第87話 ネタバレするやつは死ね!
映画が始まる前から色々とあったが、予告が終わり照明が完全に落ちると遂に本編が始まった。
たまにポップコーンを食べる時に手が当たる時があったけど、食べていないタイミングを無意識の内に見計らって食べれるようになった。
急に音が出てびっくりするシーン。思わず肩を跳ねさせると視界の端で七月さんも跳ねていた。
見られて無いか恥ずかしくて七月さんを見るとお互い目が合い、照れ笑いしたが直ぐにスクリーンに目を戻す。
びっくりして身体跳ねたの見られたよなぁ。ダサいって思われてないかな。七月さんも身体ビクッってしてたけど、女の子がそうなる分にはダサいとか思わずにむしろ可愛いって思うんだけど。
男の俺だとこんなのでビビってんだと冷笑されそうで不安。
って思っていたが、映画が面白くてそんな考え一瞬で吹き飛んでいった。
怒涛の展開の後、エンドロールが流れ始める。
「ふぅ……」
主題歌が耳に入ってくると無意識の内に力が入っていた身体が緩まる。
映画を観る前はワクワクするような主題歌だったのが、何故映画を観た後だとこうも感慨深く喪失感が襲ってくるのだろう。
あ、七月さんはエンドロールも最後まで観るタイプなのかな?
ふと横を向くとスクリーンを真剣に観て内容を思い返して物思いに耽っているような表情をしていた。
俺の視線に気付いたのかニコッと笑いかけてくると直ぐに前に向き直りエンドロールを観る。
俺も前に視線を戻し、最後まで見届けた。
エンドロールが終わり、シアターが静まり返る。そして照明が明るくなるとザワザワとした空間になる。
この一瞬の静けさが何気好きだったりする。本当に終わったんだと実感させられるのと、静かだった場所が賑わいを取り戻すこの瞬間。
今まで同じ空間で同じ映画をこんなにも多くの人が観ていたんだという謎の一体感。
「面白かったね」と興奮冷めやらぬ声も聞こえてきて静かに共感する。
「はぁぁいやぁぁ、面白かったね!」
隣に座っていた七月さんも感嘆のため息を吐いた。
「んね、まじ面白かった」
最後の方は集中し過ぎて飲み食いしてなかったなと思い出し、氷が解けて薄くなったコーラを流し込む。
ふとポップコーンを見ると中身は空だった。
「よくポップコーン余らなかったね」
「え? まぁ二人で食べたしね!」
俺半分も食べた記憶ないけど、七月さんめっちゃ食べたんだな。
人がシアターからある程度出て行ったのを確認すると、俺はバッグを肩に掛けながらゆっくりと立ち上がり、背伸びをして凝り固まった身体をほぐす。
掃除しに来る人の邪魔にならないように早く出ないとな。
七月さんはズズズと最後の一滴までジュースを飲み終えると「よしっ」と勢いよく立ち上がり俺と同じく背伸びをする。
そこそこしっかりとある胸が強調され俺はすかさず目を逸らす。
「よし、行こっか!」
「うん」
ゴミを捨て、出口に向かいながらまた「面白かったね」と感想を言い合う。
「だってさー良かれと思って――」
「七月さん」
七月さんの言葉に少し強めに言葉を被せて話を遮る。
「ど、どうしたの?」
俺の急な声に七月さんは動揺しながら不安そうな目を向けてくる。
ちょっと強く言い過ぎたかもしれない。
「ごめん、全然怖がらせるつもりは無くて……」
「う、うん」
謝罪を受け入れると今度はじゃあどうして? と不思議そうな顔をする七月さん。
「ほら、今から映画観る人がいるかもしれないからさ。こういう感想は後からにしよ?」
「あっそうだね」
理解してくれた七月さんは一人テンションが上がっていたのが恥ずかしかったのか後頭部をかいていた。
正直俺も熱が収まる前に感想を語り合いたいけど我慢している。
だって、少なくとも映画館にいる人は何かしらの映画を観に来た人達。もしこの中に俺達と同じ映画を観る人がいるとしたらそれは盛大なネタバレになってしまう。
その人の楽しみを奪いかねない行為だ。そんなのは絶対に嫌だ。
今から観る映画を、たった今見終わった人達が何の気無しに感想を言いながら出てきてネタバレをされたらたまったもんじゃない。
俺だったら絶対ぶちぎれる自信がある。
初見でしか味わう事の出来ない新鮮さ。それを台無しにしてしまう行為は避けたい。
だから周りの事を何も考えずに感想を言いながら出てくる人達の頭が理解できない。というか、そういう人に限って声がデカかったりするのは本当に意味が分からない。
別に感想を言い合ったりするのは悪い訳じゃない。もっと周りを見て気遣って欲しいよねって話。せめて小声で話すとか、映画館を出てからとか。
