第78話 点数勝負の結果と願い
カスタムという大きな予定が終わった今俺には特に予定が無く、ただただ夏休みを浪費していく毎日を送っていた。
海や光とも特になんの約束もしていない。みんなそれぞれの夏休みを送っているんだろう。
光はシスコンだから妹と色んな所に出かけてると思うんだけど、海が連絡してこないのは意外だった。
暇だからどっか遊び行かない? とか青春っぽいことしたい! とか絶対言ってくると思ってたのに。
俺は適度に夏休みの宿題をして、アニメや漫画を読んで。そして夜とかたまに昼からヴァル配信をしたり、そんな感じだ。
カスタムでフォロワーが増えたので配信を見に来てくれる人も増えたし、楽しくやれている。
あきななと一緒にゲームやる時が一番盛り上がっている気がするが。
俺個人としての人気よりもあきななとセットでの人気の方が高いらしい。
もうほぼパートナーみたいなものになってきている。
パートナーであり、同級生で同じクラス。しかも席は隣……か。凄い縁だな。
七月さんの事を考えてるとスマホのlimeの通知音が響いた。
海が耐えに耐え兼ねて連絡してきたのかと確認してみると、送り主は今の今まで考えていた七月さんだった。
明奈:【やっほ~?】
どうやら送られてきたのはその一通だけ。要件が送られてくるまで見なくていいかと既読も付けないでいると続けざまにメッセージが飛んでくる。
明奈:【おいこら、無視しようとするな!】
そのメッセージを目にすると何処かにカメラでもついてるのか!? と部屋を見渡すがそんなものは見当たらない。
もしかして、スマホのカメラか……?
七緒:【なんで分かった?】
取り敢えず返信してみると1秒にも満たずに既読が付いた。
明奈:【ただの勘だよ?笑】
なんだ、かまをかけただけか。
七緒:【カメラで監視でもされてるのかと思った】
明奈:【なにそれ、そんなのしないよ笑笑笑】
【でもなんか面白そうだね】
七緒:【え?】
明奈:【嘘だよ冗談冗談!ただ、柊くんはいっつも家で何してるのかは気になるなってだけだから!笑】
七緒:【そっか】
【いうてもアニメみたり漫画読んだり。それこそ七月さんと一緒にゲーム配信したり、たまに宿題やったりって感じだよ】
明奈:【そーなんだ】
七緒:【うん】
え、なにこのやり取り。今の所雑談しかしてないけど、何か用事とかがあって連絡してきた訳じゃないのか……?
また直ぐに何かメッセージが送られてくると思っていたのだが、中々送られてこない。
え? ただ雑談したかっただけ? それにしては短すぎない? 終わり? 俺が思ったより面白くなくて話広げられなかったから!?
送って来たのは七月さんなのに何か俺が悪いみたいになってる? と一人で悶々としていると、シュポッとメッセージが来た音がした。
明奈:【電話かけていい?】
七緒:【え?うん、いいけど】
きっと文字を打つのが面倒で、途中でやめたから少し間があったのだろう。口で言う方が楽だしね。
了承のメッセを送るとすかさずスマホが鳴り、俺は軽く咳払いをしてから応答ボタンを押した。
『あ、もしもし~?』
「もしもし」
『あれ? もしも~し、聞えてる?』
ちゃんと反応したはずなのだが、たまにラグがあって聞えていない可能性を考慮して俺はもう一度返事をする。
「もしもし、聞えてるよー。聞えてる?」
『あ、聞えてる! よかったぁ~』
ちゃんと繋がったことに安心し、微笑する七月さんに俺も控えめに笑いを返す。
「ふふ、それでどうかしたの?」
『ん? いやぁ~? ……ちょっと話したかっただけ――ダメだった?』
そんな甘えるような声で言われて断れる男が果たして存在するのか、俺には無理だった。
別に忙しくも無いし、この後予定も無い。ダメという理由が無かった。
「うぅん、全然大丈夫だけど……」
全然大丈夫だけでいいはずなのに、そのまま言うには少し照れくさくて「だけど」なんて少し含みのある言い方をしてしまう。
『そっか! よかった!』
何でだろう。最近も七月さんとは配信を一緒にしているから勿論声も聞き慣れているはずなのに、新鮮な感じがする。
もうすっかり話すのは慣れたと思っていたけど、どうやら慣れているのはあきななという配信者の場合で、同級生の七月さんと電話するのはまだ少し緊張するみたいだ。
