第52話 カスタムに誘った経緯
〇柊七緒視点〇
小野さんと遊んで疲労困憊だったので、その日は直ぐにでも寝れそうだったが昨日の今日で決まったカスタムの顔合わせをする予定があった。
登録者が10万人もいるタケさんとやるのは流石に緊張する。
俺は早めに集合すると同じ気持ちだったのかあきななも直ぐにディストのvcに入って来た。
「お、お疲れ様ー」
『お疲れ様ー。ラギくん早いね?』
「そういうあきななこそ早いね」
『いやぁちょっと遅れたらどうしようっていうのと緊張で……』
「俺も同じ」
あははと笑っているとピコンというvcの入室音が聞こえタケさんも入って来た。
『あ、どうもどうもお疲れ様ですー』
「『お疲れ様です!』」
『いや本当急だったのにカスタム一緒に出てくれてありがとう~!』
「『いえいえ』」
『え、二人共緊張してる?』
「いや、まぁそりゃしてますよ」
『してます!!』
あきななの食い気味の主張にタケさんは苦笑しながらも俺達がなるべく緊張しないように砕けた感じで話しかけてくれた。
『全然緊張しなくていいからね。俺なんてちょっと有名なただのおっさんだから気にしないで』
俺とあきななは自嘲するタケさんに緊張で愛想笑いをする事しか出来なかった。
軽い自己紹介やゲームのフレンド登録などを済ませるとタケさんが配信を始める旨を伝えてきた。
それと同時に俺達も配信を始める。
サブのモニターでタケさんの配信を開くと、既に待機していた視聴者さん達がかなりいて開幕早々凄い量のコメントが来ていた。
タケさんが自己紹介をすると次はあきななに振られる。
『あっえっと、初めましてあきななって言います! 今回ありがたい事にタケさんに誘って頂き一緒にカスタムに出る事になりました。よろしくお願いします!』
【あ、ボイスめっちゃ可愛かった人やん】
【ヴァルのバズってた人か】
『そうそう! 最近2回もバズってた人! いやぁボイスもよかったけど、野良に煽られてからの反応とか面白かったよねー!』
『えっへへ……ありがとうございます』
『そしてそしてもう一人がー?』
「どうも、何でここにいるのかよくわからないラギです。よろしくお願いします。完全なる場違い感が凄いです」
【ほんとにな】
【タケさんじゃん、すげー】
【自虐w】
自分のコメント欄を横目に見つつ暑いのに緊張で震える手を握り締める。
『あはは! そんな事ないでしょ! そう、あきななちゃんの動画に一緒に出てた人でヴァルのプレイ動画が伸びてた人!』
【あの完璧な立ち回りの人か】
【野良に言い返したやつおもろかった】
タケさんのコメント欄で肯定的なコメントを目にし、思わず頬が緩む。
タケさんはあきななの事だけじゃなく、俺の事もちゃんと知ってくれていた事が分かり嬉しさが込み上げてきた。
早速カスタムの練習をしようとなりランクに行くことになる。
練習と言っても普通に三人でプレイして立ち回りとか動き方とかを合わせて行く感じだ。
普段なんのキャラを使うか~とかいつも使う武器や最高ランクなどの会話を一通りやりながらランクを回していく。
物資を漁っているタイミングでタケさんがコメントの質問を読みながら唸っていた。
『この二人を誘った理由かぁー……うーーん』
『あ、それ私も気になってました』
「俺も気になります」
なんでそんなに有名でもない俺達をタケさんは誘ってくれたのか。
『いやぁ? 大した理由じゃないよ? 今回のカスタムって俺の知っている人達も結構出るからその人達は誘えないじゃん? んで友達が少ない俺は誘える人いなくね!? ってなってどうしようって頭を抱えてたらふとこの前ツニッターで見たあきななちゃんの事を思い出したわけ。それで面白そうだし、誘ってみたのよ』
『へぇー! そうだったんですね。じゃあ友達が多かったら今回誘われてなかったわけだ。私達はタケさんの友達の少なさに感謝だね? ラギくん』
「あはは、そうだね。友達少なくてありがとうございます」
『あれ? おかしいな。感謝されてるはずなのにあんまり嬉しくないな……』
【悪気のない感謝だから余計に複雑だなwww】
【友達少なくてwww】
【俺達はタケの味方だぜ……】
「あきななを誘った理由は分かったんですけど、俺はどうしてですか?」
『んや、まぁ曲がりなりにも俺はそこそこ有名だから一人だと緊張するかなーって思ってあきななちゃんと仲良さそうなラギくんを誘ったわけだよ」
「あぁそういう事……。てか、俺に直接DMしてくれればよかったじゃないですか」
『あぁうん、いやそうなんだけどね。どうしよう言おうかな。これ言っていいかな、あきななちゃん?』
『んぇっ!? 何ですか? 何をですかっ!?』
突然名前を呼ばれるも何の事か分かっていない様子で困惑するあきなな。
そんな風に言われたら気になって仕方がない。
【ん? なんだ?】
【教えろ教えろ】
【お? お? 面白くなる予感】
コメントの皆も気になっている様子だったので、俺は急かすようにタケさんに「何ですか? 何ですか?」と尋ねる。
『まぁ……実はね、最初はあきななちゃんだけしか誘うつもりなかったんだよね』
「え? そうなんですか?」
タケさんの突然の告白に俺と視聴者は同じような反応を見せる。
確かに、それなら俺にDMしてこなかったのも納得だが何故そこから俺もカスタムに出る事になったのかが分からなくなる。
