第30話 人を好きになること
その日の夜、七月さんと一緒にゲームをする約束はしたが配信は付けるのか、何のゲームをするのかなど細かい事を決めていなかったので連絡すると約束の時間まで近かったからか通話がかかって来た。
『もしもーし』
「もしもし」
『配信はね、どうせなら付けるかー! って思ってるよ』
「おっけぇ、じゃあ俺も付けようかな」
『うんうん、りょーかいりょーかい!』
「因みに何するの?」
『ん? 普通にヴァルでいいよ! 今モチベ高いし! あ、そうそうランクもゴールド戻ったから一緒に行けるよ!』
「あー、日向メロさん? だっけ? と一緒にやってた時か」
『そそそそ! 見てたんだ、なんかちょっと恥ずかし』
「今更じゃない?」
『まぁそれもそっか!』
配信は今日も数人が見に来てくれたし、コメントもしてくれた。忙しいのかコメントを少しだけすると直ぐにいなくなってしまう人もいた。
でもそうやって少しの時間だけでも顔を出してくれる事が俺は嬉しかった。
あきななの配信は今日も今日とて盛り上がっていた。バズッた動画のコンビだからか、あきななの視聴者さんも俺のプレイやあきななに入れるツッコミを面白がってくれていた。
ランクの2試合目が終わった時刻は23時30分。微妙な時間だったが、ラスト1試合行こうとあきななに言われスタートする。
最初はボロ負けで速攻負けそうだったのだが、後半攻守を交代してからの盛り返しをして逆転。その後オーバータイムという2ラウンド連取した方が勝ちという展開までもつれこんだ。
スポーツとかでいうデュースのようなものだ。
コメント欄も大盛り上がり。
【いやまじであるぞ】
【勝てる勝てる!】
【いけぇぇ!】
俺もあきななも途中から雑談を忘れてゲームに集中していた。
『ここまで来たら勝とう!』
「もちろん」
味方の野良も同じ気持ちなのか、もう撃ち合う気満々だった。守りでラウンドを全然取れなかったのだが、攻めでは撃ち合うと余裕で勝てていた事から、俺達は敢えてここでサイトで守らずにプッシュして敵を倒し切ろうという作戦。
フィジカルでごり押しだ。
敵も上手くスキルを使ってカバーを取りに来て1vs1になりヒヤッとしながらもラウンドを取得することに成功した。
あとは俺達の得意な攻め。
俺達と同じようにプッシュをしてくるのではと警戒して引き配置でスタートする。すると予想が的中。俺達はスキルを入れて皆でピークし確実に敵を1人倒すことができた。そこで少し遅れてカバーの敵が出てきたのでそれも対処。
5vs3になって人数有利。
俺達は最後まで油断することなくスキルを使い丁寧にサイトに入ってクロスを組み、時間を稼いで見事勝利することができた。
『おっしゃぁぁぁ! おらぁ逆転勝ちだよみんなー!! 凄くない凄くない!?』
「ッスゥー……はぁぁぁぁぁぁ……勝てた」
あきななが興奮からか、言葉遣いが荒くなり視聴者に語り掛ける。
俺はそれを見て元気だなと苦笑しながら、一気に脱力して椅子にもたれかかると疲労感に襲われた。
『やったねラギくん!』
「いやぁ勝てて良かった。まじ熱い試合だったね」
ドクドクとまだ心臓が波打って興奮している。
【ナイスー!】
【GG!】
【激熱展開過ぎた】
【1-12からの逆転まじかw】
【長い戦いだったな……】
見てくれてる人達も皆ドキドキと少し興奮しているようだった。
試合時間は1時間を超えていたのでプレイした俺達も視聴者も流石に疲れが現れた。
0時ちょい過ぎくらいに終わる予定だったのだが、なんともう1時の方が近い状況になっている。
俺とあきななは興奮冷めやらぬまま視聴者と少し雑談をした後に配信を閉じ、一言二言交わすと「おやすみ」と挨拶をして通話を抜けた。
いいプレイの切り抜きとか編集は明日やろうと思い俺はベッドにダイブして横になる。
まだ興奮している脳のせいで直ぐには寝付けないかもなと思っていたが、自分が思っていたよりも疲れていたのかいつの間にか眠っていた。
俺はなんとか朝起きる事ができ遅刻もせずに登校することができたのだが、まだ隣の席の七月さんが来ていなかった。
いつも俺よりも先に来ているのに珍しいなと思いながらものんびりとSNSを眺めることに。
「なぁそこ俺の席……あ、ごめん席替えしたの忘れてた」
「あははは、大丈夫だよ」
分かる、分かるぞ。俺もさっき間違えそうになったもん、うんうん。
教室の前の方での話し声が耳に入り、席替えあるあるだよなぁと心の中で共感しているとチャイムが鳴った。
それと同時に勢いよく扉が開くと、息を切らした七月さんが登校してきた。
「おはよう、珍しいね」
「はぁはぁ、お、おはよう。ちょっと昨日寝付けなくて」
「興奮して?」
「そう、柊くんは直ぐ寝れたの?」
「うん、案外直ぐ寝れた」
「まじか」
七月さんは鞄を机に置いて急いで授業の準備を終えると、ハンカチを取り出して前髪の下からおでこをぽんぽんと優しく拭く。
「ふぅー……」
ようやく息が整ってきたのか顔を少し上げながら今度は首筋を伝う汗を拭う。
その動作が妙に艶やかに見え、このまま見ていたらいけない気がして俺は急いで視線を前に向ける。
「ん? どうかしたの?」
「ん? あぁいや別に?」
「そっか?」
平常心を装うために静かに深呼吸をすると花のような優しい香りが鼻いっぱいに広がり余計に鼓動が早くなった気がした。
なんで女の子って汗かいてもいい匂いするんだ? 俺なんか汗かいたらしっかり臭いぞ? まじで俺も汗かいても良い匂いでいたいな……。
「ふえぇぇー」
汗を拭き終わり一段落したのか七月さんは俺にも聞こえるようにため息を吐く。俺はもう見ても大丈夫かと思い視線を七月さんに向けると目が合う。
「髪が短いとこういう時楽なんだよねー!」
「あぁ確かに? 髪乾かすのも楽だよね」
「そうそう、この楽さを知ってしまったらもうロングには戻れな―い!」
「因みに坊主だともっと楽だよ」
「いや流石にしないって。え、その言いぶり柊くん坊主だった時あるってこと?!」
「いやないけど」
「ないんかい」
あははとお互い笑い合うと隣の席になれて良かったなという思いがじわじわと湧いてくる。
こうしたどうでもいい何気ない会話を気軽に出来る距離、してもそんなに違和感が無い状況。
話も合うし、ノリもいい。七月さんがモテる理由が顔や容姿だけじゃないと分かった気がする。
でも俺は好きにはならない。どれだけ七月さんが魅力的であろうと俺は人を好きになる事が怖いから。
「なんか考え事?」
「ん? うぅん、何でもない。ただぼーっとしてただけ」
「そっか?」
「うん」
正直七月さんや他の異性にドキッとすることは勿論ある。あるのだが、その度に思い出してしまってそのもう一歩先には行けない。
いつかこのトラウマを乗り超えてでも付き合いたいと思える恋が出来るといいな。