それにきっといつもはマイクやヘッドホンの良い音質なのと比べ、今はスピーカーでスマホ内蔵のマイクということもあるのかもしれない。
機材でこうも変わるものなのかと改めて思い知らされる。
吐息の音が混ざる事によって、妙に生々しく聞こえる気がする。
『ふふっ、なんか緊張してる?』
「え? まぁちょっとね」
『何それ変なの』
「んね、結構な頻度で通話してるのにね」
『ねー。ま、私もちょっと緊張してるんだけどねッ』
どうやら七月さんも似たような気持ちらしく、俺だけじゃない事が分かり少し肩の力が抜けた。
「それにしても、この前のカスタム惜しかったね」
『ねーッ! てかまたその話!? 配信でも何回も言ってたじゃん!』
「あはは、まぁ……ね。七月さんが誘ってくれたお陰で一生に一度経験出来るか出来ないか分からないような体験をすることが出来たからね。本当感謝してるよ。ありがとね」
『えっへへへ……そんな言われると嬉しいなぁ。私としても柊くんが一緒に出てくれて凄く感謝してるんだよ? それに柊くんがいなかったらきっとあんなに楽しめなかっただろうし、フォロワーとかも増えなかったと思うもん……だから――ありがとうね……?』
「う、うん……」
お互いが胸の内を明かした事で流れる照れくさくて気まずい空気を吹き飛ばすように七月さんが大きな声を上げる。
『てかてか! 柊くん……君、何か忘れていることはないかい?』
「忘れてる事……?」
七月さんに言われ必死に思い返すが中々思い出せない。
「んー……?」
七月さんと何か約束とかしてたっけ? 配信であきななとしてたのか、それとも七月さんと何かしてたのか……。
Limeで連絡してきたって事は七月さんの方……?
そこまで推測はしたが、やはり何を忘れているのか思い出す事は出来なかった。
素直に謝ると七月さんは『やっぱり~』と少しいじけたような呆れたような声音で笑う。
『テストの点数勝負だよ!』
完全に忘れていた。
テストの点数勝負とは夏休みに入る前に行われたテストで俺の得意な国語と七月さんの一番苦手な数学の点数で勝負するというもの。
得意な科目と苦手な科目で勝負って圧倒的に俺が有利じゃんと思った人もいるだろう。だが、七月さんは頭がいい。俺よりも圧倒的に。
絶対に同じ教科で勝負しても俺の負けが確定するのだ。
だからそれじゃ勝負にならないからと、七月さんの方から提案してきた。
まぁその、あれだ……お情けを貰ったのだ。
その勝負で点数が高かった方が勝った方のお願いを聞くと言うものだったのだが、俺が色々と鬱気味になってしまい結果は分からずじまいだった。
そして元気になった俺はカスタムの事で頭がいっぱいになり、すっかりその事を忘れていた。
「ごめん、まじで忘れてた。今更だけどやる……?」
『え、やる!! もしかして自信ない~?』
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべているのが声色で想像できる。
「まさか。ちょっと待ってて」
『うん、私も取ってくるね』
そう言って通話を繋げたまま俺は国語のテスト用紙を引っ張り出してくる。そして点数が映っている写真を取る。
勝負をするとなってからしっかりと勉強したし、問題も結構解けたのでそれなりに自信はある。
「トークのとこに送るよ?」
『あ、ちょっと待って待って。せーので送ろ!』
「わかった」
『よし、準備出来た。いくよ?』
『「せーの」』
シュポという音と共に同時にトークに写真が二枚表示される。
俺の国語の点数は45点。対する七月さんの数学の点数は――46点。
……1点差まじか。結構自信あったのに負けてしまった。俺は国語で一回も40点以下を取ったことがないから勝てると思ってただけに悔しい。
「いやまじか……」
『よっしゃぁ! 私の勝ちじゃぁー!!』
「いや、え? そういえば七月さん最低点数34点って言ってなかった?」
『ふっふっふ。それは最低点数だからね。それにその点数取ったの中学生の時だから』
「なっ! まじかずるい……」
『なになに~? 負け惜しみですか~?』
電話の向こうで勝ち誇る七月さんに顔を引きつらせるも素直に負けを認める事しか出来なかった。
「俺の負けです……それで願い事は何でしょうか」
『う~ん……そうだなぁ~?』
あれだけ勝負したがってた癖に願い事は考えてなかったんかいと心の中でツッコミながら要望を待つ。
