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第63話 今の関係のままで

 〇七月明奈視点〇


 今日は久しぶりに柊くんがちゃんと笑っている姿を見れた気がする。

 それに少し吹っ切れたような、虚ろな目だったのが明日を向いているような生気を感じる目に変わっていた。


 松山くんと中村くんが何をしたかは知らないけど、二人のお陰でいつもの柊くんに戻りつつあって感謝しかない。


 放課後に柊くん本人の口から今回のことのあらましを聞いた時はあまりの内容に絶句してしまった。


 優衣やこはる、彩香だって暫く何も言えずにいたくらいだ。


 今思うと、あんな過去を持ちながら私達と普通に接してくれていた事が逆に凄くて驚いている。


 やはり、人は誰しも何かしら悩みや辛い過去を抱えているものなんだなという事も知った。


 私だけが辛い目に遭っていたわけじゃないんだと思えると、少し親近感を覚えた。


 あの頃は周りの事なんて考えられなくて、他の人達も同じように辛い思いをしていると頭では分かっていても心からはそう思えなかった。


 本当にそうなの? という疑問を抱いて、なんで私だけがこんな目に遭わないといけないのなんて悲観していた。

 あの頃の私は学校が世界の全てだと無意識に考えていて、何て視野が狭かったんだろうと今では思う。


 柊くんは辛い過去をあんな風に話せるくらいになって凄いな。私はまだ誰かに話す勇気はないや……。


 それに柊くんと比べたら私なんて虐められていただけに過ぎないし。

 裏切り……いや、あれは裏切りなんかじゃない。私が優衣の立場だったらきっと同じ事をしたと思う。あの状況じゃ誰も助けようなんて思えるはずない。


 でもその行動を後悔したのか、私が学校に行かなくなってから毎日の様に優衣は家に謝りに来たし心配してくれた。


 最初は鬱陶しかったけど、今思うと凄く嬉しかったな……。



 暗い気持ちになっちゃうからこれ以上は思い出すのは止めようと頭を振り、私は黙々と配信の準備を進める。


 今日のカラオケ楽しかったなぁ。柊くんと一緒に行けなかったのは少し悲しかったけど、まぁしょうがない。

 でもいつか一緒にカラオケに行く約束はしているから、早くその時が来ないか待ち遠しいな!


 ていうか! こはると柊くんの仲が良すぎる件について! こはるってもしかしなくても柊くんの事が好きなのかな? 最近やたらとスキンシップ多かったし、距離感も近いし……見ていてモヤモヤする。


