第64話 一週間ぶりの配信
〇柊七緒視点〇
土曜日、夏休み初日。昨日久しぶりに夜更しをしてしまったので起きたのは11時頃だった。
久しぶりといっても4日ぶりではあるんだけど。
起きてからは昨日配信外でのよかったプレイの部分を切り抜いたりしていた。配信者たるもの、配信外でも何か面白い事や強いクリップが撮れるかもしれないので録画しとくのはマストだ。
たまに録画出来てなくて苦い思いをすることもあったりするが。
学校から出ている宿題も毎日少しだけでも手をつけようと思う。やる気とかモチベーションとかは無い。
だから習慣でどうにか片づける作戦だ。
このまえニューチューブで見た。やる気とかモチベーションは気まぐれだったり直ぐに燃え尽きたりするけど習慣だと毎日続けられると。
つまり習慣こそ最強ということだ。
確かに毎日夜更ししてたらそれが当たり前みたいになって何も考えずに夜更しするようになってたし。ご飯を食べた後は歯磨きをするのも全然億劫とは思わないし、お風呂に入るのだって習慣化されているから当たり前のようにする。と説明を見て衝撃を受けたのを覚えている。
宿題もそういう状態に持っていけたら俺の勝ち。
まぁその習慣にするのが難しくはあるんだけど……。
でも俺は長いようで短い夏休みを堪能したい、満喫したい! アニメとか一気見したいし、ゲームとか配信もいっぱいしたい。
だから頑張ると決めた。
宿題に手を付け、少し疲れたり飽きたら昨日の試合のクリップの編集という少しのご褒美を与えたりして何だかんだ気が付けば夕方になっていた。
昼近くに起きると一日が短く感じる……。
そういえば夜更ししてしまう原因の一つは一日に満足できていないから、というのもネットの記事で見かけた気がする。
昼に起きて半日で満足できるように過ごせるかと言われたらそうじゃないし、半日無駄にしてしまった分を取り返すように夜更しをしてしまうというのも納得できた。
夜更しはメンタルも不安定になりやすいって聞いたし、この前あんな風になった一因でもあるだろう。
光にも怒られるし、夏休みちゃんとした生活習慣に戻せるように頑張りたいな。
あ、あと冬のマラソン大会に向けて筋トレとかして体力つけたいな。
去年のマラソン大会滅茶苦茶きつくて死ぬかと思ったし、散々な結果だったからな……。
色々と夏休みの過ごし方の理想を頭で想像しているとピコンとディストの通知音が部屋に響いた。
タケ:【今日って21時からだっけ?】
返信しようとディストを開いた瞬間あきななが【そうですよー!】と返していたので俺はそっとスマホを閉じ作業に戻る。
いつもスマホを開いているかのような返信スピードは流石JKとでも言おうか。
今日は二回目のカスタム練習の日だ。もう既に来週まで迫っているカスタムで、調べた所他のチームはこの一週間でかなりの回数集まって練習している事が窺えた。
俺達ももっと集まって練習したかったが、タケさんは他の予定が埋まっていてできなかったのだ。
まぁタケさんの予定が無かったとしても、俺がこの一週間とても練習できるような精神状態に無かったのでどっちにしろって感じだが……。
一週間ぶりの三人集まっての練習。しかもあの後方腕組みのやつがバズった後の配信だから余計に緊張する。
まだ21時までは数時間あるのに落ち着かない。ホットミルクも飲んだのに。
そのままどこかソワソワしながら夕食とお風呂など諸々を済ませるとあっという間に21時が迫っていた。
俺は急いでPCの電源を付け、久しぶりの配信の準備をする。
三人のサーバーのVCに既にあきななが入っていたので俺も入る事に。
ゴクリと唾を飲み込み、VCに入るとポコンという入室音に気付いたあきななが『おっ?』と声を上げた。
誰が入って来たかを確認したのか一瞬の間の後に『やっほーお疲れラギくん~!』と元気な声を掛けてくれた。
「お疲れ様。今日も早いね」
『まぁねー! ……ラギくん本当にもう大丈夫なの?』
タケさんが入ってこない事を確かめてからか、少しの沈黙の後七月さんは心配そうに尋ねてきた。
「うん、大丈夫だよ。まだ少しあれだけど……全然大丈夫。ほんとごめんね心配かけて、迷惑かけて」
『いや全然大丈夫だよ! 私の方こそごめんね。あんな辛い過去も知らずに』
知らないのは当然だ。だって誰にも話していなかったんだから。それでも謝ってくる七月はいい人だと思えた。
