余韻を感じながら思いを巡らせる。
人間関係なんていつどうなるか分かったものではない。少しのすれ違いや勘違いで一瞬にして崩れ去ってしまうのだから。環境の変化でも変わるし、いつかはきっと疎遠になる。
だから来年まで友達でいられるかは分からない。
けれど、俺はまた来年七月さんとこの花火を一緒に見たいなと思った。
あれ、ポテトが無くなってる。
むしゃむしゃと口を動かしている七月さんにジト目を向けると本人は不思議そうに首を傾げた。
七月さんってやっぱり意外と食べるよな。
俺は残り一つの少し冷めたたこ焼きを口に入れながらそう思うのだった。




