第93話 四人の水着と取り乱すレアな渡辺さん
数日後、家でアニメを見ているとlimeの通知音が聞こえた。
今滅茶苦茶いいシーンなので後からでいいかと無視していると立て続けに鳴り響く。
ピコンピコンピコン
え、何!? 壊れた?
こんなに通知が連続して鳴るのは初めての経験で怖くなり、アニメを止めスマホを手に取る。
画面を見てみると15件の通知。どうやら写真が送られてきているらしい。
何事かと思い俺は急いでlimeを開く。
送られてきていたのは二人から。
まず七月さんの方のトーク画面を開くと【約束の写真だよっ】という文字が添えられていて、その下に海や砂浜をバックに楽しそうにピースをしている水着姿の4人の写真が送られてきていた。
本当に送ってくるのかよ……。
七月さんの水着は黒と白のチェック柄のフリルのついたオフショルダー。肩紐には可愛らしいリボンが飾られていて短い黒のスカート。
確かに露出は控えめではあるが、チラッと出ている肩やお腹が逆に惹きつけられる。
隣の小野さんは肩が空いている黒いフリルに鼠色のグレンチェックのキュロットスカートで少し子供っぽい水着かもしれないが、小野さんの純粋さを表すような元気さを感じさせられて凄く似合っていた。
桃沢さんはやはりギャルと言った感じで一番露出が高い。
紺色のビキニに上からふわりとしたシースルーのシャツを着ていて大人の雰囲気がある。
最後に渡辺さんは一番露出が少なくて、これこそ七月さんが言っていたようなほぼ服という感じの水着。
黒いハイウエストなキャミソールワンピに、少し透け感のある灰色のクロップドアウターを上から着ている。
灰色一色ではなく、真ん中に黒英文字と星があることによって、大人しい雰囲気の中にも可愛らしさが出ていた。
しかも長袖で日焼け対策まで出来るっぽい。
普段制服姿とかしか見る事のない皆の水着姿は凄く魅力的だった。七月さんと小野さんの私服は見た事あるけど。
邪な思いも多少湧いたがそれよりも、皆それぞれ性格が反映されてるみたいで何だか面白いという気持ちの方がデカかった。
水を掛け合っている写真や、小野さんが桃沢さんに後ろから抱き着いている写真。渡辺さんがサングラスをかけて浮き輪でのんびり波に揺られている写真等が送られてきていた。
俺は【皆水着似合ってるし、楽しそうでいいね】と返信して、記念に保存しておくことにした。
Limeは日にち経ったら写真が見れなくなるからね。勿体ないし、折角送ってくれたんだから。
決してやましい事に使ったりするわけじゃない。普通に女子から水着姿送られてくるのが貴重過ぎて思わずだ。
あとから見返して、こんな事もあったなぁとか。この四人と結構関わりあって楽しかったなぁなんて思いを馳せる時がくるかもしれないし。
アルバムとかに追加すると消えないんだけど、俺がそれをするわけにもいかないので。
そしてもう一人の送り主、小野さんのトークを開く。
こはる:【皆で海きた!】
同じように皆で撮った写真や貝や小さいカニの写真。七月さんが砂で遊んでいる写真などが表示された。
七緒:【いいね、楽しんで!】
こちらもしっかりと保存させて頂いて返信すると、直ぐにサムズアップをしたスタンプが返って来た。
皆で海、いいなぁと思いながらlimeを閉じアニメを再開しようとしたところで再び通知が届いた。
明奈:【でしょでしょ~!】
文章を見るだけでもテンションが高いのが伝わってくる。
いや七月さんは比較的いつもテンション高いしいつもと変わらないか。
七緒:【こういうのあんまり人に送らない方がいいんじゃない?】
テンションが上がって他の人にも送っている可能性を心配してそんな事を聞く。
俺は絶対悪用しないけど、他の人だと魔が差して変な事に使ったりするかもしれないし。
明奈:【大丈夫だよ。送ってないよ、柊くんにしか】
七緒:【え? なんで?】
では何故俺だけに送って来たのかが気になってしまう。もしかしてやっぱり……。
明奈:【それは~ひ・み・つ】
七緒:【そっか】
