第47話 二人きりのリベンジマッチ
日曜の朝10時前、俺は小野さんからボーリングでリベンジの呼び出しを受けて、金曜にも来た施設の中にいた。
スマホで時刻を確認していると、そこへ光に照らされ茶色に輝く髪を左右に揺らし俺を探す小野さんがやって来た。
濃紺のデニムのショートパンツをベルトで絞めて清潔感のある白いTシャツを中に入れ、いかにも夏っぽくて動きやすそうな服装をしていた。低身長ながらも脚がスラッと長く見え、ベルトを締めている事によりウエストの細い部分を強調していてスタイルが良く見えるファッションをしていた。
「あ、おはよーラギっち!! 待った?」
「おはよう小野さん。んや、全然」
「そっか、それならよかった!」
走って来たのか、鎖骨のラインでカールしている毛先が少し乱れていた。
小野さんは手櫛でそれを直しながら「じゃ、早速行こ!」と俺の手を乱雑に取り、待ちきれないと言いたげな表情でエスカレーターに連行された。
それにしてもリベンジだけなら1ゲームで終りそうな気がするんだが、果たして本当にこの時間からやる必要があったのか?
まだ少し眠い瞼を擦りながら今更ながら疑問を抱く。
てか、なんか手握られてるんだけど。逃げられるとでも思ってるのか……?
エレベーターを昇りきっても繋がれたままの手を俺は流石に恥ずかしくなって離そうとする。
「あ、ごめんごめん。ついいつもの癖で」
「いや別に大丈夫」
多分下の子達と出掛ける時にはぐれないように手を繋いでいるのだろう。でもその癖が同級生にも出るっていかがなものなのだろうか。
俺じゃなかったら絶対勘違いしてるだろうなと思う。あ、光や海もしないか。
いや、海ならするか。
早くなる鼓動がバレないように俺は手汗を服で拭い冷静を装う。
「あれ? そういえば他の人は?」
「え? 他の人? いないよ?」
「え、あぁそうなんだ?」
「うん」
小野さんはそれがどうかしたの? とでも言う様な顔をすると、さっさと受付を済ませてレンタルの靴を選んでいた。
てっきり他の人もいるのかと思っていたが、どうやら小野さんと俺の二人きりらしい。まぁそうか、リベンジとか言ってたし小野さんがスコアで負けたのは俺にだけだったから少し考えたら分かる事か。
俺も遅れて靴を借りると待っててくれた小野さんと一緒にレーンに向かう。
「いやぁついこの前来たのになんか朝ってだけで全然違う感じするね。新鮮な感じする!」
両手を広げて大げさに深呼吸する小野さんを横目に、朝という事もありまだ人が少ないボーリング場を見渡して同じ感想を抱いた。
「確かに。それに何か小野さんと二人きりっていうのも変な感じする」
「あはは、確かに確かに! てかてか気になってたんだけどさ、ラギっちとななっちって付き合ってないんだよね?」
小野さんは靴を履きながら唐突に、でも何でもないように軽く尋ねてきた。
「うん、一昨日も言ったけど付き合ってないよ」
「えーやっぱりそうなの? あんだけいつもイチャイチャしてるのに?」
「イチャイチャしてないしてない」
「ふーん? 否定してるけど内心照れてるんじゃないの~?」
ニヤニヤと緩んだ口元を手で隠しながら目を細めてからかわれ、俺は苦笑いを浮かべる。
確かに俺は七月さんと仲良くしているし、いつも言い合ったりふざけたりしているのは楽しい。だけどイチャイチャとかそういうのとは違うと俺は思っている。
「ぶっちゃけななっちの事好きなの? ねぇねぇ好きなの?」
靴を履き終わった小野さんは俺の隣に移動してくると二の腕をつつきながら顔を覗き込んでくる。
「友達としては好きだよ」
小野さんは俺の返答に「えーそうなの?」と少し肩を落としていたが直ぐにまた次の質問が飛んできた。
「恋愛的には好きじゃないの?」
「それ以上聞くならボーリング真剣にやらないけどいい?」
これ以上踏み込んで聞かれるのは正直ちょっと嫌だったので話を濁すと小野さんは「ッ! もう聞かない!」と素直に引いてくれた。
真剣にやってない俺に勝っても嬉しくないだろうし、リベンジの意味が無いと思ってくれたんだろう。
あのまま質問攻めが続いたら掘り下げられて過去の話になる流れだった。流石にあの話をする勇気は俺にはないし、話したくない。できれば思い出したくもない。
けど最近昔の事を思い返す機会が多くて嫌でも当時の記憶が頭を過る。その度に息苦しくて、胸が痛くて心が黒い何かに覆われそうになる。
「ごめんね、質問攻めしちゃって。ボール取り行こ!」
「ううん、全然大丈夫」
俺は静かに深呼吸をして気持ちを落ち着かせながら靴を履き、小野さんと一緒にボールを取りに行った。
よくは見えなかったが、小野さんはちょっと気まずそうな顔をしていたので申し訳ない気持ちが湧いてきた。
小野さんってグイグイ来るけど意外と周りが見えているし、空気も読めるしいい子なんだよな。さっきの質問だって別に悪気があった訳じゃないのも分かるし。
特に会話を交わすことなくボールを選び、自分達のレーンに戻る。
流石にこの空気感のままだと全然楽しくないし、プレイに支障が出るだろうと思った俺はさっきの事は気にしていないと言う風に小野さんに問いかける。
「逆に小野さんは好きな人とかいないの?」
努めて明るい声音で質問すると小野さんは「うちっ?!」と聞かれるとは思っていなかったのか肩を跳ねさせていた。
「うちは~うーん……その……あんまり好きとか分かんなくてさ」
「そうなんだ」
「そうそう、だってみんな好きなんだもん!」
「あはは何それ。まぁ小野さんらしいっちゃらしいか。いつか分かるといいね」
「うん!」
「よし、じゃあリベンジ開始だ! 絶対勝つ! 手加減無しだからね!?」
「勿論。俺も負けないよ」
気まずい空気になったりもしたが、小野さんは黒い細身のベルトを締め直すとボールを持ち、真っ直ぐにピンを見据える。
そしてゆっくりとステップを踏みボールを投げると、小野さんが俺へのリベンジの始まりを告げるように全てのピンをなぎ倒してみせた。