『あっえっ、ちょっとタケさんそれ以上言わないで!』
さっきはなんの事か分からなかったあきななだったが、タケさんのその一言で察したのか必死に止めようと大きな声を出す。
「え? ちょっとあきななうるさい。で、タケさん続きを」
『あはは、うん。まぁそれであきななちゃんを誘ったんだけど、誘ったらなんて言われたと思う?』
『わー!!! 言わないで!! わーわーわー!!』
あきななが必死に声でかき消そうとするもそれを無視してタケさんは続ける。
『「ラギくんが一緒だったら出ます」……って言ったの。んで他に誘う人も思い付いてなかったから承諾して、このメンバーになったってわけ』
『わぁぁっぁっぁぁぁぁ!!!!!』
あきななの大声も虚しく、耳に届いてきた言葉に俺は少し戸惑う。それと同時に嬉しさも込み上げてきた。
【激アツ】
【おもろwww】
【可愛いw】
【ラブラブじゃん】
【二人そういう感じなん?】
『あ゛あ゛ぁ゛ぁ……』
「え、そうなの? あきなな」
この世の終わりみたいな、ゾンビみたいな声を出すあきななにニヤニヤと問いかける。
『いっいや、まぁそうだけど! 全然そういうのじゃないからね!? 勘違いしないでね? ただ私は知ってる人がいた方が安心するってだけで。ほ、ほらタケさん10万人も登録者いるから不安で、それでだから……』
早口で弁明をすればするほどガチ感が出てしまうのを気付いているのだろうか。それともあきななの事だ、これも計算の内かもしれない。
何も考えていないようで実は結構考えて行動している、それを俺は知っているからこれが本心なのかそれともわざとなのか判断が付かなかった。
「はいはい」
俺は落ち着かせるように相槌を打つと一呼吸置いてからあきななが再び口を開く。
『私がバズったのはラギくんのお陰でもあるからね……恩返しみたいなのもあるよ? だってラギくんと一緒にやった時にあのボイスは生まれたし、野良とのやり取りとか反応もラギくんと一緒だったからできたわけで。だからラギくんには感謝してるし、そのお礼みたいな……』
「いや俺はただ一緒にやっただけで、あれがバズったのはあきななの編集とかが上手くて、あきななの自身の魅力だから俺は関係ないし。寧ろ俺がおこぼれを貰っただけっすね。感謝するのは俺の方です」
本音を伝えるのが案外恥ずかしくて語尾が後輩とかが使う感じになってしまった。
と、そこで今までの会話を静かにたまに笑いながら聞いていたタケさんがようやく口を開いた。
『謙遜しまくりやん! まぁお互いがいたからこそのってことよね。なんかもうパートナーみたいやね。お互いがいないとダメみたいな』
正直二人きりだったらこの後気まずくて地獄の空気になるところだったから助かった。流石配信者だけあって、最高のタイミングだ。
【ボイス聞いてきた、最高】
【ラギがいなければあのボイスは無かったのか、ありがとうラギ】
【何だこの二人てぇてぇ】
『そういえばラギくんって確か高校生なん!?』
「あ、はいそうですね」
あんまり公にしていないのに知っているって事は俺のツニートをちゃんと見ているって事になる。
有名な人が底辺の俺なんかのツニートを見てくれているなんて思うと凄く嬉しい。
と同時になんか変な事ツニートしてなかったか不安になってきた。
『あきななちゃんと同じなんだね』
「そうですね。同い年ですね」
『そうは見えないくらい大人びてるよねー』
「あはは……よく言われますね」
『私も最初は普通にもっと上かと思ってました! でも意外と年相応なんですよ?』
『え? そうなの?』
「えーいやどうなんですかね?」
案外自分で自分の事を理解していないから何と答えていいか分からなかった。
【こいつ猫被ってるだけだぞ】
【個人配信の時とかあきななと二人の時はまじで歳相応になる】
【大人ぶってるだけ】
『って言われてるけど?』
タケさんの方のコメント欄を見るといつも俺の配信に来てくれている人達がそのコメントをしていた。
「あーまぁ緊張とかしてるから猫被ってる感じになるんだと思います」
『あーなるほど? 結構人見知りなんだ?』
「うーん? 普通に喋れはするけど距離感を図ってるみたいな。仲良くなったらそれなりにはって感じですよ?」
『あーそうだよね。俺も思ってたけど結構壁感じてるから悲しい』
『もっと気楽に絡んで!』とタケさんに懇願され反応に困ったが「頑張ります」と返す他無かった。
いきなり仲良くするなんてそれこそ陽キャとかじゃないと出来ない。俺はそんなコミュ力を持ち合わせているわけでもないし、それプラス10万人というそれなりに影響力のあるタケさん相手だと猶更だ。
下手な発言をしたら簡単に炎上してしまうかもしれない。そういう恐怖から気楽に絡むのは難しい。
だが流石のあきななは陽キャなだけあってか、もう大分砕けた口調で話していた。勿論まだ敬語が残っていたりはするが。
【タケ、ずっと思ってたけど「ちゃん」呼びおっさんくさいw】
『えっ! おっさんくさいまじか! 二人もそう思ってた?』
「俺は特に気にしてなかったっすね」
『あはは! 実はちょっと思ってた!』
『かはー! あきななちゃん正直だなーっ!』
【これが生のJKの意見です】
【女子高生の本音】
【遠慮なくなってきていいね】