やっぱり俺の事好きなのでは? あーもう何考えてるのか本当に意味わかんない。今までは怖いという感情でいっぱいだったのに、こうやってドキドキと心を乱されるようになってきている現状がしっかりと前に進めている何よりの証拠で、ちょっと変だが嬉しかったりした。
明奈:【あ、イソスタには上げたけど親友にだけだし水着では撮ってないから大丈夫だよ】
七緒:【そうなんだ。ならよかった】
イソスタはしてないからよく分からないが本人が大丈夫というなら大丈夫なんだろう。
七月さんはそこら辺意外としっかりしてるしな。杞憂だったかもしれない。
今度こそアニメを再開しようと少し巻き戻す。
すると今度は通話がかかってきて俺は思わず肩を跳ねさせる。
出たく無いが拒否のボタンを押したらバレるし、諦めるまで放っておけばいいかと放置することにした。
~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪――
暫くして着信音が途切れる。
やっと諦めたか。
そう思った矢先、再び着信音が流れ始めた。
えぇ……しつこいし何気音うるさいんだよな。
「はぁ……」
もうさっさと通話に出て話を終える方が早そうだと折れて応答ボタンを押す。
ビデオ通話……?
応答を押したらカメラが起動され自分の顔が映し出された。
うわ、最悪だ。メガネしてるのに。てかビデオ通話なんて初めてだぞ。
初めてのビデオ通話に緊張していると、七月さんの顔がドアップで映し出される。
いや近いな。てか肌綺麗……。
映ったのを確認したのか七月さんは画面から離れると目を細めて『やっほー』と手を振ってくる。
俺もそれに呼応するように「や、やっほー」と手を挙げる。
『あはは! 笑顔ぎこちなさ過ぎでしょ!』
「うるさい」
『え? てかメガネだ!? 柊くん目悪いんだ!?』
「うん」
文章じゃ伝わってこなかったが、七月さんはいつも以上にテンションが高いらしい。滅茶苦茶元気だ。
『ん~?』
小野さんが興味深そうに横から覗き込んで来た。
『あ! ラギっちやほやほ! ほんとだメガネだメガネ!』
「やっぱ変? 似合ってないよね」
メガネの事を二人に触れられ目を背け自嘲する。
自分でもあまりメガネは似合っていないと思っている。だから早めからコンタクトに変えたのだ。
メガネ姿を見られるならやっぱり出なければ良かったかなと落ち込みそうになっていると、小野さんはジュースを一口飲み『そんなことないよ! 似合ってる似合ってる!!』と否定した。
それに付け足すように七月さんも『うん、似合ってるよ。メガネ姿も新鮮でいいね!』と褒めてくれた。
そう言う二人はとても嘘を言っているようには見えない純粋な表情をしていた。
「ありがと」
初めてメガネ姿を褒められたことで、思わず表情が和らぐ。
「今昼ご飯?」
『そう! ほら』
七月さんがカメラを反転させるとやきそばを食べている渡辺さんと、パフェの容器に入ったかき氷やアイスクリームを美味しそうに食べている桃沢さんの姿があった。
桃沢さんそれが昼ご飯? と目を疑ったがよく見れば空の皿があるので既にご飯は食べ終わっていたらしい。
渡辺さんはカメラに気付くと眉を顰め、一瞬怪訝そうな表情をするもカメラに向かってピースしてきた。
普段なら渡辺さんはそんな事しなさそうなイメージなのだが、非日常感にテンションが上がっているらしい。
渡辺さんって真面目でお堅く見えるけど実際そんなことはなく、表情に出にくいだけでしっかり楽しんでる節がある。
幸せそうに黙々と食べている桃沢さんはその渡辺さんの行動で自分達にカメラが向いている事に気付いたのか、慌ててカメラに向かって手を伸ばし顔が映らないようにする。
『ちょっ、ちょっと急に映さないで!?』
『あははごめんごめん~』と七月さんは桃沢さんに謝りながら内カメに戻す。
『明奈、どんな感じに撮れた? 見せて』
『え、優衣ごめんこれビデオ通話だよ?』
どうやら渡辺さんは写真か動画だと思っていたらしい。
七月さんと小野さんが話していたから分かってるはずだと思っていたんだけど、ご飯に夢中で聞いてなかったのか……?