でも、やっぱりまだ少し怖くはある。聖とは真逆で優しい笑顔を向けてくれて純粋に心配してくれるのが伝わってくるのに、時折あいつの顔がチラつく。
「大丈夫。ありがとね……」
『……うん』
気まずい空気感になってしまい俺はゲーム画面を起動して気を紛らわせると丁度いいタイミングで入室音が耳に響いた。
『お疲れ様ー! 二人共ごめんごめん、遅くなった』
『お疲れ様です! 全然まだ21時じゃないんで大丈夫ですよ!』
「お疲れ様です。全然大丈夫ですよあと1分あるんで」
『どわー! 焦らせるねー!? あ、もうあれだったら全然先に配信付けてもいいよ!』
そう言われた俺達は遠慮なくそうさせてもらい、ゆっくりで大丈夫な事をタケさんに伝えると配信を付けた事も報告する。
『おっけぇ俺も付けた』
「『はっや』」
流石長い事配信をしているだけあるなと感心させられている間に視聴者はどんどん集まってきていた。
【おひさ】
【生きとったんかわれぇ】
俺の配信にもいつもよりも多い人数が集まっていた。それが果たしてバズったお陰なのか一週間音沙汰無しだったからか、はたまたその両方かの判断はつかないが。
「ごめんごめん、ちょっと精神的に参っちゃってた。でももう大丈夫だよ。心配してくれてありがとね」
【そうだったんだな……無理すんなよ】
【大丈夫ならよかった】
【心配させんなカス】
ディストをミュートにして見てくれている人に事情を説明すると俺の心身を気遣うコメントが返って来た。
中にはツンデレみたいな人もいるけど、やっぱり案外俺の事を心配してくれている人がいるのをここでも実感して少し目頭が熱くなった。
ただでさえ他のチームよりも練習量が少なく時間が惜しいので早速ゲームを始める事に。
『いやぁそれにしてもそんなに経ってないはずなのに久しぶりな気がするなー』
『一週間ぶりは久しぶりなのでは?』
【確かに】
【マジトーン草】
『えぇそうかな? ラギくんはどう思う?』
「え? 人それぞれじゃないっすかね」
【無難な回答】
【なんも言えん】
『確かにそうかもしれん! でも二人と話せるの嬉しいわー。あきななちゃんとはツニッターでたまにコメ送り合ってたけど、ラギくんとは全然だったからなー』
『私もラギくんと話せなくて寂しかったなー』
【寂しかった?】
【ふーん寂しかったんだ】
【「ラギくんと話せなくて寂しかった」←ぐうかわ】
『寂しかったんだ?』
さり気なく呟いたあきななの発言を聞き逃さなかったコメ欄とタケさんは意地の悪い笑みを浮かべながらあきななに詰め寄る。
『え? あぁうん。そりゃ寂しかったよ?』
『だってよラギくん?』
最悪だ。よりによって俺にバトンが渡ってくるなんて。
あきななもあきななで分かっててニヤニヤしながら言っているのが伝わってくる。
「はいはい」
俺は苦笑しながら適当にあしらうと『冷たっ!?』とタケさんからツッコミを入れられた。
【俺も寂しかったって言われたい】
【照れ隠し】
【可愛い】
コメ欄ダルい……けどいじられて満更でもない自分がいるのも事実で複雑な気持ちだ。
『てかてかラギくんもう大丈夫なん? なんか4日間くらい消息不明になってたけど。ディストの返信も来なかったから心配したよー。視聴者さんも心配してたみたいだし』
「あぁその件はほんとすみません」
その後俺が精神的に不安定になっていた事と今はもう大丈夫という旨を説明するとタケさんは『まぁそんな時もあるよねーその年だと特にねー』とあまり深くは触れないでいてくれた。
【いやテストの点数悪かったからだろ】
「いやテストの点数は悪くはなかったし。寧ろ今まででいい方ではあったが?」
【うそつけ】
【勉強できるわけない】
【どうせ赤点回避ギリギリ】
コメントに対して反論するも散々な言われようで二人も笑っていた。
「そう、てかありがたいことにツニッターで心配してくれる声が思ってたより多くてびっくりした。ありがとね。でもなんかすげー色々と推測されてたんだけどあれはなに?」
『あー! なんかテストの点悪かったからゲーム禁止説とかボーリングでスマホ壊した説みたいなのいっぱいあったね』
『あー俺もそれ見た見た! この前話してた一緒にボーリングした女子に殺された説とか監禁されてる説とかね! あ、なんかあきななちゃんがリア凸して監禁してる説とかもあったよね』
二人共知っていたようで話題が広がり、コメ欄も笑いに包まれる中あきななが最後のやつに文句を言っていた。
『私がそんな事するわけないじゃん!? 私を何だと思ってるの!!?』




