第92話 配信の為なら変態にもなれる
『ねー。そういえば今度友達と海行くんだけどさ、ラギくんは女の子がどういう水着着てたら嬉しい?』
試合が終わり、ゲームのロビーに返ってくるや否や話題を振ってくるあきなな。
「え? うーんそうだな……」
海行くのか。いいな、青春ぽくて……ん? それは渡辺さんとか小野さんとかと一緒に行くのだろうか。
「てかまず水着ってどんなのがあるか分からん。ビキニとかしか知らないんだけど」
『ふーん……。ラギくんはやっぱりそういうのが好きなんだ? 他にもいっぱいあるのにやっぱり露出多い方が好みなんだ?』
声から目を細め、からかうような表情を浮かべているのが容易に想像できる。
ビキニしか知らないって言ったらなんか勝手にビキニが好きみたいな事にされたんだけど。納得いかない。
でも露出多い方が好みではあるだろ。全男子そうだろと思いつつも恥ずかしくて返答に困る。
【ビキニしか知らんとかエロガキめ】
【童貞確定】
「エロガキ言うな!?」
よし、あきななからの質問から逃げるためにコメントの皆を利用させて貰った。
童貞云々は無視無視。
『やーいエロガキ~!』
女の子に言われるのはそれはそれで悪くな――
「俺がガキならお前もガキじゃ」
あきななは声を上げて笑いながら水着の種類を教えてくれた。
『最近の水着はね、もうこれほぼ服じゃん!? って感じのやつもあるんだよ』
「そうなんだ? でも水に濡れたら気持ち悪くない?」
小学生の頃に着衣水泳をやった時の事を思い出す。
重いし、肌に張り付いて凄い気持ち悪かったんだよな。
『あはは! 勿論素材とかは違うからね? あぁあれだよワンピースとかそういう系の水着とか見たことない? あとラッシュガードとかさ』
「あーなるほど? 日焼け対策にもなりそう」
『そうそう! 露出少な目だから日焼け対策楽でいいの~!』
【ほえぇ最近はそんなものが……】
【ほぼ服の方が何かエッチかもしれん】
【分かる、ラッシュガードとかエロいよな】
一体いつまでこの水着の話題を続けるんだ。男の俺は気まずくて堪らないぞ。
コメント欄みたいに迂闊な事は言えないし、あきななに変態って思われたくもないからな。
【スク水で行く人って実在するのかな?】
確かに気になる。
もう水着の話から話題を逸らそうと思ったが、最後にこれだけ聞いてみる事に。
「コメントでもあったんだけどさ、アニメとかでよくあるスク水で行く人とかって本当にいるのかな?」
『流石にいないでしょ。アニメの見過ぎだよラギくん……』
おもむろにため息を吐き心配そうに言ってくるあきなな。
「何か哀れられてるんだけど……」
【どんまいラギ】
【うん、流石に俺も無いと思ってたよ】
【あれはフィクションだから】
コメントにあったから聞いたのに俺がそう思ってたみたいに事実が捻じ曲げられていて不服だ。
俺も現実にはいないと思ってたし! でもちょっとだけいるのかなって信じてたのも事実。
ん……? いや待てよ。俺小学生の頃見かけたぞ。高校生くらいのカップルがスク水でイチャイチャしているのを。
妄想とかじゃなくて、しっかりとこの目で。
当時の俺はイチャイチャの刺激が強過ぎたから記憶に残っているのだ。
思い出しはしたが、それを口には出さない。
だってどうせ誰も信じないだろうし、なんなら俺の頭がおかしいと思われるかもしれないからな。
『で! ラギくんは結局どういう水着が好みなの?』
あきななは食い気味に話を元に戻す。
「え~……」
どんな水着があるのか分からないって俺さっき言わなかったっけ?
