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第84話 一途に



「いやーそれにしても今日暑かったね~。夏に動物園は失敗だったかもね~」


 お互い食べ進めていると桃沢さんが思い出しながら苦笑いする。


 確かにそれは俺も動物園で思っていた。日陰はあるにはあるが、熱気が地面からも漂ってきていて絶対夏に来るべき所じゃなかったと。


 空調が効いてる水族館の方が良かったのでは……と何回も自分の選択を後悔していた。


「ごめん、俺が提案したばかりに……」


 アドバイスしてきた光も悪いっちゃ悪い……けど、光を悪く言う資格は俺にないし。お門違いというものだろう。


 対策的なこともしようと思えば出来たのに、俺はそんな事頭にすらなかったし。


 わざわざ暑いからから暑さ対策はちゃんとしろよなんてアドバイスをする訳がない。だって今は夏で暑い事は分かり切っているんだから。


 当たり前の事を俺は忘れていた。


 申し訳ない気持ちで俯いていると桃沢さんは「あはは」と笑い、慰めの言葉を掛けてくれた。


「いやいや全然いいよ。あたしが動物のスタンプばっかり持ってるから、動物好きなのかなって考えて選んでくれたんでしょ?」


「え……うん……」


「やっぱり?」


 そこまでバレているなんて、コミュ力を高めればそんな事まで分かるようになるのかな。


「ふふ、それが嬉しいな。あたしの事をしっかり考えて選んでくれた事が嬉しい」


 そう言って目を細め微笑む桃沢さんは、まるでアニメに出てくるヒロインのように綺麗で、一瞬その世界に迷い込んだのではと錯覚しそうになるほどだった。


 その表情に釘付けになっていると桃沢さんは言葉を続ける。


「あの先輩とは大違いだよ。だから自信持って。中村くんはしっかり相手の事を気遣える良い人だよ」


「あ、ありがとうございます」


「敬語」


 そんなに褒められるとは思ってなくて照れから敬語に戻ってしまうと、フォークをこちらに向けて指摘された。


 頭を掻きながら遠慮がちに笑うと、今度は質問を投げかけられる。


「中村くんは好きな人とかいないの?」


「うーん……今の所は」


「そっかー。好きな人が出来たらもっと積極的に女の子と話せるようになりそうだけどねー。ま、これからだよね」



 ここでいるって言ったら絶対質問攻めされるだろう事が予想できたので嘘を吐くしかなかった。



 だってもう俺は桃沢さんの事を好きになってしまっているから。


 関わる前、桃沢さんは少し目つきが悪く見える事から不機嫌で圧を感じて、勝手に怖い人だと思っていた。

 オタクとかデブとか林さんみたいにキモイとか一蹴しそうだと。


 でも実際話してみたら優しくて、意外と気遣い屋さんで、ニコッと顔を和らげる普段との表情のギャップが可愛くて。動物と甘いものが好きで、こんな俺にも優しくて。


 好きにならない方がおかしかった。



 桃沢さんはコホンと咳払いをすると、テーブルに肘を乗せ、手を組み真っすぐな視線を送ってくる。


「あたしからアドバイスを上げよう。たとえどんな相手を好きになったとしても、一途に想い続ければきっと想いは伝わるよ」


「……」


「実際あたしもそういう人が好きだしね。先輩みたいなのはもう懲り懲りだね」


 やれやれと手を挙げ頭を振る桃沢さんに俺は愛想笑いを浮かべる。


「あはは……」


 図らずも桃沢さんのタイプの人を聞けてしまった。


 そっか、一途な人か……。


「うん、その時は頑張る。ありがとう」


「ん、どういたしまして~」



 桃沢さんが先輩に振られていなかったら、今こうやって一緒に遊ぶことなんて無かったんだと思うと不謹慎だけど嬉しかった。


 それに結構普通に話せるようになってきたし感謝しかない。


 久しぶりに宿るこの胸の熱い想いが叶うかは分からない。けど、機会が来たら今度はちゃんと想いを伝えたい。


 今はまだ想いは伝えないけど一途に想い続けてみようと、静かに残りのプリンを口に運びながら決意した。




 〇桃沢彩香視点〇


 今日は中村くんの練習相手とか言いながら、あたし普通に楽しんじゃってたな。


 しかもテンション上がって何かおそろのキーホルダー買ったりしちゃったし……。


 いつもあたしに関わってくる男子は下心丸出しで、自己中なやつばっかりだったから中村くんは新鮮だった。


 あ、柊くんとか松山くんとかも下心感じないかも。


 でもこうして二人きりで遊ぶ相手でそういう人は中村くんが初めてだったかもしれない。


 それにしても動物可愛かったなー。触れ合いコーナーも皆モフモフしてて超最高だったー。


 てか……服装褒められた時不意打ち過ぎてびっくりした。


 まさか可愛いなんて言われるとは思ってなかった。言ってくれても「似合ってます」とか「いいと思います」とかそういう当たり障りのない感じだと思ってたのに。


 可愛いっていうのは大丈夫なのに名前呼びだときょどるし意味わかんなくて面白かったな。


 写真も撮るのも慣れて無さ過ぎて笑顔ぎこちないし。


 今日撮った写真を見返しながら思わず笑顔が零れる。


 あ、中村くんに今日の写真送っとこ。


 はぁ、それにしても先輩達に遭うとかまじ最悪過ぎた。下心丸出し過ぎてキモかった。ほんと別れた瞬間狙ってくるとか、誰でもいいのかよって。そんなんだからモテないんだろって。


 あたしはそんなに軽い女じゃないっつうの。


 思い出しただけでまた腹が立ってくる。


 その後中村くんが勇気出して声を掛けて助けてくれたのは嬉しかったな。


 手……震えてたな。ちょっと見直した。


 あたしと喋るだけでも精一杯だったのに、あんな事も出来るくらいに成長していて何故かあたしも嬉しい。



 てか……距離感近すぎたかも。今になって少し恥ずかしくなってきた。あと間接キスとかあーんもしちゃったし……。


 こんな楽しいお出掛け久しぶりで変なテンションになっちゃってたかも。


 中村くんには無理させちゃったかな。


 カフェで撮った中村くんのまだぎこちないけど、最初に比べれば笑顔がいくらかマシになっている写真を最後に選択すると送信ボタンを押した。


 スマホをベッドに放り投げ、天井を仰ぎながらため息を吐き、思いを巡らせる。



 今は恋人いらないけど、次もし付き合うならばチャラい系とかじゃなくてイケメンとかじゃなくてもいいな。普通にあたしの事をしっかり考えてくれたり気遣ってくれたりする人がいい。


 カーストとか周りの目とか関係なく、あたしの事を一途に思ってくれる人。あたしの素を受け入れてくれる人。一緒にいて気楽で楽しい人。


 …………こんな理想で都合のいい相手いるわけないか。


 そこでふと中村くんの姿が浮かんだが、いやいやないでしょと頭を振って苦笑した。



 中村くんも今日の感じなら女の子と普通に喋れるようになる日も近いんじゃないかな。


 ま、本人の頑張り次第だけど。


 あたしはあのクソ男から解放された今を楽しむことにしよう。


 夏休みだし、明奈とか誘って海行ったりするのもありだなー。




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