第85話 新鮮な服と髪型
〇柊七緒視点〇
七月さんとデートする日がやってきて、俺は今ショッピングモールの中にいた。
外で待っていたら流石に暑くて死ぬので冷房の効いた室内にいる。
デートと言っても、普通に遊びに来ただけ。今日は映画を観てその後適当にぶらぶらする感じだと思う。
何しよう何処に行こうと話し合った結果、二人とも同じ映画が気になっていたのでそれを観る事になった。
オリジナルアニメで原作はないもの。
予告見た時から作画もいいし、主題歌もテンションが上がるようなもので一人でも観に行くつもりだった。
暑そうにしながら外から入ってくる人を眺めていたらその中に七月さんの姿を発見した。
声を出したり手を挙げなくてもその内気付くだろうと思いながら見つめていると案の定、俺の視線に気が付いた七月さんと目が合う。
すると七月さんは目を輝かせ大きく手を振りながら小走りで走ってくる。
その様子はまるで飼い主を見つけた犬のよう。
微笑しながら俺も手を挙げて応える。
走る影響でスカートがふわりと靡いて服と相まって涼しそうなイメージをもたらす。
黒くて少し透け感がある涼しそうなキャミソールミニワンピース。胸元にはリボンが付いていて上品な中にも可愛らしさを倍増させていた。
その上からはショート丈のデニムジャケットを羽織っており可愛らし過ぎず、でもカジュアル過ぎず、大人な雰囲気を感じさせる装い。
露わになっている白くて健康的な太ももに目を奪われつつも、直ぐ近くまで来た七月さんの顔に視線を戻す。
普段は前髪を下ろしているが、今日はピン留めで前髪を流していた。
おデコが見えるだけで涼し気でどこか上品な印象を抱く。
おデコが見えるのと見えないのとでこんなにも印象が変わるんだな。
「お待たせー! 柊くんっ!」
俺が太ももを見ていた事なんて気付いていないのか、七月さんは元気に少し息を切らせながら声を掛けてきた。
「ふぅ……すずし~!」
目を閉じ上を見上げ、全身で冷房を感じて深呼吸をする七月さんに「今日も暑いね」と声を掛ける。
「ねーほんとに……溶けそうだよ。てかてか! 久しぶりっ!」
「久しぶり」
「でもなんか久しぶりって感じしないよね」
「まあそりゃ一緒にゲームやってるからね」
「あぁだからか! なんか変な感じ!」
「そうだね、変な感じ」
夏休みに入ってから一度もこうして顔を合わせていないものの、配信で一緒に通話しながらゲームをしているからお互い不思議な感覚に陥り笑い合った。
「柊くん……その服めっちゃいいねっ!」
「そう? ありがと」
俺の服は至ってシンプル。白いTシャツに風通しのいい紺色のアウター。そして黒のパンツという感じだ。
そんなにいいねと褒められるほどオシャレではないと思うんだが、褒められるとやっぱり嬉しい。
なのでお返しとばかりに、全くした事がない人の服装を褒めるのに挑戦してみる事にした。
「七月さんも凄い可愛いし、大人っぽい雰囲気もあって似合ってる。特にいつもと違う髪型が新鮮でいいと思う」
「あっありがと……」
正直七月さんは小野さんと同じ系統で元気っ子なイメージがあるからこういう雰囲気の服を着るとは想像していなかっただけにかなり驚いている。
でもまぁ可愛さの中にもパワフルさを感じさせているので七月さんらしいっちゃ七月さんらしいのかもしれない。
短い髪をくるくるとして少し照れているみたいなのでどうやら褒めて正解だったらしい。
映画の上映時間も迫ってきているので俺達はまたもこの前のエテカスタムの話に花を咲かせながら移動した。
「うわー、意外と人多いね?」
七月さんの言う通り、今日は平日にも関わらず大分混雑していた。夏休みの学生が殆どだが、ここまで多いとは思ってなかった。
「凄い並んでる……」
チケットを買う機械の前にはかなりの列。今から並んで買っていたら上映時間に間に合うか怪しい。
「昨日ネットで買っててよかったね」
「いやそれな!? 柊くんナイスッ!」
万が一の事を考えて前日にネットで買っていて正解だったなと並んでる人達に優越感を覚えながら、チケット購入とは別の機械の場所へ向かいチケットを発券した。
「はい」
「ありがと!」
七月さんにチケットを渡すと「ふふんふふん」とご機嫌そうに鼻歌を歌っていた。
「映画館にきたんならやっぱりこれ買わないとでしょ! ポップコーン!」
そう言って七月さんは一目散に並び始める。
チケットを買うところも多かったが、こっちも中々に……。
でもまぁ一人で映画を観に来る時はもうポップコーンなんて買わないのでたまにはいいか。
列に並ぶが視界に入るのはカップルや同い年くらいの学生集団ばかりで少し気まずい。
もしかして、俺達もカップルみたいに思われてるのか?
