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第62話 心配してくれる人

 〇柊七緒視点〇


 七月さんと小野さんが笑顔で挨拶を返してくれた。そのタイミングで丁度チャイムが鳴り先生が入って来たので小野さんは席に戻る。


 心配かけたから謝りたかったのだが、それは少し後になりそうだ。


 俺も荷物を整理し、席に着くと七月さんが声を掛けてきた。


「もう大丈夫なの?」


「うん、心配かけてごめんね。大丈夫だよ」


 それだけ聞くと七月さんは「ならよかった」と安心したのか前を向いて先生の話に耳を傾けていた。




 今日は終業式、今から体育館に行き先生の話を色々聞いた後に大掃除をして午前中で学校が終わりだ。


 なんとも楽で最高な一日だ。明日から夏休み、皆浮かれ気分でソワソワしていた。





 終業式という先生のお経のように眠くなる長い話を聞き終えると大掃除の時間になった。

 事前に掃除する場所は振り分けられていたので、俺達は汚れてもいい様に体操服に着替えそれぞれの持ち場につく。


 掃除が終わってからも着替えなければいけないので面倒だが文句を言ってもしょうがない。


 俺は教室掃除だったのだが、エアコンの掃除や窓の掃除は他の人がやってくれる様なのでいつも通り床を箒で掃く。


 面倒だからと友達と喋っている人を見ると、真面目にやった方が早く終わるのにといつも思う。


 ごみを一か所に集め、塵取りで拾う為に掃除用具入れに向かおうとしたところで七月さんが塵取りを持ってきてくれた。


「はい、どうぞ」


「あ、ありがとう」


 七月さんはゴミを入れやすいように塵取りを少しだけ斜めに傾けてくれた。


 俺は勢い余って七月さんにゴミを飛ばさないように慎重にゴミを掃く。


「なんか、ごめんね。私最近距離感近くて」


 ゴミを入れ終わり立ち上がった七月さんが突然そんな事を口にした。


「こはると松山くんから聞いたよ、中学の時辛い事があったって」


 そう言われ俺の心臓はビクッと跳ね上がる。


「そ、そっか」


「あぁ心配しないで! 詳しい内容は聞いてないから!」


「そうなの?」


「うん」


 俺が動揺したのを見てか七月さんは慌てて訂正し「まぁ気になるけど」と小さく本音を漏らす。


 俺の事を心配してくれていたし、そりゃ気になるのも仕方ないか……。


「やっぱ気になるよね」


「まぁね。でも、柊くんが話したくないなら全然大丈夫だよ」



 俺を気遣ってくれての発言。でも俺はもう一人で抱え込むのをやめた。口にした方が、笑い話にできる。消化できる。いつまでもあの時の自分に囚われるわけにはいかない。


 ――だから


「皆に心配かけたし簡単に事情を説明させて欲しい。俺の為にも」


 目を見て、はっきりとそう伝えると七月さんは俺の言葉が意外だったのか一瞬目を丸くしていた。が、直ぐに「分かった」と柔らかい笑みを浮かべた。


「あ、今じゃないよ?」


「あっ……い、今じゃないのね!」


「あはは勘違いした~」と恥ずかしかったのか逃げるように塵取りのゴミを捨てに行った。


 帰って来た七月さんは、勘違いしていたのがまだ少し恥ずかしいのか口元が緩んでいた。

 その様子が面白くてつい俺も笑ってしまう。


「あはは」


「ちょっとっ、もう!」


 バシッと笑うなと言うように肩を叩かれるが、七月さんも笑っているので満更でもない。


「それでさ、渡辺さんと小野さんと桃沢さん放課後ちょっと時間あるか聞いててくれない?」


「ん、分かった」


「ごめん、ありがと」





 そんなこんなで大掃除が終わりホームルームも終えると「夏休みだー!」と叫ぶ男子。「今からどこ行く? カラオケ?」と教室を出ながら話し合っている人達とは対称的な雰囲気を俺達は纏っていた。