 ……いや!? 決して私は柊くんの事好きとかじゃないけどね!? 多分……好きとかじゃない……と思う。


 最近色んな人から柊くんと「付き合ってるのかー」とか「柊くんの事好きなの?」とか色々質問されるから脳が勘違いしているだけだろう。


 ただ一緒にゲームをしたり配信をしたり、席が隣の仲がいい男友達。私はそう思っているし、柊くんもそういう認識だろう。


 アニメとかゲームの話を気兼ねなく出来る相手だからそりゃ、他の男子よりかは距離感が多少近くなってしまうのもしょうがないと思う。



 それに例え私が柊くんの事が好きだとしても柊くんはそれを受け入れてくれないだろう。寧ろこの前の状態みたいになったり、拒絶されるかもしれない。


 そんな事になるなら、仮に好きになったとしても私はその好意を伝える事はしない。ずっと今の関係のままでいい。


 もしかしたら、こはるも柊くんが本気で遊んでくれたのが嬉しかったから懐いたのかもしれないしね。


 前みんなで恋バナ的なのをした時にこはるが「うちはそういうのよく分かんないなー。みんなの事好きだもん!」と言っていた気がするし。


 あまり深く考え過ぎないのも大事だよね。


 そう自分に言い聞かせ頭を切り替えるとゲームを起動する。


 準備が終わったので配信を開始し、それを知らせるツニートを投稿。


 待機画面には既に沢山の人が集まっていて、待機コメントをしてくれている人もいた。


 少し前までは信じられなかったような光景に私は顔を綻ばせると「よし」と気合を入れ直して待機画面を開ける。


「やっほーみんなお待たせー! 今日も見に来てくれてありがとうね! 待機コメも~ありがと~!!」


【こん】

【きた!】

【待ってたよー!】

【今日も可愛い!】


「ありがとー! ねぇ聞いて聞いてー、今日終業式で明日から夏休みなんだよね。まじ最高!」


【学生の特権いいなぁ】

【羨ましい】

【俺も夏休み~】

【いいなぁ】


 私が嬉々として発した言葉に見てくれている人が反応してコメントをしてくれる。


 それを読み上げ、私は言葉を返す。


「いいでしょ~。友達といっぱい遊べるといいなぁ。というか遊ぶ! 私と同じく夏休みの人とかは何か予定とかあるの~?」


【いいね】

【俺は今8連勤だぞ……】

【俺も休み欲しい~!】

【夏休みの予定無し、家に引きこもり隊です】


「おぉ……お仕事の人は頑張って……無理だけはしないでね……。えー家にずっといるのは勿体なくない?」


【ゲームとかアニメとか漫画三昧最高だぜ?】


「あー! それもいいねぇ! でもたまには外に出て日の光浴びたり、身体動かすのは大事だぞ? お姉さんとの約束だからね?」


【年下に諭されるの悪くない】

【年下お姉さん】

【年下なのにお姉さん……???】


 ふざけてお姉さんぶったけど、私の配信を見てくれている人はどうやら年上ばかりらしかった。

 少し恥ずかしい……けど喜んでいるみたいでよかった……?


【友達とバーベキューする】

【旅行行く】


「おぉ! いいなぁ。私もしたいなー」


 友達と旅行とか行くのも楽しそう……。でも予約とか大変そうなイメージあるなー。



【近所の公園でやってるラジオ体操行くわ】


「おぉ! いいね! 私も小学生の頃早起きして行ってたなぁ……スタンプ貰いに。それで決まった数貯めたらお菓子が貰えたりするんだよね! 懐かしいなぁ」


【懐い……】

【もう何十年前の話だろうかw】

【今思うとよくあんな早起きして行けたよな。今じゃ絶対無理】


「んねー! 私も今じゃ無理かも。今夜更しばっかりしてるからさー学校の準備いつもバタバタしてやってるもん」


【ちゃんと寝てもろて】

【無理しないでね】

【身体大事に】


「あはは、ありがとー。みんなもしっかり寝て身体壊さないようにね?」


 雑談も良い感じに区切りがついたので私はエテのカスタムが近いから練習するという旨を皆に説明し、マッチに入ろうとしたところであるコメントが目に入った。


【ラギは大丈夫なん?】


「ラギくん? 多分もう大丈夫だと思うよ。さっきもツニッター更新してたし」


【ほんとだ、よかった】


 ここ4日間程柊くんはツニッターも更新していなければ配信もしていなかった。柊くんがあの状態なのを私は知っていたから特に何も思わなかったけどファンの人はそうじゃない。

 1日2日とか更新されないのならまだ分かるけど、流石に4日間というのは少し不安になってくる頃合いだろう。


 現実で何かあったんじゃないか。大きな怪我とかをしたんじゃないかとか、もしかしたら命を落としたのではという心配をする人もいるにはいる。


 昨日心配してコメントをくれた人が今日も来てくれていたので、大丈夫な旨を伝えると安心してる様子だったので私もホッとした。


 ふとフレンド欄を覗いて見るとそこにはragiというプレイヤーネームがランクマッチをプレイしていると表示されていたので私はふっとラギくんのファンの人に笑いかけるように声を掛ける。


「ほら、ランク回してるし大丈夫だよ」


【心配して損した】

【なんやねん】

【杞憂民か】


 柊くんのことを心配してくれる人が意外にもいる事実が、何故か自分の事のように嬉しかった。


 柊くん一人でランク回してるのか……。


【あいつソロで行ってるじゃん。配信つけてないみたいだし】


 私と同じ事を思った視聴者さんのコメントを見てラギくんが配信していない事を知る。


「配信つけてないんだ? そっかー」


 今はまだあまり喋る気力が無いから配信をつけていないのかもしれない。でもゲームをする元気が戻ってよかった。ここ4日間は一切ゲームもオンラインになっていなかったから本当に安心した。


【一緒にやんないの?】


「まぁたまには一人の時間も必要でしょ?」


 本当は出来るなら一緒にやりたかった。けど、昨日の今日だ。まだあまりグイグイ行かない方がいいに決まってる。それに松山くんにも注意されちゃったしね。


 理由はもう一個ある。こっちの方が皆としては納得するかもしれない。


「てか、私今ランクシルバーでラギくんプラチナだからそもそも一緒にできないのよ」


 この前ゴールドだった気がするのにいつの間にかプラチナに上がっていて一緒にランクに行けなくなっていた。

 フルパなら行けるんだけど、あと一人わざわざ探して一緒にやるのも違う気がしたので今日は一人で頑張る。


 どうせ明日タケさんと柊くんと三人でやる予定だし、足引っ張らないように頑張らないと!


「ってことで、私も頑張ってランク上げるぞー!」


【あきななってエテ最高ランクどこなの?】


「私―? 最高ランクはー……えーっと、ヴァルと同じゴールドだよ! ヴァルばっかりやっててエテはあんまりしてないんだよねー」


 その後も視聴者の皆と雑談をしながら順調にランクを上げていった。



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