↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/107

第79話 クズでゴミな桃沢さんの(元)彼氏

 〇中村海視点〇


 彩香:【明日10時でいい?】


 海:【うん】


 了承の旨を返信すると、デフォルメイラストの猫が「りょーかい」と敬礼しているスタンプが送られてきた。


 続けざまにおやすみというスタンプも送られてきたので俺もおやすみスタンプを返す。


「だはぁぁぁ……」


 既読が付いた事を確認すると、脱力して桃沢さんとの会話履歴をぼーっと眺める。


 明日桃沢さんと遊ぶ約束をしてしまった。


 あのクラスで一軍の清楚系ギャル感のある桃沢彩香さんとだ。



 なんでこうなったかというと少し前に遡る。





 夏休みに入り少し経ち、アニメイトにラノベを買いに行くために街に来ていた時の事だ。


 桃沢さんと男の人が二人でいるところを目撃してしまった。


 そういえば体育祭終わりに七緒達とカラオケ行って偶然会った七月さんが、桃沢さんは彼氏いるって言ってたな。


 思い出しながらも、俺には関係ない事だなとさっさと横を通り過ぎてお店に向かおうと歩を進めると何か揉めている感じだった。


「先輩ってあたしの事ほんとは好きでもなんでもないんでしょ?」


「いや、好きだよ。俺の事信じてくれないの?」


 先輩呼び……桃沢さん先輩と付き合ってたのか。


「あたし知ってますよ。この前先輩、同級生の女の子と腕組んで歩いてましたよね?」


「……え? それは誤解だと思うよ。誰かと間違えたんじゃないかな?」


「これでもですか?」


 桃沢さんがその彼氏先輩の言動に呆れたような顔をして、スマホで何かを見せると彼氏先輩は舌打ちをして明らかに不機嫌な顔になっていた。


「あー……いやもういいよ。普通にダルいわ。お前」


「え、なにそれ」


「はぁぁぁあ……あんま調子乗んなよ。あーお前と付き合ったのが間違いだったわ、もういいよ。別れようじゃあな」


 その彼氏は言うだけ言うとさっさと何処かへ行ってしまった。



 残された桃沢さんは肩を落とし、近くのベンチに腰を掛け俯いていた。



 俺は目の前で起こった衝撃的な出来事にいつの間にか足を止めていて、開いた口が塞がらなかった。


 あんな最低な人いるんだ……アニメとか漫画でしか見た事なかった……凄いの見ちゃったな。


 落ち込んでいる桃沢さんに声を掛けようか迷ったが全然交流がない俺が行っても逆に感情を逆なでするだけだと思い、当初の目的を果たすために再び歩き出した。


 桃沢さんに気付かれないように、そして俺も気付いていないふりをして前を通り過ぎようとした時。


「はぁ」という重い溜息が聞こえ思わず横目でチラッと桃沢さんを見てしまった。


「あれ? 中村くん……?」


 さっきまで俯いていたはずの桃沢さんはいつの間にか顔を上げていて、バチッと目が合ってしまった。


 え、どうする。どうしよう。えっと、うーんとよし気付いてないふりしよう。


 一瞬のフリーズの後に俺はそそくさと聞こえていないふりをして早歩きで逃げる事にした。


「えっ、ちょっ……」


 逃げようとしたのだが


「ちょっと、無視は酷くない?」


 とあっけなく肩を掴まれてしまった。


「あ、アレー桃沢サンジャン。ビックリシター」


「いや超棒読みだし、さっきめっちゃ目合ったよね?」


「ナンノコトカナ?」


「さっきの……見てた? っていうか聞こえてた……?」


