第48話 集中力の差
まさかの最初からストライクを取るとは思っておらず、ドヤ顔を向けてくる小野さんに俺は顔を引きずらせた。
「ふっふっふ。うち今日は絶好超らしい。勝てるかな?」
挑発してくる小野さんに俺は「よし」と声を出し、気合を入れて立ち上がり肩を軽く回してボールを構える。
力み過ぎないように、でもしっかり狙いを定めて手からボールを離す。
レーンを転がるコースはよかったが少し力を抜き過ぎたのか、結果は7本。
スペアを狙うも残り1本を倒す事が出来ずに席に戻ると小野さんは満面の笑みを浮かべていた。
小野さんにそんな気はないのかもしれないが、滅茶苦茶煽られてる様にしか感じなかった。
俺は火がつき、自販機でエナドリを買って一気に喉に流し込んで目と頭を冴えわたらせる。
頭を使わないのにエナドリなんて飲んでも意味あるのかというツッコミは受け付けない。普通に朝だから眠気を吹っ飛ばすために飲むのだ。
そんな直ぐに効果出る訳でもないが、それはその……そういう雰囲気というか勢いというかノリだ。
その後ストライクを数回取る事が出来たり、スペアも取ったりと好調だった。金曜にやったお陰か、ガーターは一回も取る事は無く一投で必ず1ピンは倒している。
だが流石小野さんも上手く、点数差は5点もない。一回のミスが命取りになるような気の抜けない状態。
友達とするなら順番が来たら次々に投げていくのだがこれは勝負。一回一回集中しながら投げているからか気が付けばかなりの時間が経っていた。
そして最後の10フレーム目。
小野さんが集中してステップを刻みボールを手から離した瞬間、小野さんが「あっ……!」と声を漏らした。
集中力が少し乱れたのかボールの軌道が真ん中から逸れ左端の方に行ってしまった。
端の方でも5、6本は倒れてもおかしくないのだが運が悪かったのか2本しか倒せていなかった。
「あははーちょっとミスっちゃった」
と頭を掻き照れながら笑いかけてくる小野さんに「どんまいどんまい」と声をかける。
「よし、次スペア取るからな! 見とけよー!」
そう宣言する小野さんだったが、集中力が限界そうなのは明らかだった。
投げるフォームや一連の動作が全体的に雑になり、6本倒すことはできたがスペアを取る事は出来なかった。
「あちゃー! これヤバいかもー」
「俺が8本倒した時点で勝ちだね」
「ガーターしろガーターしろー!」
「はは、今更そんなミスしない」
と言いつつも俺もまぁまぁ疲れている。気を抜いたら普通にミスりそうだ。
後ろで立って、手をうにょうにょしながらミスしろと念を送ってくる小野さんから気を逸らすと、目を瞑り、深く息を吸う。
吐くと同時に目を開き、レーンの先にあるピンを見つめる。
自分の立ち位置を確認。そして助走のステップの感覚、投げる所までイメージすると、一呼吸置いてから身体を動かす。
少し離れた黒い点の目印とピンを交互に見ながら最後まで気を抜かずボールを投げる。
ゴロゴロと音を立てレーンの真ん中を目掛けて勢い良く転がっていき重い衝撃音と共にピンが弾け飛んだ。
「うえっ!? まじ!?」
ピンが全部倒れた事を目視した後にモニターを見てストライクの演出が流れるのを確認すると呆然と立ち尽くしている小野さんに向かって静かに笑いかける。
「俺の勝ちだね」
「うそだー! ここでストライク取るの!? ううぅ、また負けた……」
これで俺の勝ちが確定し、肩の荷が下りた感じがした。
それと同時に集中していたからか、変に力が入っていたのかドッと疲れが襲ってくる。
だが10フレーム目の一投目でストライクを取ったので後二回投げなければいけなかった。
ボールが返ってきたのを確認し、手に取ると先程までとは変わって気楽に二投目、三投目と投げる。
スペアは取れなかったがスコアは悪くなかった。それに小野さんに勝った今はそこまでスコアに対しての拘りは無かった。
「もう1ゲームしよ! って言いたかったけど、ちょっと流石にづがれ゛だぁ゛……」
「それな? 俺もめっちゃ疲れた……」
時間を確認してみるとなんと二人だけだったのにも関わらず40分以上もかかっていた。
それだけ集中していれば疲れもする。
実力的には小野さんの方が圧倒的に上だった。それでも俺が勝てた要因は集中力の差だったと思う。
明らかに小野さんは後半集中力が切れ始めていた。それに比べ俺は常日頃から集中力を持続させるのだけは慣れていた。
ヴァルのランクなんて普通に1試合40分とかかかるし、オーバータイム。スポーツでいうとデュースのような場合は余裕で1時間近くかかったりするのだ。
そのお陰で今小野さんに勝つことができたからゲームも全然捨てたもんじゃない。
「どうする? 俺休憩しても多分もう全然スコア出ない気がするんだけど」
「そうなんだよねー。正直うちもボーリングは疲れた……けど負けたままは嫌!」
「じゃあなんか他のやつで対決するか」
「あー、確かここ卓球とかあるからどうどう?」
正直俺はあまり運動は得意な方ではないのだが、まだ全然時間もあるのでたまにはいいか。
いつも家に引きこもってゲームしたりアニメ見たりとダラダラ過ごすよりかは良いし。
「いいねやろう」
「それも本気でだからね! 手抜いたらダメだよ!?」
「えぇまじか……」
「当たり前っ!」
小野さんはどんだけ競争心が強いんだ……絶対部活とか入ってたら凄い結果を残してそうなんだけどな。
「飲み物買ってくるけど、小野さんは何がいい?」
「えっ、奢ってくれるの!?」
「まぁ、いいよ」
「ほんと?! やったー! ありがとうラギっち!!」
ほんの数百円でそこまで喜んでくれると俺も嬉しくなる。
「じゃあ……オレンジジュースで!」
「おっけー」
オレンジジュースと答えた小野さんに思わず「子供っぽいな」と口から出そうになったが怒られそうなのでやめて自販機に向かった。
俺意外とボーリングの才能があるのでは? とさっきの事を振り返って自信気になるが、俺は直ぐに首を振って否定する。
俺はゲームでも当てはまるが意外と直ぐに何でもできるようになる。でも、そこからが全然上達しない。
だからゲームのランクだってプラチナとかまで行くのは早くてもそこから全然上手くならずにランクは固定のまま。
恐らくボーリングもそうだろう。
俺はきっと何も極める事が出来ない中途半端な人間。ゲームとかに限った話ではなく、人間関係もそうだ。
何でも出来て、スカした態度だったから、それが気に食わなくてイジメられたのだろう。




