第49話 不意打ち
〇小野こはる視点〇
いやぁ、またラギっちに負けちゃった……悔しいぃぃ!!
うちは最後の方はもう集中力が限界だったのに、ラギっちは最後まで集中してた。あれだけ長い時間集中出来て凄いなぁ。
しかも最後の最後でストライク取るしさ、見た目に反してメンタルつよつよじゃん!
ラギっちとは元々接点無くて、結構遅刻してふにゃふにゃしてる気弱で変なクラスメイトだと思ってた。
けど、ななっちがラギっちと仲良くなってうちも話してみたら普通にノリいいし変だけど面白い人だと思った。
大人しそうな顔をしているのに意外と自分を持っていて、いつの間にかこうして休日に一緒に遊ぶような関係になっていた。
負けたのは悔しいけど、うちのわがままに付き合ってくれて優しいなー。
そんな事を思いながらラギっちが帰ってくるのを待っていると隣のレーンの人の話声が聞こえてきた。
「ねぇねぇ、二人きりってことはさ……これってデートってことでいいんだよね……?」
「ん? うん、俺はそのつもりで誘ったよ」
「そ、そっか。嬉しい……」
ん……? でーと……? ふたりきり。デート……。あれ? うちらも二人きりだ。
えっ、んっ? じゃあ今この状況もデートってこと……?
いやいやいや違う。うちはこの前のリベンジだからデートじゃない! デートじゃない……よね……?
え、これ他の人から見たらうちらデートしてる感じに見える!?
どうしよう、意識したら急に恥ずかしくなってきたかも……。だってうちこんな事初めてだし……。
待って、いつもの癖とは言え最初手繋いじゃった……。
徐々に体温が暑くなっていくのを感じながら、うちは冷静さを取り戻す為に考えを巡らせる。
そうだ、ラギっちはななっちの好きな人だ。ななっち本人が言っていたわけではないけど、多分好きだろう! うん!
それでラギっちもななっちが好き……いやあれ? さっき友達として好きって言ってたな……。
あれ、あれぇ……? 二人は付き合ってるわけでもないし、別にいいの?
色々な事に混乱しているとラギっちが飲み物を二本持って帰って来ている姿が見えた。
自分の頬を一回思いっきりパチンと手で挟み頭を切り替える。
今までと変わらない接し方で、変な感じにならないようにと頭の中で繰り返しているとラギっちが「はい、お待たせ」と声を掛けてきた。
「はぃッ!」
やばい、ちょっと声裏返っちゃった!
〇柊七緒視点〇
オレンジジュースを渡しながら小野さんに声を掛けると何故か少し顔を引きつらせながら声を裏返していた。
「どうしたの?」
「い、いやっ別に何も……。あ、ジュースありがとっ!」
誤魔化す様にお礼を言い、喉が渇いていたのかオレンジジュースを一気に3分の1程飲み「ぷはぁッ」と一息つくと、さっきまでの強張った顔はどこへやら。幸せそうに頬を緩ませ天を仰いでいた。
まあいっかと思いつつ椅子に腰を掛け、自分の分の飲み物を数口飲む。
もうボーリングをしないのにいつまでもレーンを使っているのは良くないよなと思い俺は靴を履き替えた。
少しスマホをいじって休んでいた小野さんもそれに気が付いたのか慌てたように自分の靴を取ろうと席を立った瞬間、足を滑らせたのかグラッと態勢を崩しそうになる。
俺は反射的に立ち上がり小野さんの肩を支える。咄嗟に触った小野さんの肩は小さくて少し強く握ったら骨折してしまうのではと錯覚しそうだった。
「大丈夫?」
「うぉおぉ、びっくりしたー。ありがと!」
「ゆっくりでいいよ」
「うん!」
小野さんが自分の足で立てるようになったのを確認してから肩を離すと勢いよく離れられた。
そんなに素早く動いたらまたこけそうになるぞ……? それとも俺に肩触られるのがそんなに嫌だったのかな。