再び渡辺さんと桃沢さんが映し出される。
内カメのままだったのでスマホの画面を渡辺さんに向けているのだろう。
『……え?』
俺の顔を見て口を開け一瞬フリーズする渡辺さん。
その後直ぐに口をギュっと結んで目を右往左往させる。
「あ、あはは……」
『ひ、柊くん……見、見てない……よね……?』
ごめん、渡辺さん。
「見たよ」
『あぁぁ!! 今すぐ忘れて! 恥ずかしいっ!』
顔を覆い机に突っ伏しぶんぶんと首を振って耳を赤くする。
ここまで取り乱している渡辺さんは初めて見た。ちょっと面白い。
これ以上映すのも悪いと思ったのか七月さんはスマホの画面を自分の方に戻す。
七月さんは申し訳なさから引きつった笑顔で渡辺さんの方に視線を向けていた。
そこまで恥ずかしそうにされると俺が何か悪い事したみたいに思えて来る。
それと同時に珍しいものを見れて何だか得した気分でもある。
『ゆいちゃんがこんななるのレアだよね、ね?』
『確かにあたしもこんな恥ずかしがってる姿初めて見たかも』
『柊くん、ナイスだよっ!!』
サムズアップしてくる七月さんに、内心渡辺さんを気の毒に思いながら微笑み親指を立て返す。
画面の端に映る小野さんに目をやると、やきそばを口いっぱいに含んでリスみたいなほっぺになっていた。
俺が小野さんの方を見ているのが分かったのか、七月さんは小野さんがもっと入るように画角を調整する。
すると映っている事に気付いたのかモグモグしながら無表情でピースをするとチラッと渡辺さんの方を見た。
さっきの渡辺さんの真似なんだろう。
『こ~は~る~?』
渡辺さんに威圧された小野さんは滅茶苦茶楽しそうに目を細めていた。
画面の向こう側で行われている見えない部分を想像で補間しながら微笑ましい気持ちになる。
ピースしただけでここまでイジられる渡辺さんが少し不憫に思えてきたな。
四人の笑い声が響く中、俺も一緒になって笑う。
そろそろいい頃合いだろうと思い俺は「それじゃ」と口を開く。
「楽しんでね」
『うん! ありがと! また写真送るね!』
いや、別にもういいんだけど……。
通話を切り、背もたれに体重を乗せると急に現実に戻される。
さっきまでザワザワと騒がしくも楽しそうな皆の声。遠くに微かに聞こえる波の音が消え、部屋にはエアコンの稼働音と蝉の鳴き声が壁を貫通して聞こえてくるだけ。
「はぁ……」
いいなぁ俺も行きたい……。
家も快適でいいが人が楽しそうにしていると途端に羨ましい気持ちが湧いてくる。
なんだか俺もその空間にいるような感覚で楽しかったからか喪失感に襲われる。
何で俺は人のキラキラとした青春を見せられてダメージを受けなきゃいけないんだ?
けどまぁ、家から出るの面倒くさいんだよな。誰か俺を無理やりにでも連れ出してくれないかな。
物思いに沈んでいると再びスマホからlimeの通知を知らせる音が鳴る。
明奈:【あ、彩香と優衣もメガネ似合ってるって言ってたよ!】
七緒:【そうなんだ。全然言われた事ないから嬉しい。ありがとう】
顔が整っている四人にそう言われたら、少し自分のメガネ姿にも自信が出てきた気がする。
自分では似合っているとは思えないけど。
その日の夜は流石に七月さんは配信していなかった。
流石の七月さんでも海で遊び疲れたのだろう。
【あれ、今日一人なんだ。珍し】
【振られた?】
「いや振られてないが!? あきななは今日友達と海行ったらしいから疲れて寝てるんじゃない?」
【ふーん、そういうことも連絡取り合ってるんだ】
【付き合いたてのカップルかて】