 桃沢さんがためらいながら尋ねてくるが、ここで見てない聞いてないと言っても信じて貰える気がしないので素直に認める事に。


「……はい」


 すると桃沢さんは「はぁぁぁまじか……」と左手で顔を覆ってあからさまにショックを受けていた。


 そんなに俺に見られたのが嫌だったのか……。


 桃沢さんの落ち込みように俺は申し訳ない気持ちでどうしたらいいか分からず視線を右往左往させる。



「「…………」」



 気まずい空気の中、俺は今にも逃げ出したいのに肩を掴まれたままで身動きが取れない。


「えっとその……離してもらえたり……?」


「いや……」


 彼氏に振られる場面を見てしまった事の口封じで恐喝されたりパシリにされたりするのではないかという恐怖から膝が震えだす。


「いや恥ず……」


 桃沢さんはそう呟くと膝から崩れ落ちるかのようにその場にしゃがみ込んだ。


 肩も解放されたのだが、俺はその桃沢さんの姿を見るとその場から離れようという気にはなれなかった。


「だ、大丈夫ですか……?」


「大丈夫……あぁぁイラつく!」


 桃沢さんは勢いよく立ち上がりながら周りの人の迷惑にならないくらいに声を荒げ、俺はそれに思わずびっくりして肩を跳ねさせる。


「あっ……ごめん」


「い、いえ……」


「ねぇちょっと話聞いてくれない? いいでしょ? いいよね?」


「あ、はい」


 その見たんだから話しぐらい聞けやと言われているような圧から俺は頷く事しか出来なかった。


「ありがと」


 ニコッと破顔する桃沢さんに思わず見惚れて固まっていると「ん? どしたの? 座んなよ」とベンチの隣をポンポンする。


 俺は恐る恐ると言ったようにゆっくりと少し間を空けて隣に座った。


 間を空けたと言ってもベンチがそんなに広いわけじゃないので、少し動けば腕とかが当たってしまう距離。


 ここまで異性の近くにいた事が無いから凄くドキドキしてきた。


 俺臭くないかな……てか桃沢さん滅茶苦茶いい匂いするんですけど!?


 そんな俺の気なんて全く知る由もない桃沢さんは呟くように語り始めた。


「いやー……街中だから誰かしらには見られるっていうのは分かってたけど、まさかクラスメイトの中村くんに見られるとは思わんじゃん……」


「まぁ確かに……なんかすみません」


 俺なんかが見てしまって申し訳ないという罪悪感が沸々と湧いてきて居心地が悪い。


 もうラノベ買うとかどうでもいいから今にでも逃げ出して帰りたい。


「いやいや、全然謝んないで? 偶然だし、中村くんは何も悪くないから」


「あ、はい……すみません」


「あはは! 謝ってんじゃん。おもろ」


 さっき振られたばかりだというのにいつもと変わらない桃沢さん。


 いや、空元気か……?


 そりゃ振られたら傷付かないわけがないよな。しかもなんか話の内容的に浮気されてるっぽかったし。



「あー中村くん。勘違いしないで欲しいんだけど別にあたしそんなにショック受けてないからね? だから無理に励まそうとしなくても大丈夫だから」


「へ?」


「いやだって聞いてよ。あの先輩……いや先輩って呼ぶのもなんか嫌だな。あいつ……そう、あいつがあたしの事好きじゃないんだろうなっていうのは薄々気付いてたし、あたしも最初からそんなに好きじゃなかったから別にいいの。逆に清々してる」


「???」


 先輩は別に桃沢さんの事が好きじゃなくて、桃沢さんも先輩の事をそんなに好きじゃなかった……? なのに付き合ってたの?


