第90話 新たな願いと約束
食事を終えるとペットショップに子犬や子猫を見に行き二人で可愛いね~と和やかな気持ちになった。
店員さんの厚意で少しだけ触らせて貰えたのだが、小さくて可愛くてふわふわで最高だった。
家に帰ったらこの子達がお出迎えしてくれて癒してくれるって想像するとたまらない。
昨今は恋人の代わりにペットだったり、子供を産むよりもペットがいいという考えもあったりするらしい。
もういるだけで癒しだ。そりゃそう思ってしまうのも仕方ないのかもしれない。
「ね、柊くんこの子指舐めてきた! あは! くすぐったい!」
美少女と猫の組み合わせって凄い絵になるな。
ショッピングモールを端から端まで回ったと言っても過言ではなく、足は大分疲労がたまっていた。
途中休憩したりもしたが、七月さんは余裕そうな表情をしていた。
やっぱり女子って体力おばけじゃない……?
夏だからまだ外は明るかったが、時刻はもう17時を過ぎていた。
そろそろ帰ろうという事になり、近くの出口に向かう。
「っ!」
視界に女性ものの下着屋さんが目に入ると直ぐに目を逸らした。
こういう時ってどういう感情でいればいいの。どこ見とけば……あ、七月さん見とくか。
「…………」
「な、なんでずっと私見てるの……?」
「え、いやほら……」
不思議そうに顔を覗き込んでくる。
その純粋な丸い瞳に見つめられるのに耐え兼ねて俺は視線を逸らす。
ずっと目を合わせていると何故か俺の考えなんか全部お見通しなんじゃないかという錯覚に陥りそうになる。
「あー! 周り下着だからね! なるほどね!」
お見通しだったらしい。
「ふふ、可愛いねぇ~?」
気まずいって。
「なーんだ、窓から差し込む夕陽に照らされた私に思わず見惚れてた訳じゃないのかー」
「……」
何て返せばいいか分からず黙っていると「無視すんなし」と小突かれた。
そうこうしている内に下着売り場は視界から消えて気まずい空気から脱却。
しばしの間訪れた静寂を破ったのは七月さんだった。
「いやー今日は楽しかった、ありがと!」
今日一日を振り返るように視線を上に向けた後にこちらにニコッと笑いかけてくる。
「色んなとこ連れ回しちゃってごめんね? 大丈夫だった?」
俺の顔色から疲れが伝わっているのか気遣いの言葉を投げかけてきた。
「いや全然大丈夫。ショッピングモールだけでこんなに楽しめるとは思ってなかった」
いつも家族とくる時は退屈なのに、この違いは何なんだろう。
「あはは、それなー!? 私もびっくりだよ。でも、柊くんと一緒だったからこんなに楽しかったんだと思う」
また思わせぶりな事を言う七月さんに愛想笑いを浮かべる。
でも俺もそうかもしれない。きっと光や海と来てもここまでは楽しめなかっただろう。
勿論、それはそれで楽しめそうではあるが。
小野さんと来ても楽しそうだなと、色々なものに目を輝かせて飛びついている小野さんを想像しながら思った。
友達とこういう所に来たのは小学生以来だった。
その頃は服とか雑貨とかを見るのには全く興味が無かったのに今では違う。感じ方も変わり、俺も成長したんだなと実感が湧いたと同時に何だか少し寂しい気持ちにもなる。
「ほんと楽しかったー」
言いながら腕を上げ、伸びをする七月さんの背中に声を掛ける。
「ところで願い事は決まったの?」
「あ、そうだった」
どうやら忘れていたらしい。
思い出させなければ良かったと数秒前の自分の発言に後悔しつつ「決まってないの?」と苦笑いを浮かべる。
「うーん、難しいじゃん?」
「あと5秒で決めないともう願い聞きませーん」
「えぇっ!? ちょっ――」
「5~4~3~――」
意地悪かもしれないが、忘れていた七月さんも七月さんだ。だから5秒で決められなかったら願い事は無しだ。
俺がカウントダウンを始めると七月さんは更に焦り、目を閉じ急いで考えていた。
「2~――」
「あぁぁちょっと待ってちょっと待って!」
俺はカウントダウンを止めると言われた通り少し待つことに。
そうして願い事を決めたのか目をゆっくり開くと真剣な表情で俺を見つめてくる。
「願い事を言います」
「……はい」
宣言する七月さんに思わず背筋が伸びる。
「これから先、どんな事があっても私と仲良くしてください! これからも一緒にゲームとか配信とかしたいし……。リアルでもネットでもずっと仲良しでいたい!」
遠慮がちに上目遣いでこちらを伺いながら耳に髪を掛ける七月さん。
「……ダメ、かな……?」
頬が赤いのは決して夕陽なんかじゃなく、照れから来るもの。
「え? それでいいの?」
「うん、これでいいの」
正直もっと何か変で面倒くさい事をお願いされると思っていた。例えば、夏休みの宿題を写させろだとか代わりにやれだとか。何か高いものをせびられたり。
いや冷静に考えれば七月さんがそんな事を言うはず無いか。
まぁ俺だったら欲しい漫画とかラノベを数巻買ってもらうつもりだったけど。
七月さんの純情さと自分の醜さを比較すると心が痛い。
いやいや、人間は欲深い生き物だ。警戒しとく事は何ら悪い事じゃないぞ俺。それに七月さんは意外と意地悪な人だからな。俺の事をからかってくる事はしょっちゅうだ。
自分で勝手にダメージを追いながら自己ヒールをしていると七月さんは照れくさそうに笑う。
「――約束だよ?」
「……うん」
これから先、どんな事があっても……というのは絶対保障出来るものではないけど、俺としても七月さんとはこれからも仲良しでいたいと思っている。
七月さんが俺を嫌いにならない限りは。
因みに家に帰ってから直ぐに送られてきたプリクラのデータはしっかりと保存した。