それとも七月さんと釣り合って無いとか、何この陰キャみたいに思われてないかなと考えると身が縮こまる。
「間に合うかなー?」
中々注文まで辿り着けないでいると七月さんがスマホで時間を確認しながら不安そうな声を出す。
「最初10分くらい予告だから大丈夫でしょ」
「そうだけどさ! 予告も観たくない!?」
「いや分かる。観たい」
何気予告とかって自分から進んで観る事がないから次どんな映画が公開されるのかとか知れて面白いんだよな。
面白そうなのがあったら次これ観に行こうというワクワク感も味わえる。
ただの予告なのに、映画館で観るのと家でスマホとかテレビとかで観るのとはわけが違う。
映画館にはそれだけの力があるから凄い。
そうこう話している内にようやく注文をする番がやって来た。
「ペアセットでいいよね?」
「ん? あぁうん」
個別に買うよりもペアセットで買った方がお得だし、ポップコーンも食べきれるだろうと頷くと七月さんが注文をしてくれた。
「お飲み物は何にされますか?」
「飲み物何にする?」
無防備に俺の顔を見ながら尋ねてくる七月さんにドキッとしつつ、何があるのかメニュー表を覗き込む。
ほぼ七月さんとゼロ距離になり、腕が触れ合ってしまい慌ててそっと離れた。
「えっとーじゃあコーラで」
「私はメロンジュースでお願いします!」
「かしこまりました。ポップコーンのお味はどうなさいますか? 塩かキャラメルか……半分半分にすることも可能ですが……」
「半分半分でいい?」
毎回尋ねる時に小首を傾げる仕草をするのは癖なのか、可愛らしいと思い無意識に表情が和らぐ。
頷くと七月さんは「塩とキャラメル半分半分でお願いします!」と元気に店員さんに聞こえやすいように答えた。
「お会計1290円になりまーす」
「はーい」
「あ、お金……」
「ん? いーよ私払うから」
「でも……」
急いで財布を取り出そうとしている時にはもう七月さんはお金を支払っていた。
「10円のお返しになりまーす。少々お待ちください」
まぁここでもたもたして後ろの人達を待たせるよりもいいか。
後から払おうと思っていると俺の思考を読んだかの如く七月さんは先回りして制止する。
「後からも払わなくていいからね。ほら、映画代は私の分払ってくれてるし!」
「そう……? ありがとね」
映画代よりも今買ったペアセットの方が290円高いんだけど……あまり気にしないらしい。
でもそれじゃ俺が納得できないので、何かあれば次は俺が奢ろう。
自分の罪悪感を消すためにもそう考えていると丁度店員さんが「お待たせしましたー」と声を掛けてきた。
ポップコーンとジュースを受け取ると、俺達は開場のアナウンスもなっていたので入場ゲートに向かう。
「チケット拝見しまーす」
あ、やべチケットポケットの中だ。両手塞がってて出せないや、どうしよう。一回何処かに置いて取り出さないと。
「あ、柊くん。チケットどこ?」
「えっと、それがポケットの中なんだよね……だから――」
荷物一旦置かせて取っていいか尋ねる前に俺の言葉を遮り、七月さんは俺のポケットを指差す。
「右? 左? どっち?」
「え? 右だけど」
突然の問いに戸惑っていると、七月さんの手が右ポケットをまさぐる。
「ちょっ……っ!?」
「あったー!」
何の断りもなしに急に手を突っ込まれ驚きとくすぐったさで声が出るも七月さんは全く気にした様子がない。
「ん? どしたの?」
「い、いやびっくりしたから」
「あーあはは、ごめんねー」
いやごめんねーじゃなくて! 滅茶苦茶くすぐったかったんだけど! 危うく股間触られそうでマジでびっくりした。
心臓に悪すぎる……。
でも俺が言う前に両手が塞がっている事に気付いて行動してくれた気遣いは素直に尊敬の念を抱いた。
まぁ俺もそのくらい出来るが。出来ると思うが……。出来ると信じたい。
「あ、ありがと」
「うん!」