ていうか、小野さん程の運動神経があれば俺が支える必要なんてなかったのでは? と思ったが万が一にも怪我をされても困るので嫌われてたとしても良しとしよう。
ふと小野さんの方に目をやると自分を抱くように肩を触っていた。
もしかして咄嗟の事で俺は力加減が出来ていなかったのではという考えに辿り着き、恐る恐る声を掛ける。
「ごめん、強かった? 肩大丈夫?」
「んぇっ!? い、いやっ!? 全然、大丈夫だよ!!」
俺の声にびっくりしたのか、身体を跳ねさせると両手を振りながら否定してきた。
ボーリングをしていたさっきまでの小野さんとはまるで別人の様な反応っぷりに俺は首を傾げる。
心なしか小野さんの頬は少し赤いような気がしたが、きっとボーリング対決でヒートアップした熱がまだ引いていないだけだろう。
小野さんに限って肩を触られて照れたとかそういうのは無いと勝手に判断した。
だって小野さんはあまりそういうのには興味が無さそうだし、クラスでの様子を見ていても男女関係なく距離感が近いからこれくらいの事で照れたりなんてしないだろう。
自分で使ったボールと小野さんが使ったボールを片付けて戻ると、靴を履き替え終わった小野さんに感謝を述べられ照れくさい気持ちになった。
適当に返事をしてから俺達は会計を済ませると卓球が出来る階に移動する。
ボールが転がる音やピンとの衝突音の喧騒が小さくなっていくのを背中に感じると同時に、今度はピンポン玉が跳ねる軽い音や楽しそうに卓球をしている人達の声が耳に入ってくる。
卓球もラケットとか貸出まですると意外とお金かかるなと思いながらも先に会計を済ませると1時間と時間も決まっているのでさっさとコートに行くことに。
本当はネットとかも自分達でセットしないといけないのだが、休日は前に使っていた人達がいた場合そのままにしているそうで準備する必要が無くて楽だった。
「ラギっちって卓球した事ある?」
「いや、あんまりない」
「ルールは大体分かる?」
「まぁ体育でやったからある程度は」
サーブは自分のコートでワンバウンドしてから、他は普通に相手のコートに入れる。ノーバウンドで打ち返したらダメとかそういうものは知っていた。
「うちも大体しか知らないからサーブは交互でいい?」
「うん、それでいいよ――ッ!?」
承諾の言葉を返した次の瞬間、小野さんが急にボールを打ち込んで来た。
いきなりの事で俺は立ち尽くすことしか出来ず、ピンポン玉が地面に転がる音が響く。
「いぇーい! まずは1点~」
「不意打ちはずるくない?」
「へへへー、油断してる方が悪いんだよ~?」
ウォーミングアップもなしに早速勝負を始めるらしい小野さんに意地の悪い笑みを向けられた俺は、床に転がるピンポン玉を拾うと素早くサーブを打つ。
「……あッ!?」
「はーい、俺も1点~」
「ずるいずるい!! 卑怯だぞ!」
「いや小野さんもな!?」
先に仕掛けてきておいてそれはどうなんだとツッコミを入れると間髪入れずに小野さんはサーブを打ってくる。
今度は油断せずに反応出来た俺はしっかりと打ち返しラリーが続く。
「え、ちょっと上手くない!?」
「まぁ……」
「卓球やってたでしょ!!」
「卓球はやってなかったよ」
どちらかがミスして交互にサーブを打ち、それの繰り返し。
「卓球『は』って?」
「昔バスケちょっとやってただけだね」
「えー!! そうなんだ!!」
「うん」
バスケ自体はそんなに嫌いじゃないけど、思い出したくない記憶の方が多い。
バスケをしていた時の記憶を思い出して悔しくて俺は思わず手元に力が入って思いっきりアウトをしてしまった。
「わぉっ!」
「あっごめん、当たらなかった?」
「ん? へーきへーき!」
ダメだな本当に……俺はずっと過去に囚われている――
「ねぇラギっち? もしかして――楽しくない……?」
「…………え?」