「スク水で」
『えぇなんでっ!?』
迷った結果、話の流れ的にも知っている水着的にもそう答えるのがいいと判断したがどうやら正解だったらしい。
【変態だw】
【速報:ラギはムッツリだった】
【スク水いいよね】
あきななも笑ってくれたし、コメントも一時的に増えた。
配信を盛り上げる為ならどうやら俺は変態にもなれるらしい。
そういえば、女の子が着てたら嬉しいって聞くということは、男友達とも行くのだろうか。
あぁ俺少し自意識過剰だったのかもしれない。
今まで七月さんが俺に少なからず好意を持っている気がしていた。でも誘われていない現状を考えるとどうやら違ったみたいだ。
そりゃそうだよな。七月さんは誰にでも優しくて可愛い陽キャ女子なんだから、俺以外の男友達がいても何ら不思議な事ではない。
でも今度友達と海に行くとしか聞いてないので俺は念の為に尋ねてみる事に。
「てか一緒に海行く友達って同性?」
『んーどっちだと思う?』
「いや、同性だなこれは」
ただの俺の勘だが勿体ぶるってことは恐らくそうだ。
『んー、どうだろうね?』
意味ありげな発言に心がザワつく。
「え? いやいや同性でしょ?! そうであってくれ」
【心の声漏れてるぞw】
【同性だろ】
【そうと言ってくれ……!】
あ、配信してるからもし男友達と行くんだとしても言う訳ないか。
そしてこんなに仄めかす様に言うって事は恐らく同性である事が確定する。
もし仮に男友達と行くとするならば、リスナーにバレないように即同性だよって言うはず。
こうやってわざわざリスクを取る理由が無い。
ケラケラと俺を弄ぶように笑うあきななの考えを読み切った俺はホッと胸を撫で下ろす。
本当は男友達とも行くんだとしたら、強心臓過ぎてちょっと引くが。
『ラギくんは同性じゃないと嫌なんだ?』
頭では無いと結論付けているのに、その言葉を聞くと無性に不安が込み上げてくる。
「えっ、いや……まぁ……嫌じゃないと言ったら嘘になる……」
不安からか普段なら言わない様な事を口走りってしまい、慌てて口を塞ぐも遅かった。
『ふふふ、ラギくんは私の水着他の人に見られたくないって事ね。も~素直じゃないなー!』
やけに嬉しそうに声を弾ませるあきなな。
「…………」
『心配しなくても同性の女の子の友達としか行かないよ~。あとラギくんの為に露出少な目な水着にするねっ』
『まぁ元からそのつもりだったんだけど』と付け足して、してやったりと笑うあきななに俺は微苦笑を返す。
【ラギは異性と二人きりでボーリング行ってたらしいけどなw】
『確かにそうじゃん! ズルい! なら私も何か言われる筋合いないじゃん!! 私も男の子と二人きりで出掛けようかなー!?』
いやこの前デートしよって誘ってきて二人きりで映画見たりプリクラ撮ったりしたじゃん。
女性配信者は男の影があると伸びにくいから当初は隠していたが、今となっては別に隠さなくてもいいのではないかという考えも少しある。
だって俺とあきなながてぇてぇしてた方が何故か伸びているんだから。
だが今は、リスナーは俺とあきななが同じ学校の同じクラスという事を知らないので、心の中で静かにツッコミを入れる。
「好きにしたら?」
『えっ冷たッ!? そこは止める所でしょ!?』
「はいはい、次の試合行くよー」
『無視ッ!?』
【突然来るあき虐すこ】
【もう会話が熟年夫婦みたい】
【これで付き合ってないマ?】
夏休みと言えど、あまり夜更かしをするのはよくないので1時頃に配信を終えた。
1時はもう立派な夜更かしだろって思うかもしれないが、ゲーマーや配信者の中で夜更かしは4時とか5時だと勝手に思っている。
そこまで起きてたらもう寝ない方がいいと一睡もしない場合もあるんだけど。
でもそんな生活をしていたからこの前の体育祭練習の時倒れたんだよな。それで七月さんにラギってバレたし。
普通に頭に靄がかかるし、身体全体が重く怠いし眠いし、肌も荒れるし本当に何も良い事がない。
でもついついしてしまうんだよな。
最近はわりかしやめれているけど。
寝る前にベッドに横になりツニッターをダラダラと眺めているとlimeの通知が来た。
友達登録しているのは限られた数人。そしてこんな遅い時間に送ってくる人物は一人しかいなかった。
明奈:【今度海行ったとき、水着の写真送ってあげるからね♡】
七緒:【いや、結構です】
明奈:【照れちゃって~】
【楽しみにしててねっ!】
七緒:【ハイハイ】
配信でも似たようなやり取りをして何言っても無駄だと判断した俺は素っ気ない返事で会話を終らせる。
おやすみという猫のスタンプが送られてきたので俺も【おやすみ】と返して天井に目をやる。
水着を着た写真を同級生の男子に送るってどういう神経をしているんだ。七月さんって実は痴女なのか?
それとも俺は男として全く見られてない? やっぱり俺の事好意的に見てたのはただの俺の勘違いだった説が再び浮上してきた。
恥ずかし過ぎて死ねる。




