第36話 妄想と現実
帰って来た母さんと父さんに起こされると何があったか凄く心配されたが、失恋の事を話すのは恥ずかしかったので階段から足を滑らせて落ちたとだけ伝えた。
次の日俺は一応の為に病院に行った。
奇跡的に骨折や捻挫はしてなく、打撲だけで済んだ。それでも治るのには1ヶ月以上かかるらしい。
暫くはジンジン痛むらしいが、俺はそんな事よりもう学校に行きたくない欲が強くなっていた。
どんな顔でみんなと、林さんと会えばいいのか分からない。
林さん達は俺が聞いていた事なんて知る由もないし一方的に気まずいだけだ。
というか、誰も俺の事なんて心配するはずがない。こんな俺の事なんて誰も興味ないんだ。
それに皆にあんな風に思われていると想像するだけで息苦しい。あんな空間にずっといるなんてとてもじゃないが耐えられる気がしない。
寧ろ皆俺が来ない方が嬉しいんじゃないかとまで思えてきた。
それから俺は学校に行かなくなった、親は何かあったのは察してくれたのだろう。俺が話すまで何も聞かないでいてくれた。
部屋に籠るようになり、現実から目を逸らすように俺はアニメを見始めた。あまりアニメは見た事が無かったのだが、見始めるとこれが面白かった。
アニメに出てくるヒロイン達は皆魅力的で、裏表がなく優しくて可愛くて気が付けば俺は二次元にハマっていった。
特にハマったのは嫌な奴が少ない、登場人物皆が優しくて面白いラブコメアニメだったり日常系のアニメだった。
その中での思春期ならではの悩みに共感して、俺はいつしかアニメのような青春劇に憧れるようになった。
現実から目を逸らしてこのまま生きてもいつまでも苦しいまま。心に負った傷は完全に癒えることはないけど、いつまでも後ろを向いていたらダメだとアニメのお陰でそう思えた。
「よし、痩せるぞ。痩せて皆を見返してやるんだ!」
そう決めてから俺は毎日少しずつだがダイエットを始めた。最初は腕立てや腹筋をするのも5回ですらとてつもなくキツかった。
勿論何度もやめたくなった。でもその度にアニメを見てモチベーションを保った。
日に日にできる回数が増えていき目に見えて体重が減っていくのも見ると少しずつ失われた自信が戻ってくる感じがした。
お母さんもお父さんも「凄い痩せたんじゃない?」と言ってくれるほどにまでなると俺は「明日からまた学校頑張ってみる」と告げた。
その時の二人の顔は今見ても思い出せる。
一瞬目を見開いてから心配そうな目をしていた。でもどこかホッとしたような、安心したような優しい表情もしていた。
「無理しなくてもいいんだからね?」
「まぁ、きつかったら直ぐ帰ってきても大丈夫だからな」
失恋しただけだ。そう、俺は失恋しただけ。そんなので二人にこれ以上迷惑を、心配をかける訳にもいかなかった。
家にいても申し訳ない気持ちが湧いてくるだけ。
半年くらいぶりの通学路はとても懐かしく感じ、痩せる前は学校に行くだけでも疲れていたのに今では全然疲れなかったし、学校にも早く着き自分の成長っぷりを再確認することができた。
久しぶりの学校での緊張と不安はまだ全然残っているけど、朝家を出る時ほどでもない。ここまで来たらもうなるようになるしかならない。
緊張で胃の中がかき乱されるような感覚の中、取り敢えず職員室に行くと「お、お前本当に中村か?」と先生は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたのが面白かった。
休んでいる間にも時間は無常にも流れ続ける訳で、既に学年は3年生になっていてクラスも変わっていた。
俺は逆にその方がありがたかったかもしれない。林さんには正直会いたくないから。
これから新しいクラスで頑張って行こう。それでアニメのような青春を送るんだとこの時はそんな都合のいい事を妄想していた。
だが現実は違い、妄想は妄想でしかなかった。
先生と一緒に教室に行くと、視線が一気に集まるのが分かる。皆の目を見ようとしたが、あの時の事がフラッシュバックして床を見る事しか出来なかった。
「え、誰?」
「え、不登校だった人?!」
「あんな人だったんだ」
そんな声が聞こえてくる。
みんな心の中ではどう思っているんだろう。本当は『誰アイツ』とか『よく来れたよな』とか嘲笑っているのかな。
そう思うと息が詰まる。身体が震える。
はは……痩せて少しは自信ついたし大丈夫だろうと思ってたけど全然ダメじゃん………。
皆興味津々で話しかけてくれはしたが、心ではどう思っているのかが怖くて俺は思うようにみんなと会話出来なかった。長い間家族としか話していなかったからというのもあるのだろう。
そしてもう既に出来上がっているグループに入る事も難しく、プラスしてみんな受験勉強に忙しい時期。
仲良くなれる人なんて一人もいなくて、結局一人ぼっちの生活を送る事になった。
休んでいる間も少しは勉強していたので何とか授業とかについていくこともできたし、受験も合格することができ卒業することも出来た。
高校では俺の事を知る人はいても少ないだろうし、心機一転。頑張ろう。