 俺が知らない世界の話をされて困惑していると桃沢さんは話を続ける。


「いやあたしも最初いいなって思ってたし、先輩と付き合ったら周りから羨ましがられるかなみたいな邪な思いはあったんだけどさ、付き合って一ヶ月くらいで部屋連れ込んで身体求めてきたの。どう思う?」


「えぇ……いやぁ……ちょっと……」


「でしょ? ちょっとないよね」


 困惑して回答に困っていると俺が共感したと都合よく受け取った桃沢さんは更に饒舌になる。


「あたしはゆっくり関係を進めていきたかったんだよね。好きになろうと努力したし、勿論それまであいつに尽くしてた。でもあたしとヤれないって分かってからのあいつはまじ最悪だった」


 デートのプランも何も考えないし、食事だって部活用具とかでお金ないから桃沢さん持ちだったり。

 デートしている時も食事中でもスマホばっかり見ててろくに会話すらしてくれなくなって。相槌ですら適当。

 終いにはデート当日ドタキャンで2時間経った頃に連絡してきたり、練習あるからと断られた日に同級生らしい女の子と二人で一緒にいるところも発見したらしい。


 先輩のクズっぷりを聞かされ絶句していると桃沢さんは拳に力を入れてわらわらと震え出した。


「あぁぁもう、思い出したらまたイライラしてきた!」


 ここまで感情を高ぶらせている桃沢さんを見るのは初めてで俺はどうしていいか分からずオロオロすることしか出来ない。


「しかもなんかあたしが振られた可哀そうなやつみたいになったし! あたしから振ってやるつもりだったのに!! どう思う!?」


「ひ、酷いですね……」


「だよね、クズだよね?」


「く、クズですね」


「ゴミだよね?」


「ご、ゴミですね」


 若干圧を掛けながら共感を求められた俺はただその言葉をオウムのように返す。


 確かにクズでゴミだと思うけど、意外と口悪いな桃沢さん……。


 桃沢さんはそこまで言うと顔を上げ深呼吸をすると柔らかい表情をした。


「はぁぁぁ……ちょっとスッキリした。ごめんね沢山愚痴聞いて貰っちゃって」


「いや全然大丈夫です。寧ろアニメとか漫画とかでしか見た事ない様な事が現実で見られたし実際にそういう人がいるんだって知れて面白かったです。あ……面白かったっていうのはその……」


「あはは、興味深いとかそういう感じのでしょ? 分かってるよ大丈夫」





「いやー中村くんに面白いって思って貰えたのなら振られたのも悪くなかったかな。笑い話にも出来るしさ」


 そう言って元気に笑って見せる桃沢さんのメンタルの強さに俺は素直に尊敬と憧れの念を抱いた。



「あ、てかごめん用事あったでしょ?」


「あぁはい」


 桃沢さんの愚痴を聞かされていて忘れていたがそうだった。俺は元々ラノベを買いに来たんだった。


「どこ行くの?」


「えっと……アニメイトに」


「ふーん…………ね、あたしもついてっていい? ほらあたしこの後暇になっちゃったし、いいでしょ?」


 そんな自嘲するような表情を浮かべられたら断るなんて出来るわけがない。


「いいですけど、桃沢さんってアニメとか興味あるんですか?」


「うーん、多少? にぃに……お兄ちゃんとかパ……お父さんがリビングで見てる時たまに一緒に見てるよ」


「にぃにとパパ……」


 桃沢さんって普段そう呼んでるんだ。


「なっ、そこ指摘すんなし……」


「あ……」


 しまった、思わず声に出てしまっていた。


 怒ってないかなとチラッと桃沢さんの方を見ると手で口を隠し、頬を赤らめていた。


 その姿に俺は思わず目を見開く。


 なに……可愛すぎる……。


「こ、こっち見んな」


 睨みつけられるが照れているのが分かっているので怖くない。寧ろ微笑ましい気持ちになる。


「あ、アニメイト行くんでしょ。ほら、行くよ!」


 耐えられなくなったのか桃沢さんは勢いよく立ち上がると先に行ってしまう。俺も置いて行かれないように立ち上がると桃沢さんの後を追った。


 桃沢さんって意外と感情豊かで面白い人なんだな……。


 今まで全然関わってこなかったから知らなかったなと思っていると桃沢さんが急に立ち止まったかと思えば踵を返してこっちに向かってきた。



「アニメイトってどこあるん?」


「知らなかったんかい」


 気付けば自然とそんなツッコミが俺の口から出ていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。