第61話 分かりやすい二人
〇松山光視点〇
昨日七緒をカラオケに無理矢理連行して半ば強制的に話させたけど、結果的にいい方向に行ったと思う。
デリケートな問題だから、正直もっと時間をかけて色々工夫しながらやるべきだとは思ったが、如何せん夏休みに入ったら俺が出来る事は何も無くなって手遅れになる可能性があった。
七緒の家なんて知らないし聞いたとしてもあんな感じの状態じゃあ多分教えてくれないと思う。
それにしても想像していた数倍もエグイ話をされて、理解するのに少し時間がかかってしまった。
七緒は時折俺の妹と似た雰囲気になる瞬間があって、何か抱えているんだろうなって思っていただけにその内容を聞いて絶句してしまった。
部活で虐められていた事と、優しくしてくれた人に告白して彼女になった次の日に今までのは全部嘘だったと裏切られた。
それはきっと俺達が想像できないくらい辛かったと思う。
そんな過去を持ちながら今まで普通に俺や女子と接していたという方がどうかしている。
人に対する恐怖心、それこそもう人間不信や対人恐怖症になってもおかしくないくらいの状態になっていたと思う。
そこからどれだけ頑張れば、今の状態まで来れるのか……相当頑張ったんだな……。
でも変に気遣い過ぎるのも七緒は嫌がるだろうから、俺は今まで通りに接してやろう。
でも夜更しとかするのはメンタルが不安定になる要因だからまじで止めて欲しい。心配するこっちの身にもなってくれっつーの。
そんなこんなで朝登校したら、七緒の事が心配だったのか既に来ていた七月と小野が不安そうな表情で近付いてきた。
「松山くん、おはよう」
「ひかるんおはよう。ラギっち大丈夫……?」
なんだひかるんって……確か七緒の事もラギっちとかいう愛称で呼んでたな。
小野から初めて呼ばれる呼び方に一瞬戸惑いながらも俺は努めて心配させないように、柔らかい笑顔で二人に「あぁもうきっと大丈夫」と伝えた。
「そ、そっか……よかった…………」
「よかったぁぁ……でもまだあんまり距離近くない方がいいかな? いいよね?」
大丈夫という言葉を聞きホッと胸を撫で下ろす二人だったが、小野がそんな心配をしたことに少し驚いた。
今まであまり関わったことはなかったが、クラスで男女隔てなく接していて距離感が近く、失礼だがあまり何も考えていなさそうな印象だった。
だが、こういう気遣いも出来るんだな。いや、普段人と沢山接している小野だからこそなのかもしれない。
「まぁ……そうだな。夏休みとかにアイツと遊ぶのはいいんだけど、過度なスキンシップとかそういうのは控えてくれ。好きなのは分かるけど」
「な、私は別に好きとかそういうのじゃないし?」
「う、うちも別にそういうのじゃないからね!?」
「はいはい」
こいつら分かりやすすぎだろ。
「てかお前らが言ってた七緒が昔嫌な事があったって内容が想像の何倍もキツくて聞いてるこっちも辛かったわ」
「え、そんなになんだ……」
「どんな内容だったの……?」
二人共七緒の事をもっと知りたいのと心配なのとで気になっているが、俺が話すべき事じゃないのは確か。
「それは俺が勝手に話せるものでもないな」
「そうだよね……」
「そだね……」
言葉では納得する二人だったが、心では納得していない様だった。
まぁいつか本人の口から聞ける日が来るだろう。あんまり話したがらないだろうけど、この二人ならきっと真剣に聞いたら答えてくれそうな気もする。
「松山くん、色々とありがとね」
「ありがと!」
「おう」
二人から笑顔でお礼を言われ短くそう返す。
こう真正面からお礼を言われると少し恥ずかしいなと思っていると、小野が何かに気付き「あっ」と声を上げた。
「あ、かいかいもありがとね!」
「か、かいかい? ど、どういたしまして」
「いたのかお前」
「今きた」
教室の前方にある時計を見るともう数分でホームルームが始まろうとしている時間だった。
まだ七緒が来てないが心配無用だろう。あいつはかなりの頻度で遅刻したりギリギリの時間に来たりするからな。
まぁ状態が状態だっただけに少し不安ではあるが昨日の様子だと大丈夫だろうと思い、少し早めに席に着いて授業の準備を始めた。
その時、ガラガラと勢いよく後ろのドアが開かれ息を切らした七緒が入って来た。
「はぁはぁ……お、おはよー」
「おはよう! 柊くん!」
「おはようラギっち!!」
まだ少し哀愁は漂うものの昨日までの暗さとは打って変わった七緒の挨拶に七月と小野は顔を輝かせて返事をしていた。
さっき好意を隠せと言ったばっかりなのに駄々漏れじゃねぇかと呆れ笑いを浮かべる。
でもまぁほんと、元気になってよかったな。心配かけやがって。
お礼に今度俺の妹を励ましてくんねぇかな。




