第88話 初めてのプリクラ
時は映画を観てからに戻り、ゲームセンターに着いた俺達はクレーンゲームを見て回る。
「やんないの?」
「えーだって取れないからやりたくない」
「あはは、分かる。俺も」
下手というのもあるが、苦労してお金をかけるのに取れるか取れないか分からないのは嫌だ。
それに大体探せば1000円とかでネットとからしんばんとかに売ってあるから本当に欲しい時はそこで買えばいい。
確かに苦労して手に入れるのが~とかそういうのは分かるからクレーンゲームを否定しているわけじゃない。
そして辺りは何故か夏休みなのにも関わらず、制服姿のJKが沢山いるエリアに来てしまった。
「ねね、プリクラ撮ろうよ!」
「え? えぇ?」
プリクラ機があるからここ女子多いのか。きっと制服プリとか撮りに来たんだろうな。あとは単純に部活帰りとかかな。……ちょっと胸が締め付けられて息が苦しくなってきたぞ。
プリクラって加工強過ぎて、もはや誰? ってなるし男がすると顔面キモくなるから嫌なんだよな。
そんな俺の思考を読み取ったのか七月さんは即座に補足する。
「今はそんなに加工強くない機種もあるんだよ! だから撮らない……?」
そんな目でお願いされたら断れないんですけど。
「分かった。いいよ」
「ほんと!? やったー!」
ここに長くいるのも辛いので了承すると、七月さんはいつの間にか手に持っていた100円玉を数枚機械に入れる。
あ、これ多分俺が断ってても何かと言ってきて強引に撮らされたやつだ。
「ねね、あの子すっごい可愛くない?」
「え? ほんとだー! 服もめっちゃ可愛い!!」
床を見ていたのだが、そんな声が聞こえてきたのでチラりと顔を上げると七月さんの方を見て言っているのが分かった。
七月さんは確かに可愛いし、今日の服装もおしゃれだと思っていたけどそれは同性の女子から見ても同じだったらしい。
そんな人と俺が一緒にいるなんて釣り合って無さ過ぎて顔無い。
周りの人の視線が痛い。怖い。どう思われているんだろう。
「柊くんこっちおいで」
委縮していると七月さんに手を取られ中に連れ込まれた。
「い、意外と狭いんだね……?」
「そうなんだよね。大人数で撮る時とかはおっきいの探してやるんだー」
「へぇそうなんだ」
プリクラなんて撮った事が無いからどうすればいいのか分からない。小さい頃に家族で撮ったらしい写真が家にはあったけど記憶は全くない。
機械からポップな音楽が流れ始め、声が聞こえる。
どうやら指示通りのポーズをすればいいらしい。
「カメラどこ?」
「これこれ!」
「あ、おっけぇ」
「ほら、もっと近く来て!」
前に表示されてる画面を見ると結構近づかないと画角に収まらないらしい。
ほぼ密着状態。
ち、近い……。
ポーズの指示を音声で言われても分からず混乱するが、画面に見本が出てきてそれ慌てて真似し七月さんと合っているかも確認する。
『3、2、1』
言われた通りのポーズをすると直ぐに次のポーズが指示される。
二人でハートを作るらしい。
『3、2、1』
シャッター音が鳴る直前、七月さんがハートを崩すのが画面で見えた。
「え?」
「えへへ」
七月さんはサムズアップをしていた。
「ポーズって従わなくてもいいんだ?」
「そりゃそうだよ、あはは!」
混乱している俺がそんなに面白いのか口角が上がり切っている。
そりゃ初めてなんだから分かる訳ないだろ。
その後、指定されたポーズをしたり七月さんが提案したポーズをしたりして撮影が終わった。
「じゃ次は落書きたーいむ!」
慣れなさ過ぎてポーズをするだけで精一杯だし、七月さんからほっぺを触られたり肩を組まれたり頭を引っ付けられたりして俺はもうずっとガチガチだった。
ドッと身体が重くなるのを感じながら心を落ち着かせる。
みんなこういうの普通にやってるのかな……凄いな。流石陽キャ。やっぱり根っからの陰キャの俺とは住む世界が違う。
というか価値観とかが根本から違うんだと思う。うん、きっとそうだ。
同じ人間なのに面白いなーと現実から目を背けていると落書きをしていた七月さんから「柊くんも何か書いてよ」とペンを渡された。
何を書けばいいのか分からなかったので取り敢えず猫ヒゲみたいなのを描いてみる。
「お~! いいね可愛い!」
これで良いんだと心の中で思うと今度は頭付近に耳を付け足してみた。
「え~めっちゃ可愛い! てか何で私の方にだけ描くの!」
おいやめろ、俺の方にもひげと耳を付けるな。
「あはは! 似合ってる。お揃いだね」
絶対似合ってない時に言う感想じゃん。
その後もあーでもないこーでもないと言いながら七月さんは落書きをしていた。
お互いの下の名前を書いたり、ゲーマー×ゲーマーとか書いたり。ゲーム仲間とか書いたりしていた。
落書きを全くしない写真もあった。
落書きも全部しなくてもいいんだ……。
ほぼ初めてと言ってもいいプリクラは、俺の思い込みを変えてくれたし面白い体験だった。
「はい、これ柊くんの分!」
「ありがとう」
渡されたプリシートを少し眺めて、やっぱ加工ちょっと強いなと苦笑しながら鞄に仕舞う。
「あ、データは帰ってから送るね!」
「データ……?」
「そそ、スマホの方で保存できるの!」
「便利な世の中だ」
「おっさんくさ」