 こんな暗い空気にするつもりは無かったのだが、俺が話した内容のせいで全員沈黙していた。


 なるべく暗くならないように、もう今は大丈夫という意味も込めて努めて明るく言ったはずなのだが……。


 心配かけてごめんという謝罪と今回俺が鬱気味になった原因を説明したらこうなってしまった。


 昔俺に何があったのか気になっていたと聞いた七月さんや小野さんですら全然反応しない。


「えっと……だからこれからもちょっと壁感じたり俺の態度で不快な気持ちにさせたらごめん……」


 沈黙に耐えられなくなった俺は最後にそう伝えると皆の顔を伺う事しか出来なかった。


「えっと……そのほんとにごめん。うちラギっちのそんな辛い過去も知らずに馴れ馴れしく接しちゃって……」


「私もごめん……勝手に仲良くなった気でいて全然柊くんの事分かってなかった……」


 小野さんが涙目になって謝ってきて、七月さんもそれに釣られ声が震えていたので俺は慌てて二人を慰める。


「え、いやその……俺の問題でしかないから二人は悪くないよ。寧ろごめんね。でも二人が俺に沢山話しかけてくれるのは凄く嬉しいから……そんなに気にしないで。俺も頑張って克服するからさ」


 そこで今まで口を閉ざしていた渡辺さんがゆっくりと口を開く。


「やっぱり、時折壁を作っているように見えたのは間違いじゃなかったんだね」


「え、バレてた?」


「うん、明奈とかこはるは全然気付いてないみたいだったけどね」


 流石渡辺さんといったところだろうか。そこまで見抜かれていたとは思わなかった。


「えーっと……これあたし聞く必要なかったくない?」


 空気を壊さないように黙っていたのか桃沢さんは恐る恐る手を挙げながら気まずそうな顔をしていた。


「でも心配してくれてたでしょ?」


「ま、まぁ多少は?」


 確かにそんなに桃沢さんとは仲良くないけれど、七月さん達と仲が良いから自然と俺の事が嫌でも目に入るだろう。


 本人はあまり自覚は無いのだろうが、俺の事を心配そうに見てくれていたのは覚えている。

 まぁそれが七月さんという友達が心配してるから心配してるみたいな所はあったのかもしれないが。

 それでも心配してくれていたのは事実だ。


「だから、ありがとうね」


「えっ、う、うん」


 まさか俺からお礼を言われるとは思っていなかったのか、桃沢さんは目を逸らすと髪を指でくるくるしていた。




 七月さんと小野さんが少し落ち着いた所で、気分転換にカラオケに行こうとなったのだが、今日は既に光も海も帰っており男一人は流石に気まずいので俺も帰る事に。


 朝、母さんには遅くなるかもとか言っていたのに速攻帰ったらびっくりするかな。

 友達いないと思われかねないが、体育祭の時光と海と一緒にいる所は見てるはずだから大丈夫か。



 七月さんと小野さんには「えー行こうよー」と最後まで懇願されたが、渡辺さんと桃沢さんに諭されて仕方なく受け入れていた。



「朝松山くんに言われてたでしょ。過度なスキンシップは止めといた方がいいって」


「さっきの柊くんの過去ちゃんと聞いてたわけ? 女子四人に囲まれるの普通に怖いし気まずいでしょ。逆の立場になって考えてみなよ……」



 小声で諭していたので何を言っていたのかは分からなかったが、表情だけでこの四人の関係性が見えて少し面白かった。







 皆に別れを告げ家に帰り、昨日までスマホを見る気力も無く電源を切っていたので起動すると画面がフリーズした。


「え?」



 時間にして2秒ほどでその後直ぐに動いたが、スマホが壊れたかと思ってかなりびびった。


 すると動いた直後に今まで見た事のない量の通知の嵐が押し寄せてきた。


 何事!? と思い通知の内容をしっかり見てみると、ニューチューブの登録者が増えたお知らせやツニッターのいいねやフォローなどの通知だった。


 あー……そういえば何かタケさんが俺とあきななの会話を腕組みしながら静かに聞いてた動画がバズったんだっけ。


 それの直ぐ後に俺は昔の夢を見て、気が滅入ってしまいSNSなんて見る気力すらなくなっていた。なのであの後どうなったのか知らなかったが、こんなに通知が来てたということは相当伸びたんだろう。