というか、普通に負けたのは悔しい。でも今回のテストは全教科満遍なく、いつもよりも良い点が取れて嬉しかった気持ちもあり複雑だ。
ちゃんと勉強すれば案外取れるんだな。
『あっそうだ!』
思い付いたのか七月さんは声を上げると一つ咳払いをして要望を口にする。
『私とデートしてよ』
「デート?」
『そう! デート』
そう何回も強調して言わなくても聞こえている。
だがそうだな。デートか……。
またいつものようにからかっているだけだろう。デートって言い方があれなだけで普通に二人で遊ぶだけだろう。
俺が何も答えなかったからか七月さんは聞いてもいないのに少し恥ずかしそうにしながら理由を語り始めた。
『だ、だってこはるともデートしたんでしょ? な、なら私ともしてくれてもいーんじゃないっ?』
「いやまぁそうだけど……」
果たしてあれをデートと呼んでいいのかは分からないけど。
「でも、お願いそれでいいの? 別にそんな事なら普通にいくらでもするけど」
『えっい、いくらでもっ!?』
「あぁごめん、いくらでもは嘘。俺の精神状態次第だね」
『あはは、なるほどね。えっじゃあまた改めてお願い考えとく』
「うん」
『それでそれでいつ遊ぶ!?』
「俺はいつでも空いてるよ」
その後デート? する日程を決めて宿題の事とかの話をして通話を終えると俺はベッドに倒れ込む。
デート……か。
ただ二人で遊ぶだけ。それをデートという名に置き換えたら何故こうも緊張してしまうのだろうか。言葉って不思議だ。
まだちゃんと精神が安定しているとは言えないけど、七月さん相手なら大丈夫な気がする。
俺も前に進まないと。いつまでも過去に囚われている訳にはいかない。
でもそんなに焦る必要もない。俺はしっかり成長しているんだから大丈夫、大丈夫。
そう自分に言い聞かせて身体を起こすと今度は海から連絡が来た。
今まで連絡全然来なかったけどようやく遊びの誘いか? なんて思いながらスマホを開く。
海:【女子と出掛ける時って何話せばいいの!?】
【てかどこ行けばいいの!?】
畳み掛けるように聞いてくる海に俺は困惑しながらも思考を巡らせる。
急に何かと思ったら女子と出掛ける? あの女子と話すのが苦手な海が?
七緒:【誰かと出掛けるの?】
海:【いや、まぁ誰でもいいじゃん】
誰と出掛けるのか気にならないと言ったら嘘になるが、この返しからこれ以上聞いても教えてくれそうもないのが分かった。
七緒:【一緒に遊ぶ人の人数は?】
海:【その子一人】
え、まじか!? まさか女子と二人きりで出掛けるのか!? この前まで女子と話す事すらやっとだった海が……?
そこまで成長しているのが喜ばしい反面、頑張り過ぎていないか心配な感情の方が大きい。
七緒:【無理してない?】
海:【多少の無理はするよ。でも大丈夫。七緒に比べたらね】
人と比べるものでもないけど、海がそういうなら大丈夫なんだろう。
というか、何話せばいいかとどこ行けばいいの? って質問だったな。
七緒:【さっきの質問、俺が分かると思うか?】
海:【確かに、聞いた俺が馬鹿だった】
七緒:【黙れ】
何せ俺は小、中学時代モテていたとはいえ女子とは全然話していないし遊びに行った事もない。
それこそついこの間小野さんとボーリングに行った時くらいなものだ。
何を話したかとかはその場の流れで普通に話してたし、小野さんが質問してくれたり話題を振ってくれたから全然気にしていなかった。
知らない間に小野さんのコミュ力に助けられてたんだな。
海:【もう光に聞いてみる】
七緒:【そうしろ。頑張れよー】
海:【うん】
最初から俺よりも光に聞けよな。
ふと思ったが、光って彼女いないとは言っているけど恋愛経験もないのだろうか。
いつも妹の事ばかりでその辺よくわからないなと改めて思った。
妹にキモがられてたりしないのか……?
「お兄ちゃんキモイ」とか「お兄ちゃんまじ止めて」とか言われて落ち込んでいる光を勝手に想像してみると大分面白かった。
いやキモイが勝つかもしれん。
それにしても夏休みなのに二人きりで出掛けるような相手が海にいたか……?
いつの間にそんな相手が出来たんだろうと気になりながら俺は今度七月さんと出掛ける時に来ていく服を、ファッションに疎いながらも頑張って考えた。