昨今だと有名な推理もののアニメ映画が公開されるとSNSのコメントで〇〇の犯人は〇〇みたいなクソみたいなネタバレしてくる輩もいる。
本当に頭がおかしいと思う。死んで欲しい。
「柊くん?」
「ん?」
「大丈夫?」
っと、どうやら俺が一人で勝手にイラついているのが顔に出ていたらしい。誤解されないようにちゃんと釈明しとこう。
「あぁ、ごめん。SNSのコメントで犯人とかネタバレするやつにイラついてただけ」
「あはは! そゆことね! でも確かにネタバレする人って死ねばいいのにね!」
「あははっ!」
「ぶふッ」
思ったけど口に出さずにイラついてた、と言葉を選んだのにも関わらず、七月さんは遠慮なく満面の笑みで言い放った。
その様に俺は思わず吹き出す。
俺達の会話が聞こえていたのか後ろの人も吹き出していてそれも面白かった。
「あーーホットドッグとかチュリトスもいつか食べてみたいなー」
上にあるメニューボードを見ながら呟く七月さん。唐突過ぎるけど確かに分からなくはないなと共感する。
俺は絶対一人で来たら買わないからな。こういう機会じゃないと。
「今度昼くらいに来て映画観ながら食べてみる? ポテトとかチキンもあるみたいだけど」
「今度!? また一緒に映画観に行ってくれるの?」
「え? うん」
「やったー! 嬉しい!」
七月さんは喜びを隠そうとはせず小躍りしそうな勢いでぴょんぴょん跳ねる。
なんか小野さんと似てるなとボーリングデート……? の時の事を思い出しながら取り敢えず映画館を出た。
「てか脂っこすぎてやばくないかな?」
「確かに」
「ま、チートデイってことにすれば問題なしか!」
何も問題無しじゃないとは思うが、まぁその後にしっかり野菜を摂れば大丈夫だろう。
「てかてか、ご飯の話してたらお腹空いた~」
「え? まじ? 俺はあんまり空いてないかも」
ポップコーンを食べていたから俺はあまり空いてない。
俺よりも食べてたはずなのにお腹空いたのか……?
「あ、やっぱ嘘。さっきポップコーン食べたからそんなに空いてないや」
「なんやねん」
「てきとーに言ってみた」
本当になんだそれと思っていると七月さんは目を伏せもじもじする。
「柊くんと少しでも話したかったから」
「そっか……」
何となく分かるような分からないような。沈黙の時間が嫌だから、特に話す事が無くても言葉を発するみたいな感じだろうか。
「別にいつでも話せるけどな……」
「そういうんじゃなくてー! もういいや! どうせ丁度昼時で混んでるだろうからご飯はもう少ししてからにしよう!」
「う、うん」
そういうのじゃないとは……?
あぁあれか、配信で無言の時間が長く続くとよくないからそういうのが癖になっているのか。
それから俺達はゲームセンターに行くことになり道中映画の感想をなるべく他の人に聞こえないように語り合った。
主人公が良かれと思ってやっていた事が実は世界を滅亡させかねない事だったという衝撃的事実が発覚して。
最初敵だと思ってたキャラが本当はずっと世界を救う為に一人で戦っていたという反転ストーリー。
そこからの主人公との共闘。敵だったからこその信用や理解度の高さ。ラスト怒涛の戦闘シーンは興奮しっぱなしで胸の高まりが収まらなかった。
「いやーやっぱりハッピーエンドはいいね~! それに二時間でこの完成度やばないっ!?」
「まじやばいね」
映画が公開されてから暫く経ってはいるものの、あまり話題になっていないのが不思議なくらいだ。
「後からサブスクで配信されるみたいだけど、これは映画館で観るべきだよね」
「んねー! ほんと映画館で観れてよかった……」
稀に見る大当たりの映画だった。
「あのシーンびっくしたよねー。思わず身体ビクッてして恥ずかしかったもん」
「あー俺も」
「だよね!」
「「あははは」」
一人で集中して映画を観るのもいいが、たまには誰かと一緒に映画を観てこうやって話をしたり感想を共有したりするのも良いなと思った。
そして後にサブスク配信されると超面白いとSNSで話題になっていて優越感が凄かった。
映画を観たその日にツニッターで絶対観た方がいいという旨のツニートをしたのだが、観に行ったリスナーから滅茶苦茶感謝されたのはまた別の話。
【ガチ観に行って良かった】
【教えてくれてありがとう】
【映画館で見れてよかったぁぁぁ!】
【一生ついて行くっす兄貴】
【見に行けばよがっだぁぁぁ!!!!!】
【一生の不覚】