 そう思い、元の切り抜きツニートを見てみるとあまりの衝撃に驚きを通り越して苦笑いが出てきた。


 確か最後に見た時がいいねが7000くらいで、リツニートが500くらいだった記憶があるのだが、現在のいいねは5万を超えリツニートも2000近くなり閲覧数が1000万を超えていた。


 10万人の登録者がいるタケさんでさえ驚いている様子だった。10万人いるとしても、それはニューチューブの方でその全員がツニッターをフォローしている訳でもない。

 ましてや全員がこの動画をいいねする訳じゃないから、その半分もされているのなら十分過ぎる結果と言ってもいいだろう。


 簡単に言えば、1000人チャンネル登録者がいたとしてもライブ配信の同時接続数は10人も行けばいい方なのに500人もいるみたいな感じだ。

 少し大げさかもしれないけどそれだけ凄い事だった。


 そのバズり具合に比例して、タケさんも俺もあきななも全員のフォロワーやチャンネル登録者数が増えていた。


 元のツニートの人が俺達三人のアカウントをメンションして宣伝してくれたお陰もある。



 嬉しい事なのだが、ここまでくるとまた配信するのが怖い気持ちが湧いて来る。

 大勢の人に見られるという事は当然批判がつきもの。

 好印象を覚えてくれる人もいれば逆に嫌われるということでもある。



 明日は久しぶりに、約一週間ぶりに三人でカスタムの練習をする予定だ。そこから本番まではほぼ毎日することになっている。


 結構本格的なカスタム大会だから不甲斐ない結果で終わる事があったら炎上してしまうかもしれない。


 勿論、運営陣はエンジョイでいいと言っているのだが多分皆本気でやるだろう。


 なんせ主催は登録者数60万人を誇る企業所属の超大手vtuberで上位に行けば行くほど本配信に映っている時間も長くなり、印象に残ることでファンを獲得出来る絶好のチャンスでもあるのだから。



 俺がそんなカスタムに出場する事実を再認識したら胃がキリキリしてきた。



 あ、というか日曜にゲームした後全く触ってなかったから衰えてそう。明日から夏休みだし、やっとくか。



 俺は二人の足を引っ張らないように、やれなかった4日分を取り戻すかの如くランクを回しまくった。


 因みに配信は付けなかった。まだ少し中学の事を思い出してメンタルが不安定なのと、それにプラスしてバズった影響、そして有名人が主催するカスタムに出るというプレッシャーが合わさった結果しない方がいいと判断した。



 ランクがマッチする隙間時間にツニッターを見ると、俺が4日間配信もツニートも何もしていなかったせいで心配してくれる声が多数あったのは嬉しかった。



【今週頑張ったら夏休み】というどうでもいいツニートを最後に全く浮上していなかたったので、【テストの点悪かったから親に怒られてゲーム禁止説】や【勉強してる説】などとコメントで言われていた。


【頑張り過ぎて溶けた説】

【ボーリングでスマホ壊れた説】

【この前言ってた活発女子にボーリングの玉で殺された説】

【活発女子に監禁された説】

【↑なにそれ最高じゃん】

【嫉妬に狂ったあきなながリア凸して監禁してる説】


 と、言いたい放題言われていた。


【普通に生きてます。今日から夏休みだぜ】と取り敢えずツニートをして、コメントに出来るだけ反応を返したりした。


 ディストを開いてみるとタケさんや日和(ひより)さん、レイさんなど最近絡んでいた人達から心配の声がかかっていたので大丈夫な旨も返信する。


 正直、こんなに心配してくれる人がいるとは思っていなかったので驚いている。所詮顔は見えないネットの相手、そんな俺を心配してくれる人がいる事実が嬉しかった。


 現実とネットの両方に心配してくれる人がいて、居場所が存在するって俺はかなり恵まれているんだな……。




 俺が落ち込んでいる間もあきななは元気に配信していたみたいで、順調に固定ファンを増やしているようだった。

 どうやらあきななの方にも俺を心配する声が届いていたようで、七月さんにはネットと現実のどちらでも迷惑をかけてしまったみたいで申し訳なかった。



 今度何かお詫びをしようと考えながら俺はランクを回し、プラチナ1に駆け上がりダイヤが見えてきた所で終えた。


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